
『みんなの家。』で建築家1年生だった光嶋裕介さん。
その少し前から描いていた
17年間のスピードスケッチをまとめた
『建築のはじまり』という本が出版されました。
私は絵が全く描けないので、
こんなことができたら、すごくいいなあと憧れます。
なぜスケッチをするのか、その瞬間を切り取る大切さ、
その中で自分自身と向き合うことについても
話を伺いました。
担当は「ほぼ日」下尾(しもー)です。
光嶋裕介(こうしま・ゆうすけ)
建築家。一級建築士。博士(建築学)。高知工科大学特任教授。内田樹先生の《凱風館》を設計。合気道四段。作品に《旅人庵》や《桃沢野外活動センター》、《MUSIC Inn Fujieda》など。著作に『幻想都市風景』、『みんなの家。』、『ここちよさの建築』、『建築のはじまり』など。
- ──
- 光嶋さんは、たくさんのスケッチを描かれていますが、
どうしてスケッチをしようと思ったのか、
というところから教えていただけますか。
- 光嶋
- 一言で言うと「世界を知りたい」からですね。
- 僕は日本人の親からアメリカで生まれたという、
外の世界に対する感覚がどこか、
当たり前じゃないところからのスタートだったんです。 - 生まれた時から家族とは日本語をしゃべって、
家の外に出ると英語の世界が広がっているというのは、
何か外の世界に対する「知らなささ」というか、
謎めいた外の世界は内の世界とは違うんだっていう感覚が、
なんとなく物心ついた頃から、ずっとあったんです。
だから、外の世界を知りたいという気持ちがすごく強い。 - 父親が休みごとにグランドキャニオンなど、
アメリカの大自然に連れていってくれて、
「こんな千年木や大きな岩があるんだ」と、
旅をすることで広い世界を知る体験もしてきました。 - 一気に話が飛びますけれども、
大学生になり「世界を知りたい」という気持ちは、
ずっと変わらないまま、僕は建築家になりたくて、
素直に「建築とは何か」模索していく日々において、
視覚情報として体験したものを描き留める
スケッチという行為自体が、
「世界を知りたい」ということの方法論として、
ものすごくしっくりきたんです。 - 僕にとって旅をすることは、
自分の知らない世界に飛び込んで
センス・オブ・ワンダーが駆動し、
見える世界を自分で描き留めたいという衝動に駆られ、
それがスケッチすることの根底にある想いなんです。
- ──
- 写真ではなく、自分で描くことが
いいなと思う理由はなんですか。
- 光嶋
- 写真は「too convenient」というか、
完璧にレンズの位置から見えている世界を
あまりにも正確に、かつ、素早く撮る。 - スケッチはその真逆で、
自分の目という視点も動くし、
カメラでいうとピントが合わない状態もある。
動いている、動かざるを得ない、止まらない、
視点が常にちょっと揺れていて、
写真みたいに正確には描けないんです。 - 写真で撮ったら一発で、
4分割された柱のバランスや光の陰影は
捉えられるのに、スケッチだと
「ああ面倒くさいな。柱、4等分だな」となるわけです。
でもそのおかげで対象と向き合う濃密な時間が生じます。 - 建築との対話は非言語ですから、しゃべってくれない。
スケッチしている間は「お前なんでそこにいるんだよ」
ということをずっと考えるので、結果的には、
設計者と五感で対話しているような気持ちになります。 - だからガウディの建築を見た時に、
もうガウディは天国だけれども、
「あの柱の変な窓は誰からも見えないのに、
なんであるんだろう。あ、あそこから見たら
空が見えるのか」とか、それが三角だったら
「どんな光が入るんだろうか」とか対話するんですよね。 - そして後々読んだ本などで、
ガウディが何を考えていたかということを知り、
その瞬間スケッチしていたものと、
ビビビッと言葉や考え方が合わさることもあるんです。
でも、ずっとできない「答え合わせ」もある。
それでいいと思うんですよ。
- ──
- それは、なぜですか?
- 光嶋
- 設計者が考えたことが必ずしも
建築に対する模範回答ではないということを、
ゆっくりゆっくり、自分も建築家として
建築を設計するようになってわかってきたからです。 - 受験というのは絶対に答え合わせができる。
それだと、速く正確な答えに、
たどり着く人が賢いとされる。 - でも建築学科に入学した瞬間に、
ある先生は「このデザイン面白いね」と言うのに、
ある先生には「これは我が強い」と否定される。 - そこで全てにおいて答え合わせができる、
○×(マルバツ)や点数がつくのって、
不自由だし、おかしいということがわかってきます。
社会に出てからコンペでも、
審査員が違えば、別の案が選ばれる可能性もあります。 - そうなった時に、
自分の中の「建築の地図」という価値観の辞書を
自分でしっかりつくることがすごく大切になります。
ただ教えられた知識を詰め込むのと違って、
自らの経験と思考を重ねて練り合わせた身体的な学びは、
知識としての情報とは比べものになりません。
- ──
- 自分を見つめるためのスケッチは、
どのくらいの時間をかけて描くものなんですか?
- 光嶋
- 建築学科の学生になった1998年、
大学に入学して1年生の時から描いている
1冊の黒いスケッチブックがあります。
ペンだけで克明に、正確に描こうとしたものです。
大きさとしてはA4ぐらい、厚さも1cmちょっとある
108枚のスケッチブックを
1年生の1998年から7年間かけて完成させました。
1枚少なくとも2〜3時間はかかっていました。
学生時代、夏休みにバックパッカーで旅をして、
1日1枚スケッチを描こうと自分の中で決めて、
もう克明に写真のように僕の中で描きました。 - スケッチブックが、あと10枚ぐらいの時に
ドイツで就職しました。ベルリンで住むことは、
旅のような日常でしたが、ドイツで働いても、
「Urlaub(ウアラウプ)」という有給制度があり、
毎年5週間必ず休まなきゃいけない法律があるんです。
僕は4年間いたので、
合計で20週間旅をしていたんですよ。
それでも学生時代とはフィーリングが多少違うので、
少しずつ描いて、2005年に
その黒いスケッチブックが終わりました。 - 描き切るのが大変だったし、
7年間の自分の想い、
僕にとっての「建築の地図」はこれだ
と言えるものが出来ました。
やり切ったんです。
だから、なかなか気軽に2冊目にいけずに、
2005年から2007年は
スケッチしない空白の2年間でした。
(つづきます)
2026-07-02-THU
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建築のはじまりまるで建築の栞のような、読むだけで
私をいろんなところに連れて行ってくれる本です。
この本を片手に、いつか世界中を旅できたら、
どんなにすてきだろうと思っています。
ひとつひとつページをめくるたびに、
光嶋さん目線の、新たな建築に出会えます。
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