いざ、就活をはじめると、
希望する仕事のイメージや自分のことが
「もやもや」して、
考えがストップしてしまいがちです。
そんなかたのための就活授業
「自分のなかの『もやもや』を言葉にする」を
2019年12月に、ほぼ日の大会議室で実施しました。
この記事は、その授業を元に編集しました。
自分のなかの思いや志を探して、
言葉にするための方法論が学べます。
就活をはじめるための、最初の一歩にしてください。

>梅田悟司さんプロフィール

梅田 悟司(うめだ さとし)

プロフィール
講師 梅田悟司さん

梅田さんは、上智大学大学院理工学研究科修了。
レコード会社を立ち上げた後、電通入社。
マーケティングプランナーを経て、コピーライターに。
国内外の広告賞・マーケティング賞をはじめ、
カンヌ広告賞など、受賞歴多数。
代表作に、
ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、
タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」
などがあります。
そして、自らのコピーワークの方法論を
書籍『言葉にできるは武器になる。』で公開。
シリーズ累計部数は30万部になっています。
現在は、インクルージョン・ジャパン株式会社で
コミュニケーション・ディレクターとして
活躍されています。

「言葉にできる」は武器になる。
気持ちを「言葉にできる」魔法のノート

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第5回 [質疑応答]梅田さんへ、質問です。

最後に、質疑応答の時間に出た
みなさんと梅田さんのやりとりをご紹介します。

■ボキャブラリーの増やしかたは?

学生A
ボキャブラリーがあればあるほど、
たどり着く結論や思考が深まると思っています。
それについてどう思われますか?
そして、それが正しいならば、
ボキャブラリーはどう増やせばいいのでしょうか。
梅田
ご質問ありがとうございます。
言葉を知っていれば知っているほど、
思考力が高まるというのは、その通りだと思います。
けれども、言葉を知っていなければ、
思考力は高まらないかというと、
そうではないと思います。
「この人の話が響いた」というとき、
実は、難しい言葉はひとつも使っていないんです。
その場合は、みんなが知っている言葉の意味が
深いんですよ。
たとえば「人生」という言葉ひとつとっても、
人によって、捉えている意味合いが違いますよね。
普通は「寿命」とか「生きていく過程」のことが
「人生」かもしれないけれど、
人によっては
「自分がすべきことにたどり着くこと」を
人生だと考える人もいる。
「自分がなすべきことを見つけていく
旅のようなものが人生だ」と思う人もいますよね。
これは、もはや言葉の問題ではありません。
「単語やボキャブラリーをどれくらい知っているか」
より、
「その言葉の自分なりの意味合いを持っている人」が強い。
当たり前のように使っている言葉を、
当たり前に理解するだけではなくて、
「自分なりにその言葉をどう解釈するのか」
を見つけていく作業が、大事ですね。
言葉自体を増やそうとするのではなく、
言葉の意味合いに対して、
もっと意識を向けていくのが重要だと思います。

■世のなか的な正解を求めてしまう。

学生B
世のなか的な正解に、自分のなかの正解を求めてしまう
教育を受けてきました。
今日も、シートに書き出した言葉のなかから
深める言葉を選ぶときに、つい、
いい子ちゃん的な言葉を選んでいる気がして‥‥。
梅田
「書いているけど、これ、自分の本心じゃないな」
みたいなことですよね。わかります。
「いい子ちゃん的な答えを出してしまう」のは、
みんなが陥っている罠だと思うので、
すごくいい質問をありがとうございます。
いい子ちゃん的な答えのことを、
僕は“最適解”と呼んでいます。
その場で「なにを言えばいいのか」を、
空気を読んで答えてしまう。
「こう言えば、テストの点数が高くなるだろう」
「こう言えば、面接官が自分を高く評価するだろう」
邪推も含めて、そういう最適な答えを
ついつい出してしまうんですよね。
でもそういう答えって、
「この人の話は理路整然として聞きやすいけれど、
まったく心に響かない」
ってことがあるじゃないですか。それですよね。
「なにが人の心を揺さぶるか」は別なんです。
そこで強いのは“納得解”を持っている人です。
一般的に考えれば、その考え方や主張は間違っているけれど、
「僕はこれがいちばん正しいと思っている」状態です。
みなさんが“最適解”を選ぶいちばんの理由は、
「怖れ」です。
面接の場合は「落ちる怖れ」とか
「こいつバカだな」「なにも考えてないな」と
思われることへの恐れ。
だから、“最適解”という壁を作るんです。
「こう言ったら、この場においては
間違いなく評価してもらえる」と。
でも、そこで、“納得解”を言える人は強い。
「みんなに話しても、
『お前はバカだ』と言われるんですけど、
僕はずっとこう思っているんです」
と言える人は強いんですよ。
ですから、
“最適解”と“納得解”を区別して考え、
恐れを認識して、
他の人にとっての正解じゃなく、
“納得解”を言えるように訓練をしていきましょう。

■ネガティブな自分でも大丈夫?

