
「相手の気持ちがわからない」と
悩んだことはありますか?
人は、他人の気持ちを
どれくらいわかっているのでしょうか。
そもそも私たちは、
人間関係について悩みすぎでしょうか?
『なぜ心を読みすぎるのか』の著者であり
社会心理学者の唐沢かおりさんに、
人間関係のあれこれを相談しました。
聞き手は、相手の気持ちを推測するあまり、
人をごはんに誘うのをためらってしまう、
ほぼ日の玉木です。
唐沢かおり(からさわ・かおり)
京都府生まれ、社会心理学者。
東京大学大学院人文社会系研究科教授。
著書に『なぜ心を読みすぎるのか:
みきわめと対人関係の心理学』、
『「気が利く」とはどういうことか
──対人関係の心理学
(ちくま新書 1892)』など。
- ──
- 東京大学で社会心理学を研究されている
唐沢かおりさんに、「人間関係」を中心に
お話をうかがいます。
- 唐沢
- はい、よろしくお願いします。
- ──
- 私自身、「うまく人間関係をつくっていきたい」
と思っているんですが‥‥「そもそも
どうして私たちは、こんなに人間関係について
考えているんだろうか。
人間関係のことを考えすぎているんじゃないか」
と感じたんです。
- 唐沢
- 私たちが人間関係にすごく関心を持つのは、
ある意味、自然なことです。
人間って「社会的動物」と
呼ばれることがあります。
仮に「ひとりで生きる」ことを想像すると、
食べるものをどう手に入れるかといった
基本的なところから、問題が出てきます。
ヒトはヒトと一緒にいることで、
つまり集団でいることで生き延びてきたという
性質があるのです。 - 人間だけでなく、
多くの動物は群れることで生き延びます。
「群れる」ために必要な心の仕組みは、
私たちが進化してきた過程で形づくられてきたものです。
なので、他者と一緒にいることを求める気持ちは
私たちのなかに深く残っているんです。 - 実際、現在も私たちは生活のほとんどで、
他人と一緒になにかをしています。
ひとりで考えごとをしていても、
多くは他人がかかわる仕事のことや、
他人との付き合いをどうしようといったことなので、
たくさんの時間が「人間関係」で占められています。
人間関係がうまくいくかどうかで、
幸せかどうかが決まると言っても
過言ではありません。
いまの私たちが人間関係について考えがちなのは、
そういったことが背景にあると思います。
- ──
- やっぱり、人間関係についてしっかり考えたほうが、
幸せになれるんでしょうか。
- 唐沢
- うーん、じつは、人間関係を考えたら
幸福になれるとは限らないです。
ただ、考えたほうが、自分の生活を
コントロールできるだろうとは思います。
誰かと敵対的になる環境にはリスクがあるから、
それを回避して自分の生活を守るために、
いい人間関係を築くことを考えるんです。
- ──
- 現代は、以前より複雑になって、
予想がつかないことが多い「情報化社会」
とも言われます。
だからこそ、よけいに人間関係で悩む傾向が
大きくなるのでしょうか。
- 唐沢
- 単純な人間関係だけでは生活できない時代に
なったと思います。
たとえば仕事場や家庭、さらにネット社会のように、
ひとりの人がいろんなコミュニティに属していて。
自分が属しているコミュニティどうしの関係も、
複雑だったりします。
「こっちにはあんなことがある、
あっちにもこんなことがある」と、
外のいろんなコミュニティの情報も
入ってくるので、それらと自分のかかわりを
考えることも多いでしょう。 - 考えるのは悪いことではなくて、
むしろ、考えないほうが危ないかもしれません。
でも、「考えすぎる」といいますか‥‥
他人の目に過剰に囚われると、
それはストレスになってしまいます。
さきほど言ったとおり、
人間関係がうまくいくかどうかは
幸せを大きく左右するので、どうしても気になって、
考えすぎてしまうことはあると思いますが。
- ──
- これは永遠のテーマなのかもしれないですけど、
他人の心を、私たちは読み取れているんでしょうか。
- 唐沢
- なんとなく
「この人、いまこんなことを考えているな」
と憶測することは、私たちは普段からやっています。
そして、その憶測は
大きく外れてはいないはずです。
ある程度当てられていないと、
一緒に仕事をしたりするのは難しいですから。
「心を読む」というと、
なんだかちょっと怪しい感じがしますが、
言い換えれば相手の感情を推測、
推論しているということです。 - 心理学では「子どもがどうやって他人の気持ちを
わかるようになるのか」を
研究している分野もあるくらい、
その推論は社会生活においてすごく大事なんです。
- ──
- たしかに、子どものころはよく
「人の気持ちがわかる子になりなさい」
と言われますね。
- 唐沢
- 国語の授業でも「登場人物の気持ちを考えなさい」
とか。
私も、親としては、自分の子どもが
人の気持ちのわからへん子になったら、
困ると思います。
人を思いやるには、ある程度相手の気持ちを
わかっていないといけないから、
その意味では「人の気持ちがわかるようになる」のは
推奨されることかもしれません。 - ただ、たとえば会社の上司に対して
「きょうは機嫌が悪いのかな」、
「私の仕事に満足していないんだろうか」と、
いろいろ考えてしまって、
本人からなにも言われていなくても、
落ち込んだりすることがありますよね。
これは、上司の気持ちを慮ったり、
自分の評価を高めることにつながる場合もあるので、
一概に「よくない」とは言えません。
でも、相手の感情を考えることに気を取られすぎて、
自分がしんどい思いをしてしまうのは、
不幸なことですね。 - 人は「他人は自分のことをすごく見ている」
と思いがちですが、実際はそこまでお互いに
注目し合っていません。
「相手が自分をわかっている」と考えすぎると、
行動のひとつひとつに気を遣って
苦しくなってしまいます。
なので
「他人はそれほど自分のことをわかっていないし、
自分も他人のことをそれほどわかっていない」
ということは、
ちょっと気をつけるといいと思います。
(明日に続きます)
2026-02-17-TUE
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