
TOBICHI京都ではたらくスタッフ、
kahoさんがTOBICHI京都で個展をひらきます。
kahoさんは、絵を描くアーティスト。
個展のタイトルは「andante」です。
この個展の開催を記念して、
kahoさんへのインタビューを行いました。
場所は、kahoさんのいつもの職場、TOBICHI京都。
ただ、いつもと違うのは、
kahoさんのとなりにイラストレーターの
福田利之さんが座っているということです。
kahoさんにとって福田さんは、
あこがれのイラストレーターであり、
学生時代に客員教授として
絵を教えたくれた先生でもあるのです。
じゃっかん‥‥いや、かなり緊張するkahoさんに
なんとかリラックスしてもらおうと、
福田さんと進行役のほぼ日・山下が
ついついしゃべりすぎているインタビューです。
ですが、すこしずつkahoさんは、
じぶんの言葉を見つけて話してくれます。
ゆっくりと、今回の個展に対する思いが
浮かび上がってくるやりとりを、お読みください。
kaho(かほ)
福田利之(ふくだ としゆき)
イラストレーター。
1967年、大阪生まれ。
エディトリアル、装丁、広告、
ムーンライダーズやスピッツのCDジャケット、
絵本、テキスタイルなどなど、
さまざまなビジュアル表現を手がける。
「ほぼ日」では、読み物、商品問わず、
様々なコンテンツにご登場いただいています。
『あのこはね』(ポプラ社)、
『くりさぶろう』(ケンエレブックス)、
『ぼくはうさぎ』(あかね書房)、
『福田利之作品集』
『福田利之作品集2』
『福田利之作品集3』(すべて玄光社)
など、著作物は多数。
- ───
- かほちゃん、よろしくお願いします。
- kaho
- よろしくお願いします。
- ───
- いつもは「かほちゃん」と呼んでいて、
音としては同じなのですが、
アーティスト名の表記は英文字で。
- kaho
- はい。
- ───
- 記事になるときには、
「kaho」という表記にしておきますね。
- kaho
- ありがとうございます。
- ───
- そして、この場所、
kahoちゃんがいつもはたらいている
「TOBICHI京都」でお話を聞いていますが、
kahoちゃんのとなりには、
福田利之さんがいらっしゃる。
- 福田
- ねえ(笑)、なぜかぼくが。
- ───
- 順を追ってご説明しますね。
- kahoちゃんは、2024年の1月から
「TOBICHI京都」で働いてくれています。
彼女は絵を描くアーティストでもあります。
その彼女が「TOBICHIの京都」と、
それから「TOBICHI東京」でも
個展をひらくことになりました。
- 福田
- はい。おめでとうございます。
- ───
- ね、おめでとうございます。
ほぼ日のリアルスペースのスタッフさんには
優秀な方が多くて、
これまでにも正木ゆうひさんと、
蓮尾佳由さんという
クリエイターさんがTOBICHIで個展をひらいて、
その度にインタビューを行ってきました。 - いままではぼくが作家さんに
お話をうかがっていたのですが、
今回はなんと福田利之さんのご登場です。
「フィーチャリング・福田利之」です。
- 福田
- フィーチャリングってなんですか?
- ───
- 「すばらしいゲスト」というようなことです。
- 福田
- ありがとうございます。
でも、
なんでやねんと思われていると思います。
- ───
- なんでやねんを解消するためにも、
おふたりのご縁を話してもらえますでしょうか。
- 福田
- ご縁。
- ───
- どういったご関係なのか。
- 福田
- ご関係。
それは、あれです。
「大阪芸術大学」というところで
客員教授でちょっと教えるっていうか、
まあにぎやかしのような授業を
やってるんですけど、
そこのクラスにkahoちゃんがいました。
- ───
- たくさんいる生徒さんのひとりだった。
- 福田
- そうです。
でも、ちょっと気になる存在でした。
- ───
- お、そうでしたか。
- 福田
- いまもそうなんですけど、
あんまりしゃべらないんですよ。
しゃべらなかった、ほんとに。
‥‥ね?(kahoさんに)
- kaho
- ‥‥‥はい。
- ───
- そうだったんですか?