学生C
今日、シートに書き出して思ったんですけど、
僕の場合「なぜ?」の部分で、
大きい仕事に関わりたいと考えたときに、
「これまで自分が、なにもしてこなかったから
挑戦してみたい」
「自分が空っぽだから」みたいな
ネガティブな動機になりました。
就活と考えたら、いろんなことを成し遂げてきた人と
戦っていくイメージがあるんです。
そこで自分の弱みというか、
「なにもない」みたいな話をしたときに、
面接官の人にはどう映るのかがすごく気になりました。
梅田
大前提として、ネガティブなことやコンプレックスから
行動を起こすことは、悪いことではありません。
コンプレックスみたいなものって、やっぱり強いんですよ。
ほとんどの人の行動はそこからきていますから。
それはむしろ自然なことですね。
その上で、それを言うのが
「やっぱり恥ずかしい」や「照れるみたいなこと」
はあると思うんですよ。
そういうときには、自分の弱いところから、
本心が生まれていることを認識した上で、
それを「どうポジティブに捉えるか」を
考えればいいだけだと思います。
「その出発点がネガティブだから悪い」と思うと、
思考は停止します。
そこではなく、
「それが自分なのであれば、それでいいじゃないか」
と割り切りをした上で、
それをポジティブに転換するためには、
どうしたらいいのかを考えていきましょう。
頑固だという人が、いますよね、
「頑固なわけじゃなくて、
自分は自分の意見を信じているだけ」と
言い換えてみるとか‥‥。
それを「どうプラスに捉えていくのか」は、
人それぞれですから、自分なりの方法を
見つけてみてください。
悲観する必要はまったくありません。
むしろ素直でいいと思います。
あまり気にする必要はないです。
そこからスタートです。

■テーマを設けるときの方法は?

学生D
教育学部にいまして、
こどもたちに作文の課題を出すんです。
でも、こどもたちからよく
「自分がなにを書きたいのかわからない」
と言われます。
今日はテーマを与えられているから、
それについて考えましたが、
そもそも自分でテーマを設けることが難しいんですね。
「最初に良いテーマを作る方法」をお聞きしたいです。
梅田
ちょっと違う答えからしてもいいですか?
こどもたちが文章を書く上で、
ふたつポイントがあるんです。
ひとつめは、すぐに書きはじめないということです。
なにが大事かというと、
「自分のなかにどういう感情があるのか」、
「どういうことを構成要素として紡いでいくべきなのか」
という材料探しから、はじめればいいんです。
これは、T字型思考法における短文たちですね。
浮かんだ短い言葉。これは材料なんですよ。
その材料が揃った状態で、文章を書いていく。
自分のなかから生まれた材料を、
しっかりと認識できれば、そこから文章を書けるんですよね。
だから1行目から書かない。
「材料を集めることから、はじめましょう」と、
頭を切り替えることが、重要だと思います。
ふたつめは、
「その材料をどう集めるのか」というと、
テーマもそうですけれど、大事なのは問いかけなんです。
アクティブ・リスニングという考え方です。
「聞き手が能動的に聞くことで、
いろんなものが引き出されていく」という考え方です。
こどもたちに、このアクティブ・リスニングを
してあげることが大切です。
テーマが大事ということではなくて、
「ふーん、それでなにが起きるの?」とか
「本当にそうなの?」とか問い続けると、
勝手にこどもたちの頭のなかで触発されます。
そのアクティブ・リスニングを、
「ひとりでやりましょう」という話なわけです。
まとめをすると、
1行目から書くのではなくて、まず材料を集めること。
材料を集めるには、アクティブ・リスニングをすること。
それが大前提です。
「テーマをどう考えればいいのか」は、
こどもに関しては、それぞれのなかに
「これなに?」の問いが絶対あるんですよ。
それを考えると、共通の問いを作らないほうが
いいかもしれない。
「今、君はなにに対して、いちばん疑問に思っている?」、
「なにに興味があるの?」と聞いてあげればいい。
そうすると自分のなかからテーマを持ってきてくれます。
うちのこどもは、
「この前、『シンカリオン』が終わって、
僕はこれからどうやって生きていけばいいのか
わからない」
と言っているんです。
「それ、どういうこと?」
って、そこから、はじまるんですね。
問いは自分のなかにあります。
共通の問いを立てようとしないということが、
こどもにとっては特に重要なことです。

■梅田さんはどんな自己紹介をしますか?

