2020年の年末、ほぼ日は
神田の町に引っ越してきました。
はじめてのこの町をもっと知りたいし、
もっと知ってほしいと思っています。
そこで、日本全国のすべての市町村を回った
若き写真家、かつおさんこと仁科勝介さんに
神田の町を撮ってもらうことにしました。
自由にやってください、かつおさん。

>かつおさんのプロフィール

かつお|仁科勝介(にしなかつすけ)

写真家。1996年岡山県生まれ。
広島大学経済学部卒。
2018年3月に市町村一周の旅を始め、
2020年1月に全1741の市町村巡りを達成。
2020年の8月には旅の記録をまとめた本、
「ふるさとの手帖」(KADOKAWA)を出版。
写真館勤務を経て2020年9月からは独立。

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#042

『障害者福祉センター「えみふる」さんへ行く(前編)』

僕は障害者福祉施設へ行ったことがない。
いや、あったのかもしれない。
けれど、思い出せない。
だからといって、障がいのある方に対して、
違う目線を持って生きてきたつもりはない。
…そうか、知らないんだ。知らずに生きてきたんだ。

そう思わされたのは、いまこうして障害者福祉施設で、
写真を撮らせていただいているから。
場所は千代田区立障害者福祉センター「えみふる」さん。
御茶ノ水のオフィス街に位置し、
多くの人が出歩くお昼時に合わせて、
えみふるさんでは週に一度ほど、パン販売を行っている。
販売員は施設の職員さんだけではない。
えみふるさんを利用する障がいのある方も、
販売員のひとりだ。
とりわけ、のりまささん(写真中央の方)は、
えみふるさんのパン販売におけるエース的存在。
のりまささんは普段、えみふるさんの
生活介護に通っている。そしてパン販売の日になれば、
店頭に立って、地域のお客さんと接している。
のりまささんの顔を覚えて、
会話するためにパンを買いに来る常連さんもいる。
「今日も元気だね!」と。

一度話が変わるけれど、なぜ、
えみふるさんにお伺いさせてもらったのかというと、
メッセージを頂戴したからだ。
連載をつづけさせていただく中で、
メッセージを届けてくださることがある。
公式ページの『感想を送る』からのメッセージも、
編集者さんから全て転送していただいて、
全て拝読している。
その言葉たちはものすごく、力が湧く。
一通のメッセージだけでも、
透き通った湧水を口にするように、
体にエネルギーを届けてくれる。
メッセージを送る作業は、とても手間がかかるはずなのに、
それでも血の通った言葉を、
届けてくださる方がいることが、何より嬉しい。

その中で、えみふるさんの職員の方が、
一通のメッセージを届けてくださった。
内容をまとめれば、えみふるさんでは地域との
交流を深めようとしていること。
その取り組みのひとつとして、地域の方に向けて、
週に一度ほどパン販売を行なっていること。
近くにいる際は、是非お立ち寄りください、と。

その後折り返しの返信をしたのち、
パン販売の時間に合わせてえみふるさんへ
お伺いしたのだった。
目の前では、のりまささんも職員の方も、
一緒になってパンを売っている。
「おいしいパンはいかがですか〜!」
職員さんは遠くから声をかけ、
のりまささんはお客さんに、
パン用のカゴを手渡していく。
そして仕入れられた100個ほどのパンは、
1時間のうちに完売する。

「地域との交流を深めたい」という言葉は、
世の中のあらゆるシーンで用いられてきて、
どこか薄く感じてしまうかもしれない。
僕も神田を巡ることで、地域との交流を深めたい…
と口にするのは簡単だ。
しかし、冒頭で「知らずに生きてきた」と呟いたように、
障がいのある方と、地域のつながりというものは、
想像できるほどに簡単なわけではないのだ。
のちに職員さんにお話を伺うと、
「地域との交流をもっと持ちたいんです」
という言葉が、何度も、何度も発せられた。
なぜなら、職員さんたちは知っているから。
障がいのある方が、社会との
つながりを持つことの大変さを。
もちろん、障がいにも軽さや重さ、種類があるから、
全員が揃ってつながりを持つということは、
難しいかもしれない。
しかし、つながりを持とうとすれば持てる人に、
何も手を差し伸べないのはどうだろうか。
人は誰にでも、社会とつながる権利がある。
つながって、関わり合いながら生きていく権利がある。
その思いで、パン販売が2年前からはじまったのだ。

パンを売る様子を見学しているとき、
職員さんがボソッと呟いた。
「パン販売は、利益目的ではないです。
大切な手段なんです。」

パンを売る、のりまささんの
にこやかな表情が僕は忘れられない。

(後編へ続く)

※次回は、7/8(木)更新です。

2021-07-05-MON

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