スウェーデンのホームテキスタイルブランド
「KLIPPAN(クリッパン)」が
福田利之さんのイラストをもとに織り上げた
シュニールコットンのブランケットは、
発売以来、ファンが増え続けているアイテムです。
ずっと触れていたくなるような肌触りと、
部屋に置いてあるだけで、気持ちが豊かになるような
独特の存在感があります。
KLIPPANの日本総輸入元である
イーオクト代表の髙橋百合子さんは、その理由を、
「ものには、それが作られた地域の文化や
考え方が反映されていると思う」と言います。
KLIPPANをはじめとする、さまざまな北欧の商品を
日本に紹介し続けてきた髙橋さんに、
「暮らし」について、普段から考えていることを聞きました。

>髙橋百合子さんプロフィール

髙橋百合子(たかはし ゆりこ)

E.OCT株式会社
代表 髙橋百合子

経歴

1971年 立教大学 文学部 日本文学科卒。
読売新聞社勤務を経て1987年、企画制作会社株式会社オフィスオクト設立。
1990年には環境機器ORWAK(スウェーデン)輸入販売会社、株式会社エンヴァイロテックを設立し環境ビジネスをスタート。
その後、‟もっと自然に、もっと快適に、もっと楽しく”をコンセプトに、エコプロダクツの輸入販売を本格化し、2011年E.OCT株式会社を設立。
‟ひとりひとりの暮らしから、
快適なサスティナブル社会をつくる”
をミッションにサスティナブル社会の実現を目指す事業に取り組んでいる。

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第3回 目指しているのは、よりシンプルなもの

髙橋
私がよく言うことなんですが、
「もの」には、その地域の文化とか生き方、
考え方が反映されているように思うんですね。
この大量生産の社会で、
暮らしを根本から見直していかないと、
チープな壊れやすいものが量産されていく。
じゃあ北欧のものが全部いいのかというと、
そんなこともないと思いますけど、
ただ、スウェーデンは環境問題への浸透度が深くて、
国民全体のコンセンサスがあるから
企業も自然にそちらの方向に向かっているように思いますね。
ーー
サスティナブルを推進しなくちゃとか、
オーガニックじゃないと絶対だめとか、
そういった思想が先ではなくて、
ただ自然にそうなっていく。
髙橋
そうなんです。
KLIPPANは
“SUSTAINABILITY IS IN OUR DNA”
(サスティナビリティは私たちのDNAの中にある)
と言っているんですが、ベースの根付き方が違うんです。

ーー
1月に開催した「生活のたのしみ展」で、
普段デスクワークの私たちが店頭に立って、
お客さまと話す機会が持てたんですね。
お金を払って買ってもらったものが、
これからのその人の暮らしにあるということは、
すごく責任があることだと思うんです。
もしかしたら新しい価値観が生まれるかもしれないですし。
髙橋さんが長年取り組んでいる
「暮らしから変えていく」ということと
共通点があるような気がしました。
髙橋
1日24時間のうち、ざっくり8時間仕事したとして、
往復の通勤時間を除けば、
あとは大体、皆さん家にいるわけですよね。
家の中でどれだけ快適に気持ちよく暮らせるかというのは、
人生にとって重要なことだと思うんです。
たとえば、私がよく例に出すのは、
夏のエアコンは確かに涼しくて気持ちがいいです。
だけど、大きな木の木陰で座って憩うのと、
どっちがほんとに気持ちいいかと言うと‥‥。
ーー
木陰のほうかも‥‥。
髙橋
快適とか気持ち良さに関して、
みんなが目指しているのは、もっとシンプルなものだし、
ほんとうに必要なものがあるように思うんです。
ゴージャスなものでもなんでもなくて、
大げさなお金を出さなくても、
心地良いものは買えると私は思っているんですが、
そこまで探さないまま、その辺で、
安くポンポン買うという感じで
消費行動が起こっている現象を見ると、
日本って、余分なものを
作りすぎちゃっているような気がするんです。
ーー
余分なもの。そうですね。
髙橋
ベースにいいものがないことによって、
それを補うために「便利グッズ」みたいなものが増えて、
あれが結局、家を快適にしない方向に
しているのかもしれませんね。
対処療法というか、
「これこれ、これでいいじゃない」と言って、
ちょっとずつ絆創膏貼ってるような感じ。
ーー
ベストセラーになった、
『フランス人は10着しか服を持たない』を
今ちょっと思い出したんですけど、
この本のタイトルにあるようなことも、
「なぜそうなのか」ということまで
理解しないといけないですよね。
表面的な真似をするのではなく。
髙橋
今は、民主主義という根幹から、
男女平等やLGBTといった枝葉が生まれていますが、
枝葉だけつまんでも、
根幹がないと一過性のものというか、
場当たり的になってしまいますからね。
もちろんね、スウェーデンにも
悪いところはいっぱいあるし、
日本にも良いところは山のようにあるんですけどね。
ただ日本全体が、
「こう生きるぞ」「こういう世界を作るぞ」という
思いのようなものが
希薄になってしまっているように思いますね。

