現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

http://kenkagamiart.blogspot.com/ 
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その10 

「ボロボロに加工したジャケット」

前回の「ボロボロ」で思い出しました。家族でアメリカへ行ったとき、フリマで見つけたジャケットです。カッコいいでしょ。アンティークの家具や雑貨をセレクトしましたみたいな構えの店の、古い木馬みたいな物体の脇に吊ってあったんですけど。もう、これだけ異様な雰囲気で。最初は売り物じゃないと思ったんです。ディスプレイっていうか。でも、店のおばちゃんに聞いたら「50ドル」って。安くはないです。っていうか高い。メルカリでは3000円までって決めてる自分にしたらけっこうな買い物なんだけど、気づいたら50ドル出してました。だってこんなの二度と手に入らないと思ったんで。似たようなのなら、ま、あるんです。探すとこ探せば。でも、ここまで洗練されてるのは、ちょっとない。ドリフが爆発したあとによくこんななってますけど、あのときの志村さんや加トちゃんに匹敵するほどカッコいい。つくった人、相当センスがあると思う。ただ、これと同じものが大量生産されて、サイズ別に吊るしになってたら一気にダメじゃないですか。「Mサイズあります?」「お調べしますねー」とか。とたんに覚めるというか。だから「一点もの」という意味でアートピースに近いのかも。名もなき誰かの、作品。そんなつもりでつくってないと思うけど、それがかえって「作品」っぽいかなって。そういえば、レジ袋に入れてくれるとかもなかったんで、そのまま小脇に抱えて歩いてたんです。そしたらIT企業勤務ですみたいな、小綺麗な格好をしたインド系アメリカ人のおじさんに声をかけられたんですよ。「まさかおまえ、それ買ったの?」って。「買ったよ」「いくらで?」「50ドル」「ジーザス!」って。もうね、目をまんまるにして「信じられない!」って。「どうすんだ、それ?」ってさらに聞いてくるから「結婚式で着ようと思ってる」って答えたらCongratulation!」だって(笑)。そういえば、フリマなんかだと値段交渉がありますよね。まけてくれとか、ふつうに。でもこのときは、アートピース値切ったらカッコ悪いから言われるがままに50ドル出したんです。そしたら、そのときも店のおばちゃんビックリしてたなあ、目をまるくして(笑)。まさか50ドルで売れるとは思わなかったんでしょうね。ただ、これを「1ドルです」なんて言われても、つまんないんですよ。ありがたみがないし、話のタネにもならない。「わざわざ50ドル出して買う」って行為も含めて、何ていうのかな、「表現」なんだと思います。ちなみに今回、久々に袖を通してみたけど、めちゃくちゃ着やすいです。何も着てないみたい(笑)。センターベントが深いなあ。背中の真ん中くらいまで切れ目入ってる。こりゃあ、あったかくないわ。これからの季節には無理ですね(笑)。

洋服というのは着る人次第なんだなと、しみじみ思います。このジャケットも着る人が着ればめちゃくちゃカッコいいわけで。加賀美さんにもすごく似合ってますよね。というか、加賀美さんそのものみたいなジャケットです。だって加賀美さん、この生き様ですもん。はたから見てると。いつか加賀美さんが天寿を全うしたあと、クローゼットを開けたらかかってるんですよ。これが。Gの着ぐるみと一緒に。加賀美さんの心のタキシードだと思いました。

加賀美さんの「カッコいい」

デコマスクmask

昨今「アゴマスク」はよく見かけますが、ちょっと人と差をつけたいなと思ったら「デコマスク」はどうでしょう。サングラスをアゴにしてマスクをデコにする‥‥なんて相当なお洒落上級テクニックだと思いますが、ハマればかっこいいと思います。誰もやってないし。われこそはという方、ぜひ挑戦してみてください。

2022-12-16-FRI

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