- kaho
- 福田先生は、先生である前に
好きな作家さんのひとりでしたので‥‥
どうしても、緊張‥‥。
- 福田
- え。
緊張しててしゃべらなかったんですか?
- kaho
- そうです。
先生の講義を受ける前から画集を買ってました。
それで、画集の最後にあるプロフィール見たら
じぶんの学校で客員教授していると書いてあって、
わたし、めちゃくちゃ驚いたんです。
- 福田
- はあー。
- ───
- それで福田さんの講義を受けることになった。
- kaho
- はい。
- ───
- そういうつながりがあるので
今回はkahoちゃんへの
お祝いのように福田さんをお招きしたのですが、
結果的には‥‥。
- 福田
- ねえ。
- ───
- かなり緊張させてしまいました。
- kaho
- ‥‥すみません。
- 福田
- 学校で話すときもこんな感じなんです(笑)。
ほんとにしゃべってくれなくて。
最初の印象としては、
「自信がないのかな?」っていう感じでした。
- ───
- それは何年くらい前の話ですか?
- kaho
- 4年前とかです。
- 福田
- 絵を見せてもらったらすごくいいんです。
なのに自信がなさそう。
周りにいる生徒たちにも
いい絵を描いてる人がいたんですけど、
そのなかでもいちばん自信がない感じでした。
- kaho
- ‥‥はい。
- 福田
- ぼくは、すごくおもしろいと思ったので、
「いや、このちょうしで描いてったらいいよ。
もっと自信をもって」
って話したのを覚えてます。
キラリと光る個性があって。
で、なによりやっぱりいちばん大事な、
「その絵を描くのが好きだ」
っていうのがもう見てたらわかるんです。
- ───
- 絵を見ればわかるんですね。
- 福田
- わかるし、描いてるところを横で見てたら
ほんとに一心不乱に描いてる感じがしました。
- ───
- なるほど。
kahoちゃんはその当時、
福田先生から「いいと思うよ」って
言われたことは覚えてますか?
- kaho
- 覚えてます。
- ───
- それはどういうふうに受け止めました?
- kaho
- ‥‥まさか好きな作家さんから
アドバイスがもらえると思ってなかったので、
めちゃくちゃうれしかったです。
「自信を持ちなさい」と言われたのも覚えてます。
- 福田
- そんなに自信がなかったの?
- kaho
- なかったです。今もないです。
- 福田
- 今もない(笑)。
うーーん、でもねぇ、
さっきも言いましたけど
うまい人はたくさんいるんだけど、
彼女の場合はとにかく「好きだ」
っていうところが見えたんで、
この子はいける、伸びる。
と思ったんです‥‥よ?(kahoさんを見る)
- kaho
- ありがとうございます。
- ───
- 先生からしてみると、
「好きだ」はやはり大切なものですか。
- 福田
- もう、それしかないんじゃないですか。
- ───
- 若き日の福田さんもそうだった。
- 福田
- ぼくはもうほんとに
いろいろなことがポンコツでしたけど、
絵だけは描いてたし、苦にならなかったです。 - あ、最近思ったんですけど‥‥
って、ぼくの話になったらだめですね。
- ───
- いや、いいです、話してください。
- 福田
- 最近、気がついたんですよ。
ほんと最近です。
むかし、『全身小説家』
っていう映画があったじゃないですか。
- ───
- ドキュメンタリーのような。
小説家の井上光晴に密着した。
- 福田
- 「存在そのものが小説家、骨の髄まで小説家」
っていう。
- ───
- それである、と。
- 福田
- ご飯食べてても、散歩してても、
生活がイラストレーション。
ぜんぶつながってたんです。 - ご飯のときには箸やおかずの
並べ方のレイアウトから
インスピレーションがわくこともあるし。
お風呂入ってれば天井のシミを見て
「おもしろい形だなあ」とか。
「お風呂あがったらこれ描いてみよう」
っていうふうに。
そういうのを繰り返して、今もう58年間。
- ───
- すごいですね。
- 福田
- そんなに長いことやってて最近やっと、
「あ、そうだな」と思ったんです。
生活ぜんぶイラストだ、と。
周りを見ても、
活躍している人はみんなそうだと思います。
- ───
- ずっと自然にそうしていたから、
気づかなかった。
- 福田
- そうなんだと思います。
- ───
- kahoちゃんはどうですか?
