絵本作家の酒井駒子さんに
インタビューする機会を得ました。
子どものころの記憶、
お芝居に没頭していた大学時代、
デビューのきっかけ、
山の中にあるアトリエのこと‥‥。
酒井さんにとって、絵本とは何か。
言葉の端々から、伝わってきます。
現在、開催中の個展の会場で、
たくさんの
酒井さんの作品にかこまれながら、
ゆっくりとうかがいました。
全7回、担当はほぼ日の奥野です。

背景:『まばたき』原画(岩崎書店、2014年)

>酒井駒子さんのプロフィール

酒井駒子(さかいこまこ)

1966年生まれ、絵本作家。絵本に『よるくま』『はんなちゃんがめをさましたら』(いずれも偕成社)『ロンパーちゃんとふうせん』(白泉社)など、画文集に『森のノート』(筑摩書房)。『きつねのかみさま』(作 あまんきみこ、ポプラ社)で日本絵本賞、『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)でブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌賞、『ぼく おかあさんのこと…』(文溪堂)でPITCHOU賞(フランス)・銀の石筆賞(オランダ)、『くまとやまねこ』(文 湯本香樹実、河出書房新社)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。『ゆきがやんだら』(学研プラス)はニューヨーク・タイムズの「2009年の子供の絵本最良の10冊」にも選ばれた。

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第3回 大好きだった絵本のこと。

──
以前、佐々木マキさんに
インタビューさせていただいたときに、
佐々木さんは、
他の人のお話に絵をつけるというのは、
あまりやっていないんだけど‥‥。
酒井
ええ。
──
唯一、『不思議の国のアリス』だけは、
もし、お仕事の依頼がきたら、
描くしかないと思ってらっしゃったって。
酒井
そうなんですね。
──
で、あるとき実際にお話が来て、
いま、佐々木マキさんバージョンのアリスが、
本屋さんに並んでいるわけですが、
酒井さんにも、
この物語の絵を描きたいと思っていた、
そういう本はありますか。
酒井
小川未明の『赤い蝋燭と人魚』は、
中学生のころに読んで、
そのときから、
この物語の絵を描いてみたいなあって、
強く、思ってました。
──
強く。
酒井
はい。

──
中学生のときに、すでにですか。
酒井
そうです。
自分で鉛筆でページ割りなんかしたり。
──
あ、実際に描いてみたりも。
酒井
なので、絵本を描くようになってから、
自分から、編集の人に
「これやりたいです」と言ってみたら、
「じゃあ、いいよ」って‥‥。
──
大正時代くらいの作品だと思いますが、
絵本にしては文章も多くて、
けっこう、読みでのある作品ですよね。
でも、そういう経緯で酒井さんが絵を。
酒井
あとは、編集者の方から
「この物語の絵を描きませんか」って、
テキストが送られてきて、
これなら描けるかもしれないと思えば、
お引き受けしたり。
──
他には、どんな絵本がお好きでしたか。
酒井
中学生のころに読んで、
こういう絵本をつくれたらいいなって
思ったのは、
上野紀子さんとなかえよしをさんの
おふたりがつくった
『わたしと魔術師』
という大人向けの絵本ですね。
──
以前にもインタビューで挙げてらした、
表紙がすこしほの暗い感じの‥‥。
酒井
すごくかっこいいなって思ったんです。
当時、中学生だったんですけど。
──
かっこいい、ですか。
酒井
絵はもちろんなんですけど、
装丁も、すごくかっこよかったんです。
表紙にプラスチックのカバーを巻いて、
魔術師と女の子の話なんですけど、
裏表紙は、
トランプを持った魔術師の手なんです。
──
へえ‥‥。
酒井
そこに、モアレ(干渉縞)が入ってる。
プラスチックでできているカバーにも
モアレが入っているので、
カバーを巻くと
うにゃうにゃうにゃ~‥‥って、
何か異空間みたいな感じになるんです。
──
異空間の絵本‥‥!

※ふるい本なので表紙にクモの巣状の気泡が入っています ※ふるい本なので表紙にクモの巣状の気泡が入っています

酒井
仕掛けもすごくかっこいいと思ったし、
絵も物語も、とっても素敵でした。
でもそれは、やっぱり、
子ども向けの絵本という感じではなく、
大人向けだったんです。
──
だから、「かっこいい」と感じた。
酒井
はい。
絵、物語、装丁をふくめた世界観全体、
そういうものが、ぜんぶ。
──
そうやって、
中学生で絵本をつくりたいと思って。
酒井
ええ。
──
実際に、つくりはじめるんですか?
酒井
はい。もちろん中学生なので、
ちゃんとはつくりきれないんですけど。
完成の手前くらいまでは、いったのかなぁ。

──
へええ‥‥。
そうやって絵や絵本の好きな中学生が、
その後、
東京藝術大学へ進まれるわけですよね。
酒井
はい。
──
何をやりたいと思って、藝大へ?
酒井
それが、とくになかったんです。
──
えっ‥‥絵本、じゃなかったんですか。
酒井
はい、大学で何かしたいっていうより、
親もとを離れて、
東京の学校に入りたいと思って(笑)。
──
意外! ‥‥そうなんですか。
中学生のころから脇目もふらずに、
絵本一直線なのかと、
勝手なイメージを抱いていました。
酒井
いえいえ、もちろん絵は好きでしたが、
とくにこういう絵が描きたいとかは、
よくわからなくて。
それより、
たまたまクラスで一緒だった女の子が、
「姉がお芝居やってるから、
一緒に観に行こう」って誘ってくれて、
小劇場のお芝居をはじめて観て、
それが、何だか、すごくおもしろくて。
──
お芝居。
酒井
わたしも、やりたいって思ったんです。
──
お芝居を?
酒井
はい。
ですから、大学時代はお芝居ばっかり。
勉強もせず‥‥。
──
絵は?
酒井
絵も、描かず(笑)。
──
絵も、描かず!
酒井
お芝居ばっかり、やっていたんです。

『よるくま』原画(偕成社、1999年) 『よるくま』原画(偕成社、1999年)

(つづきます)

2021-06-19-SAT

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  • 酒井駒子さん初の大規模個展が、
    立川の素敵なミュージアムで開催中です。
    デビューから最新作までの絵本から、
    約250点の原画が展示されています。
    よるくま、ビロードのうさぎ、
    くまとやまねこ、金曜日の砂糖ちゃん‥‥。
    展示空間そのものや、
    木製の什器も、すばらしい出来栄えです。
    酒井さんの作品世界にいるようで、
    ドキドキしたり、でも、なぜか安心したり。
    つい「みみをすまして」しまう展覧会。
    会期は7月4日(日)までです。
    場所は、立川の「PLAY! MUSEUM」です。
    本当に、おすすめです。
    また、立川のあとは横須賀美術館に巡回。
    会期は
    2021年7月10日(土)〜9月5日(日)。

    詳しいことは特設サイトでご確認を。

    https://play2020.jp/article/komako-sakai/