学生E
「すごいコピーライターさんなら、どう答えるかな」
という興味なんですが、たとえば合コンとか、
好きな人の前でどんな自己紹介をしますか?
梅田
自分のことですか?
コピーライターと言って、
言葉の上手な人みたいに言われますけど、
こどもの頃から読書もせず、
入社時にクリエイティブ試験というものがあって、
「言葉を仕事にせよ」と会社からと言われたので、
なんとなく言葉を13年間やってきているから、
今ここにいるだけです。
「お前、言葉のことだけ考えていればいいから」と
言われただけなので、今ここにいる。
そんな感じです。
‥‥というふうにネガティブに言うと思います。
「30万部の本を書いていてね」みたいな話は
一切しないです。むしろ恥ずかしいというか。
話すのは、自分が歩いてきた道のりみたいなものですかね。
「道のりかつ、そこで感じたこととか、
実際にネガティブにどういうことを考えてきたのか」も
含めて、たぶん話すと思いますね。
それがいちばん人の気持ちに刺さったりしますし。
自分の弱みをきちんと認識して、
そこから、いかに自分ががんばったのか。
その環境のなかでどういう努力をしてきたのか。
そんなことを、丁寧に話すと思います。
そこで「こいつ、うだつが上がらないな」みたいに
思う女性は去っていくと思うんですけど、
「さっきの話、もっと聞きたいんですけど」
みたいな人が来てくれたら、それでいいかなと思います。
そんな答えでいいですか?(笑)

■どうしたら言葉が具体的になる?

学生F
今回「自分でやりたいことはなに?」と考えてみたら
出てきたものが抽象的すぎて、
「それをいかに具現化、具体化できるか」
が悩みです。
「いかに具体化して落とし込んでいくのか」を、
お伺いできたらと思います。
梅田
「抽象的に考えられる」って、頭がいいんですよ。
別にほめているわけではなくて、本当にそうなんですよ。
みなさん、抽象的に考えられると、
「話がフワフワしている」とか、
「いつもオチがなくて怒られる」みたいな
話があるかもしれません。
でも、それは頭がいいからなんですよ。
抽象化する力は、頭のいい人にしかできないことなので、
悲観する必要はまったくないと思います。
「具体的に話が出てこない」というのは、
体験が少ないんだと思います。
具体的な言葉を増やしたいなら、
なにか新しいことをやってみて、
そこで自分のなかから
どういう言葉がポンと出てくるのかを
意識して見てみるといいですね。
自動販売機でジュースを買うとき、
わざと、欲しいものの隣を押してみてください。
そのとき頭に浮かぶ言葉は何ですか?
「‥‥お汁粉?」。
そういうことなんです。
新しい具体的な行動を伴ったときに、
浮かんでくる言葉は、具体的です。
「私、甘いのが好きだからいいか」と思う人もいれば、
「友だちにお汁粉を飲んでいる姿を見られたら恥ずかしい」
みたいなこともあるし、
人それぞれの、具体的な言葉が出てきます。
そんなふうに、新しいことをやってみて、
「どういう新しい言葉が自分のなかで生まれるのか」
ということを意識してみるだけでも、
かなり自分が具体的になると思います。
それを繰り返しながら、抽象的に思っていた
「フワフワしていたもの」と、
自分の頭のなかに具体的な行動を伴う形で
「ポンと出てきた言葉」を結びつけるという作業を、
後でやったらいいんですよ。
そうすると、抽象的に思っていたことが
「こういうことかもしれない」ということで
一気に具体的になったりします。
新しいことは、小さいことでいいんですよ。
「ひとつ前の駅で降りて歩いてみる」とかでも
いいと思います。

就活授業を終えて 担当/キノシタ(ほぼ日)

第就職活動を前に「自分って何?」
「働くって、どういうこと?」と、
もやもやを抱えている学生の方々を、
少しでも応援できたらと考えてはじめたこの企画。
冒頭で梅田さんがおっしゃっていましたが、
自分の中にある「内なる言葉」に向き合って、
T字型に書き出していく方法は、学生に限らず、
すべての社会人にも活かせるものだと思います。
もやもやを、自らクリアにしていける体験、
このコンテンツを読みながら、
試していただけたらうれしいです。

また、より理解を深めたい方は、梅田さんの著書
「『言葉にできる』は武器になる。」も、
あわせてどうぞ。

(おわります)

2020-02-26-WED

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