ーー
たしかに、そうですね。
イーオクトで扱われている商品は、
そのあたりの想いも込められているんでしょうか。
髙橋
うちは、サスティナビリティ、デザイン、ファンクション、
の3つの軸があるものだけを扱うという
考えでやっています。
結構いろんなところから扱ってほしいと言われるんですが、
この3つに入らなければ、
どんなに有名なものであっても断っています。
「これがなぜいいか」の理由が言えないものは、
あんまり気持ち的にも推していけないから。
ーー
3つの中にデザインも入っていますが、
すべて見た目もすてきなものばかりですね。
髙橋
そうですね。
たとえば今ここに掛かっているブランケットは、
ミナ ペルホネンの皆川明さんに
原画を描いてもらったんですが、
「今までのKLIPPANにはないものを作ります」
とおっしゃって、
1枚のキャンパスのように描いてくださって。
KLIPPANにとっても
初めての外国人のデザイナーだったんですよ。

ーー
そういう意味では、やっぱりデザインも、
それを買うきっかけというか、
最初に見てもらう説得力にはなるので、大事ですよね。
今回作っていただいた
シュニールコットンのブランケットも、
福田利之さんの、すてきなデザインを
細部まで再現していただいて。
生活のたのしみ展でも販売していたんですけど、
商品を触った方々が口々に
「気持ちいい」と言っていたのが印象的でした。
髙橋
このシュニールコットンのシリーズは、
シングルサイズを買ってシーツとして使う人も
増えているんです。
シーツにこれ以上のものはないという声があって、
素肌に触れるとすっごく気持ちがいいです。
ーー
個人的にも、ずっと使っているんですが、
全然くたびれないんです。
何回じゃぶじゃぶ洗っても大丈夫ですし、
子どもも「気持ちがいいから」って、
いつもこの上で寝てます。
このブランケットに使われている糸を
シュニールコットンというんですよね。
髙橋
ええ。シュニール糸って、
1本の糸にモールのようにモコモコと
短い毛が巻きついていて、ふわふわしているんです。
最初はふにゃふにゃになって失敗したんですが、
試行錯誤して、こういう風にしっかり織って
耐久性のあるものに作り上げています。
原料はオーガニックコットンです。
2013年からすべてのシュニールコットンを
オーガニックコットンにしました。

ーー
(触りながら)
生地がもちもちしてますよね。
髙橋
気持ちがいいでしょ。
このシュニールコットンの素材、
これが全然ダメにならないというか、
お客さまにも、
「もう10年使ってるので、今日は2枚目を買いにきました」
という方がいるくらいです。
ーー
KLIPPANにコットンのシリーズは、
最初からあったんですか?
髙橋
ブランケット作りを始めたときからありましたね。
ウールとコットン、
それと少しですがリネンもあります。
すべて天然繊維100%です。
全体としてはウールの割合が大きくて
コットンの割合は少ないですけども。
もう私はシュニールコットンって、
日本のためにあるかなと思っているほどです。
やっぱり日本って、なんだかんだ暑い時期が長いですよね。
コットンだと夏は気持ちいいし、
もちろん冬の寒いにもあったかいし、
一年中しまわずに使えるところがいい。
ーー
繊維のつぶつぶが
肌にほどよくあたって心地よいんです。
髙橋
そうですね、表面がペタッとしてないですよね。
それでループがないので、
ペットの爪にも引っかからない。
洗濯機で丸洗いもできます。
ーー
これは、ラトビア製なんですね。
髙橋
ラトビアに自社工場があるんです。
ラトビアは、ソ連が占領していた時代が終わって、
ソ連が引き上げた後、
いろんな工場が残ったんです。
その時に、国がものすごく大変で、
いろんな国から投資してくれる人を
呼ばなくちゃならなくなりました。
一方、KLIPPANは当初、紡績の会社でした。
スウェーデンでは、羊を飼っている人たちが、
毛を刈ったものを持っていくと、
いわゆる精米所みたいに、
糸にしてくれるところがあるんです。
その糸を今度はブランケットにしてもらうところがあって。
そんな伝統のブランケットが少しずつ廃れていくのを、
KLIPPANの現会長とデザイナーが問題視して、
それまで最終製品は作ってなかったんですけど、
「ブランケットを作ろう」と。
それで、ラトビアに行ったら
ブランケットの工場があったので、
大決心をして、そこの工場を買収したんですね。
KLIPPANというのはスウエーデンの町の名前なんですが、
創業以来、ずっとその町に会社と大きな工場があって、
紡績業をやっていたんです。
ところが、そのラトビアの工場を買うために、
お金が必要だったから、
自社の工場の土地を売ったんだと言ってましたね。
最初はもう全然だめで、何度も工場に行っては
試行錯誤してやっとできるようになったんです。
ーー
一大決心と、試行錯誤が合わさって、今の形になったんですね。
そして、出発は紡績会社だったんですか。
髙橋
そう。紡績業なので、
まずは原毛を糸にしていて、
その後、それを織ってブランケットにしはじめたのが
1992年からですね。
世界中のほとんどのブランケットを作っている
ブランドメーカーは糸を買っていると思うんですね。
だけど、ここは原毛からです。
彼らは「だから責任が持てるんだよ」と言ってますよね。
ーー
糸から作って、最後まで責任を持って‥‥
という話をうかがうと、
ますます貴重なものだなと思いますね。
これからもたくさんの方に広めていきたいなと思います。
今日はありがとうございました。
髙橋
実際に使ってくださっていて、
その上でいいと言ってくださったのがやっぱりうれしいですね。
今度はこちらがインタビューさせてもらいたいです(笑)。

(おわります)

2025-04-18-FRI

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    ほぼ日ハラマキ