よく見かけるのに
あまり知らないもの‥‥

それは雲です。

毎日雲を愛でている
「すごすぎる天気の図鑑」シリーズの著者で
雲研究者の荒木健太郎さんに、
雲の魅力と、
災害などをもたらす雲とうまく付き合う方法を
教えてもらいました。
雲が身近に感じられて、
空を見上げるのがたのしくなる。
そんな授業です。
担当はほぼ日のかごしまです。

>荒木健太郎さんプロフィール

荒木健太郎(あらきけんたろう)

気象庁気象研究所主任研究官。
1984年生まれ、茨城県出身。
慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。
地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。
専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、
気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取り組んでいる。
映画『天気の子』気象監修。
『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。
著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ(KADOKAWA)、
『空となかよくなる天気の写真えほん』シリーズ(金の星社)、
『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)

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第7回 「ゲリラ豪雨」をただの通り雨にする。

──
雲って幻想的な景色を見せてくれるけれど、
一方で災害を引き起こしたりもしますよね?
今度は雲の怖さについて教えてください。
荒木
もちろんです。
積乱雲は人間らしいという話をしましたけれど、
やっぱり災害もたらす典型的な雲でもあるので、
注意が必要です。
積乱雲って雷雲と呼ばれています。
寿命が30分から1時間程度と短く、
しかも局地的。
横方向の広がりが数キロから十数キロで、
天気の急変をもたらす雲なんですね。
突風、大雨ももたらすし、雹を降らせたり、
落雷の原因にも。
こちらをご覧ください。
積乱雲の動画なんですけど、
雷がどんどん発生しているんですね。
しかも単体ではなく、
複数の積乱雲が隣接して発生している状況になっていて、
数時間くらいにわたって雷雨をもたらしました。

▲酒井清大さん提供 ▲酒井清大さん提供

──
数時間にわたって雷とは、怖いですね。
荒木
一つの積乱雲がもたらす雨は
30分から1時間の間に数十ミリ程度と言われていますが、
水害が発生するときは
1時間100mm級の雨が降ることもあるんですよ。
この1時間100mmの雨と数字で言われても
あまりイメージしにくいじゃないですか。
──
はい。10cmということだから多そうではありますが、
イメージしにくいです。
荒木
1時間100mmの雨ってどのぐらいかというと、
1時間に10cmの深さの水が溜まる雨が降るということ。

荒木
大したことないと思われるかもしれませんが
1平方メートルに10cmの水があると
その水の重さって 100kgなんですよ。
100kg っていうことは1時間で
1平方メートルに体重100kgの人が1人、
つまり小ぶりなお相撲さんが降ってくるということ
なんですよ。
──
こぶりなお相撲さんなら想像しやすいです。
荒木
集中豪雨みたいなの起こるとき
空一面にお相撲さん力士が1平方メートルごとに
1時間に1人、落ちてくると思うと結構やばいですよね。
──
そうですね。重みでいろんな物が潰れそうです。
荒木
実際には一気に降ってくるのではなく、
1時間かけて降り続き、多量の水が地面に浸み込んだり、
河川や低地に流れていったりします。
これが、災害を引き起こす原因になっています。
こちらの写真が実際に1時間に100mm級の雨が降って、
それが数時間続いた状況で発生した土砂災害です。

荒木
1時間に100mmというような言葉を
テレビとかメディアで見聞きしたときには
本当に大変なことが起こっていると感じてもらえると
いいと思います。
特に線状降水帯みたいなものが発生すると、
水害をもたらす大雨になるんです。
けれど、今、「顕著な大雨に関する気象情報」を
気象庁が発表するようになりました。
これは線状降水帯が発生したとき、
大規模な水害が起こる直前に発表される情報です。
これが発表されたら本当に危ない状況になっています。
その他にも気象庁が緊急会見しているときには
特別警報級のとき。
これらの情報をうまく使ってほしいです。

──
やはりニュースを見ることは大事ですね。
「1時間に100mmを超える雨」とか、
気象庁の方が緊急会見をしていたら要注意と。
荒木
情報をうまく使って備えていただくのが
いいと思っています。
いろんな情報から「空がまずい状況」ということは
察知できる可能性はあると思います。
また、ぜひご活用いただきたいのが、
観天望気という技術です。
これは雲や空を見て、天気の変化を予想するものです。
積乱雲って発生前の予測が難しい分、
空を見て天気の急変を察知するという観天望気が
有効な場面が割とあるんです。
基本的には雲を見て
積雲(綿のような形をした雲)の発生を察知するというもの。
こちらは積乱雲になる前の積雲。
積雲が上方向に成長した「雄大積雲」の頭の上に
滑らかな見た目の雲が帽子をかぶっているような感じです。
これを頭巾雲といいます。
これはまさにこの雄大積雲が発達している最中という証拠なので、
この後に積乱雲に発達するかもしれないと読めます。