今のを聞いてどう思いました?
- kaho
- 天井のシミから
インスピレーションを得ることがなくて‥‥。
- 福田
- (笑)
- ───
- (笑)とはいえ、
絵のことはいつも考えてますよね。
- kaho
- 考えてます。
- ───
- でも、自信はない。
- kaho
- 自信は‥‥そうですね。
- ───
- ‥‥先生(福田さんに)、
先生からアドバイスはないですか。
彼女が自信を持てるような。
- 福田
- アドバイス?
- ───
- はい。
- 福田
- やっぱり、モチベーションづくりですかね。
なんかこう、
ちょっとごほうびがほしいじゃないですか。
なんでもいいんですよ。
人に見てもらって褒められるとか。
個人的なことでもいいんです。
あの人によろこばれたい、とか。
- ───
- kahoちゃん、
今なにかモチベーションはありますか?
目の前のニンジンのようなこと。
- kaho
- モチベーション‥‥。
- 福田
- だから、ほら、
ここでの展覧会ですよ。
- ───
- ああ‥‥。
じぶんたちから言うのもあれですけど、
今のこの状況、
先に個展があって、
それについてのインタビューを
福田さんといっしょに受けているって、
なかなかうれしい感じではないでしょうか。
- kaho
- ありがたいです。
- あの‥‥
先生はたぶん覚えてないと思うんですけど、
最後の授業のとき生徒みんなに向けて
「いつかいっしょにお仕事できる日を
たのしみに待ってます」
とおっしゃっていて‥‥。
- ───
- いっしょに仕事をしてますよ、今。
- kaho
- はい。
うれしいです。
- ───
- じぶんが働いている場所での展示ですから、
とくべつだと思うのですが、
意気込みなどは、いかがでしょうか?
- kaho
- ‥‥意気込み。
- ───
- ええ。
- kaho
- ‥‥‥‥。
- ───
- ゆっくり答えてください。
- kaho
- ‥‥働いてる場所なので思い入れは強いですし。
- ───
- はい。
- kaho
- ‥‥きょうもみんなが見守ってくれてて‥‥。
- ───
- 先輩たちが応援してます。
- kaho
- ‥‥‥たくさんの人たちが‥‥。
- ───
- うん。
- kaho
- ‥‥‥‥。
- ───
- ‥‥大丈夫。
ゆっくり。
ゆっくり考えて。
- kaho
- ‥‥‥だから(声がつまる)。
- ───
- どうした?
だいじょうぶ、大丈夫だから(笑)。
- 福田
- 学校でも、2、3回泣いてますよね(笑)。
- ───
- ど、どうしよう。
‥‥あのねkahoちゃん、大丈夫だよ?
- 福田
- ぼくがじぶんの話ばっかりしたのが
いけなかったです。
- ───
- や、そういうことじゃないでしょう。
- ‥‥kahoちゃん、大丈夫?
- 福田
- でも、こういう気持ちを持っているのは、
すごくいいことだと思います。
- ───
- 落ち着いた?
ちょっと、いったん落ち着こうか。
- 福田
- 水飲もう。
お水とか、大丈夫ですか?
(おじさんたちあたふたしつつ、つづきます)
2025-10-21-TUE
