現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その9 

「ボロボロに加工したガラケー」

ちょっとすごくないですか、これ。プロの職人さんがつくったのかなと思いきや、ふつうの人っぽいんですよ。いつものメルカリで見つけたんだけど、商品説明に「素人が古いガラケーをボロボロに加工したものです」とかって書いてあって。見てもらったらわかりますけど、めちゃくちゃ仕事が細かいんです。で、ふつうにカッコいいんですよ。昔、戦闘機とか戦車とかガンダムのプラモをいい感じにボロくする達人いましたけど、ああいうノリのすごいやつっていうか。ただボロボロにするだけじゃなくて、何年も海の底に沈んでたみたいな設定なのか、海の藻みたいなのをまぶして「感じ」を出してる。建築模型とかジオラマに使われる素材なのかなあ。あの、ぼくの記憶の底に眠っているイメージってのがあって、それは、近所の池に捨てられたママチャリが半分だけ沈んでる光景なんです。何年も放置され続けたママチャリが、こんな感じで苔むしてる。そんなイメージが、ひとつの原風景として自分の中にあるんですけど、そこに触ってくるんですよね。いやあ、ヤバイ。なのに値段が「3000円」とかで、かけた手間とか時間に見合ってない。実際、こんなのがそこらへんに落ちてたら、宝物を見つけたような気持ちになると思う。そして絶対に拾って帰ってくると思う。もしかしたら「使えませんでした」みたいなイチャモンつけてくる人もいるのかな、商品説明のところに「通話できません。ところどころに擦り傷があります。ジャンク品とお考えください」みたいなことがわざわざ書いてあって、それもよかった。動くと思って買ってないです(笑)。あるいは「スマホのディスプレイによって、実際の色味と違って見えることがあります」とかね、時代なのかも知れないけど。とはいえ、ぼくは「アーティストの作品」だと思って買ってもいないんです。つくった人がどう思ってるかはわからないけど。だって、これをアクリルケースに入れて「作品です」なんてやった瞬間、一気につまんなくなるでしょ。ただの汚いケータイです、ヒマなんで加工してみましたくらいのほうが、断然おもしろい。「展示」なんかしないで、そのへんに転がしとくほうがカッコいい。何でだろう、理由はわかんないんですけどね。今度、これで話してるフリしながら街を歩いてみようかなあ。打ち合わせのときとかに「あっ、ちょっとスイマセン!」「もしもし?」とかね。絶対「加賀美さんのケータイ、ヤバくないスか!?」って話になりますよね。「30年使ってるんで」とか(笑)。海外からの観光客が見たら、この状態でまだ通話できるなんて「さすがは日本製品だな」とか感心されそう。もしくは「日本人の、ものを大切にする精神って」とか。ガラケーってチョイスもよかったんだと思います。スマホで同じことやっても、何だか、ねえ。

いまのスマホってみんな同じカタチですが、ガラケー全盛期にはいろんなデザインがありましたよね。カタログ見てても楽しかったです。何十年も前の話じゃないけど、どこか豊かさみたいなものを感じます。自分の記憶がたしかならガラケー時代にもLINEがあって、でも、メッセージを受け取るには、こっちから読みに行く必要があったんですよ。つまり、スマホさんみたいに束縛してこなかった。ぼくらを。あのころのガラケーさんたちは。そんなことを思いました。

加賀美さんの「カッコいい」

パンツの裾を靴下にインする人socks

パンツの裾を靴下にインしている方を見かけたのですが、お手本にしたくなるような完成度でした。ぼく自身このスタイルが好きでたまにやってるんですけど、これ、靴下の感じと、そこに合わせる靴のチョイスが、ものすごく重要になってくるんです。そこらへんのバランスが、この方はパーフェクト。カッコいい。

2022-11-16-WED

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