▲頭巾雲 ▲頭巾雲

荒木
また積乱雲が限界まで発達すると
それ以上、上方向に行けなくて
横に広がっていきながらかなとこ雲を作ります。
まさにこの下では土砂降りの雷雲になっていて、
限界まで発達している積乱雲がそこにある証拠です。

▲かなとこ雲 ▲かなとこ雲

──
少し先にこの雲が見えたら
その下では大雨なんですね。
荒木
さらにそれが上空の風に流されてくると
青空が広がっていたのに、
空の一方向からなめらかな見た目の濃い雲が
広がってくることがあります。
濃密積雲と言って、その先に限界まで発達した積乱雲が
ある可能性が高いと読めます。

▲濃密巻雲 ▲濃密巻雲

荒木
かなとこ雲とか、濃密巻雲の
雲の底の部分に注目してみると、
こんな感じのコブ状の見た目の雲が現れることがあります。
乳房雲といってこれが自分の真上に現れたら、
積乱雲が自分のほうに向かってきているかもしれない。

▲乳房雲 ▲乳房雲

──
「逃げろ!」というサインですね。
屋内など安全なところに一旦避難したいです。
荒木
これらの雲を見かけたときは、
まずは「ナウキャスト」などの
雨雲レーダーの情報を使って今どこに積乱雲がいるかを
チェックすることを習慣づけると
とってもいいなと思います。
天気予報は便利で
15時間先までの雨量予測の情報「今後の雨」もあるので、
これで大体どこに降りそうかを
事前にチェックしておいて、
実際に出かけた先で
「ちょっと空模様がおかしいぞ」となったら、
さっきの雨雲レーダーで、
今どこに積乱雲がいるかをチェックするといいです。
レーダーはずっと見ているわけにいかないので、
天気予報で「大気の状態不安定」とか、
「ところにより雷」、「竜巻」などのキーワードを聞いたときには
天気が急変する可能性があると考えて
いつもより空の様子を気にかけていただけると、
突然の雨に降られて困ることは少なくなると思います。
──
突然の雨で困ったということ、よくあります。
困らないためにも準備をということですね。
荒木
「ゲリラ豪雨」とよく言われますけど、
「ゲリラ豪雨」という言葉は正式な気象用語ではありません。
突然、発生するとか
予測が難しいという意味合いがありますが、
割と予測できていたり捉えられたりする場合があって、
レーダーで見ていると移動してくるのがわかれば、
ゲリラじゃない。
ただの通り雨になる。
あらかじめ来るのがわかれば、
土砂降りになる前に建物の中に入るとか
避難行動できるので。
──
おっしゃるとおりです。
荒木
最初のほうにお話していた虹。
虹も実は不安定な空では出会いやすい現象です。
お天気雨みたいなときは特に見やすい現象なので
きれいな空を見るためにレーダーを使ったりして
積乱雲とうまい距離感で付き合っていけると
防災にもつながるんじゃないかな思っています。
──
虹だったり彩雲だったりを見るためにも
空をよくみるようにします。
荒木
雲を楽しんでもらえたら嬉しいし、
防災にもつなげていっていただけると嬉しいですね。
あと、いい雲に出会ったら、
私に写真送ってもらってもいいでしょうか。
DMを開放していますので、Xに送っていただけると。

▲ほぼ日の學校がある神田の空を見に行きました。
この日の空は、雲が一つもないくらい晴天でした。
「日没の時間からその後30分くらいは、薄明と言ってきれいな空が見られます」と教えてくれる荒木さん。 ▲ほぼ日の學校がある神田の空を見に行きました。 この日の空は、雲が一つもないくらい晴天でした。 「日没の時間からその後30分くらいは、薄明と言ってきれいな空が見られます」と教えてくれる荒木さん。

▲その日の日没後15分の様子。空の色が何色にもなり幻想的な雰囲気に。 ▲その日の日没後15分の様子。空の色が何色にもなり幻想的な雰囲気に。

(終わります。最後まで読んでいただきありがとうございました。)

2025-04-27-SUN

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  • 「すごすぎる天気の図鑑」シリーズの
    スピンオフシリーズの
    第2弾は防災がテーマ。
    豪雨、台風、猛暑などの異常気象、
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