よく見かけるのに
あまり知らないもの‥‥

それは雲です。

毎日雲を愛でている
「すごすぎる天気の図鑑」シリーズの著者で
雲研究者の荒木健太郎さんに、
雲の魅力と、
災害などをもたらす雲とうまく付き合う方法を
教えてもらいました。
雲が身近に感じられて、
空を見上げるのがたのしくなる。
そんな授業です。
担当はほぼ日のかごしまです。

>荒木健太郎さんプロフィール

荒木健太郎(あらきけんたろう)

気象庁気象研究所主任研究官。
1984年生まれ、茨城県出身。
慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。
地方気象台で予報・観測業務に従事した後、現職に至る。
専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、
気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取り組んでいる。
映画『天気の子』気象監修。
『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。
著書に『すごすぎる天気の図鑑』シリーズ(KADOKAWA)、
『空となかよくなる天気の写真えほん』シリーズ(金の星社)、
『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)

前へ目次ページへ次へ

第3回 雪の結晶にいろいろな形ができるわけ。

──
荒木さんは
もともとは雪の研究もしていたんですか?
荒木
大学を出て2年間、新潟の気象台にいまして、
そこで日本海側の雪の研究を始めました。
関東に戻ってきてからは太平洋側の雪の研究をしていました。
南岸低気圧という
冬に太平洋側に雪を降らせる低気圧があって、
その研究が全然進んでなかったんですね。
 
2014年2月に 関東甲信で歴史的ともいえる
大雪が起こったのですけど、
この大雪をきっかけに
いろいろな分野の研究者と一緒に研究を始めて、
わかったことが増えました。
それでもまだ予測が外れることがあります。
まだわからないことが残っているんです。
──
そのときのこと、おぼえています。
朝から車で出かけていたのですがどんどん雪が積もって
怖かったです。
荒木
そのあたりから雲友(SNSなどを介して、
知り合った雲好きな人たち)に協力してもらって
研究していることがあります。
雪の結晶の写真を撮って、
「#関東雪結晶」というハッシュタグをつけて 、
それを場所と時間を簡単に添えて
Xに投稿してもらっています。

荒木
雪の結晶って「雪は天から贈られた手紙である」という
物理学者の中谷宇吉郎先生の言葉があるんです。
 
彼は低温実験室で気温とか湿度の条件を変えて、
雪の結晶がどのように成長するかを
実験的に調べたんです。
わかってきたのは、気温と水蒸気の量によって
雪の結晶の形が変わること。
ということは降ってきた雪の結晶の形や状態を調べることで
空の様子がわかるということなんです。
──
雪の結晶って、いろんな形があるけれど、
気温や水蒸気量の違いで形が変わるんですね。
荒木
実際に雪が降っているときに雲の中を調べるのは、
気球を揚げるか、
もしくは飛行機などで中に突っ込んで調べることぐらいしか
今のところ手立てがなくて。
一応レーダーでもわかるにはわかるんですけど、
あくまで推定値で、そこに何があるか詳しくはわからない。
わかってないところを調べるために
自分自身でも雪の結晶を撮影していたんですけど、
そもそも年に数回あるかないかぐらいの頻度で
しかも降ったり降らなかったりだから、
データが全然取れないんですよ。
一つの雪で、データ数を増やしたいので、
雲友の皆さんに協力してくださいとお願いして、
雪の結晶の写真をスマホで撮って送ってもらったんです。
──
雪が降っているときにいろいろなところに
観測に出かけるのはできないですよね。
荒木
雲友さんのおかげで広い範囲がわかるようになります。
そういった研究でわかってきたのが、
低気圧の種類によって降る雪の結晶の種類が違って
特に前線を伴っている低気圧の場合には
砲弾と呼ばれている結晶や、角柱とか交差角板とか
マイナス20度以下の環境で成長する低温型結晶が多い
ということがわかってきました。
同じ降雪量が予想されて、
大雪注意報とか大雪警報が出ている場合でも
低温型結晶が多いと雪の質がサラサラするんです。
すると降ったそばから流れていく。
つまり表層雪崩が起こりやすいタイプの雪なんです。

──
結晶の形で、雪崩のリスクがわかるんですか。
荒木
そうなんですよ。
雪の結晶の観測は
雲友さん含めた観測の結果からわかったことです。
つまり「シチズンサイエンス」という
市民参加型の観測の研究なんですね。
いま気象庁が防災情報を発表する中にも
雲友さんをはじめ皆さんの知見が
フィードバックされているんです。
南岸低気圧といっても前線を伴うものもあれば、
前線を伴わない背が低いものもある。
結構いろいろ種類があるので、
こういう低気圧のときは雪崩のリスクが高いと判断して
早めになだれ注意報を発表してもらうとか。
そういう防災情報につながっていっている良い例です。
──
自分が撮った雪の結晶と
気象庁の注意報や警報を出すことがつながっているなんて
うれしいことですね。
荒木
そうですね。
自分で雪の結晶をスマホで撮るのも面白いんですよ。
──
スマホにマクロレンズとか特別なレンズを付けて
撮影するんですか?
荒木
最近のスマホではマクロレンズつけなくても
マクロ撮影モードで撮れるんです。
ただマクロレンズつけるか、ルーペを使用したほうが
より鮮明に撮れます。
──
マクロレンズをつけて、小さな草花を撮ったりしています。
それと同じように撮れますか?
荒木
花もいいですよね。
雪の結晶のサイズって大きいと数mmありますが、
1mmぐらいのサイズのもある。
練習にチリメンジャコに入っている
チリメンモンスターを撮っている人もいます。
おすすめしているのは、霜で練習すること。
特に太平洋側の地域だと
冬は晴れるので、冷え込んでいる朝は霜が降りるんですよ。
霜の結晶は雪の結晶とサイズが同じぐらいなので、
それを朝ちょっと早起きして撮る。
「霜活」と名付けています。

──
朝に霜活!いいですね。
荒木
もう6、7年くらい前からやってます。
撮り方もいろいろあるんですけど、
簡単なのはちょっと色が濃い布地のようなもので
受け取って、手首を地面につけて撮る。
手首を固定しないとブレやすいんですよね。
ちょっとした手ぶれでピントが合わなくなっちゃうので。
雪の結晶を撮影するときの
おすすめはフェルトをバックに撮ること。
青とか黒とかのフェルトだと
雪の結晶が落ちてきたときに壊れずに撮りやすいんです。
──
フェルトがいいんですね。
知りませんでした。今度やってみます。

(つづきます)

2025-04-23-WED

前へ目次ページへ次へ
  • 「すごすぎる天気の図鑑」シリーズの
    スピンオフシリーズの
    第2弾は防災がテーマ。
    豪雨、台風、猛暑などの異常気象、
    地震や噴火が起きる現象を
    荒木健太郎さんがわかりやすく解説。
    さらにそれに備える方法も
    教えてくれています。
    (Amazon.co.jpのページへ)