現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

http://kenkagamiart.blogspot.com/
instagram: @kenkagami

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買ったもの_その7 

「ミッキーの直筆サイン」

まず「ミッキーマウスのサインって『MICKEY MOUSE』って書くんだ」という新鮮な発見がありました。当たり前っちゃ当たり前なんですけど。でもほら「じゃ、ウルトラマンはウルトラマンって書くのか?」「雪男は雪男って?」「カッパはカッパ?」とかいろいろ想像したら、おもしろかったです。あと、ポイントは「直筆」ってところですよね。これ、メルカリで買ったんですよ。値段はたしか600円でした。で、売主さんのコメント欄に「ディズニーシーでミッキー本人からもらった直筆サインです」とあったんです。サインは直筆に限りますよね。ぼく、ダンプ松本とブル中野の「極悪同盟」のサインも持ってるんだけど、それ、よく見ると肝心のサインが印刷なんです。生写真をつけて「ほしい感じ」を出してはいるけど、サイン自体は直筆じゃない。そこがやっぱり残念なんです。その点、天童よしみさんのサインは本人直筆なんで、とくべつファンでもないのに大事にしています。この場合は「ミッキーの直筆」ってことなんで、きっと売主さんの目の前で書いてくれたんでしょうね。ミッキーが、マッキーか何かで。この連載、チビっ子たちは読んでないと思うんで敢えて言いますけど、もともとミッキーマウスって二次元の存在だったわけじゃないですか。ウォルト・ディズニーという人が描いた「絵」ですよね。それがアニメーションの力で生命を吹き込まれ、テレビの画面を自由自在に動きまわり、さらにはそこから飛び出して、ディズニーランドという夢の国で世界中の人たちを夢中にさせてきた。その結果としての「直筆です」のありがたみじゃないですか。そのサインをメルカリで見つけて買う人間‥‥それはつまりぼくですけど‥‥にも「ああ、ミッキーの直筆なんだ。じゃあ買おう」とふつうに思わせちゃう、そのすごさ。メルカリで売る方も買う方も、まだ夢の魔法にかかってる。そういう意味では「本物って何だ、ニセ物って何だ」という問いかけも、ここには含まれている気がします。この連載の担当さんが「ゴッホの絵に感動してゴッホ研究を志したんだけど、あとから、その絵が贋作だとわかった」という人に取材したことがあるんですって。結局その人、ゴッホ研究の第一人者になったそうです。その人にとっての本物とかニセ物って、何なんだろう。人生の宝ものをくれたのならば、それは、その人にとって「本物」なんじゃないか? そんなようなことを、酒でも呑みながらえんえん語っていられる気がします。ただ、ミッキーのサインがラーメン屋の壁に飾ってあった場合、それは絶対ニセ物と断言していいでしょう。誰にとっても。だってミッキーはラーメン屋にラーメン食いにとか行かないもんね。そこに「来々軒さん江」なんて書かれていたら、100%ニセ物です。最高だけど。

文芸評論家の小林秀雄さんが、ゴッホの《カラスのいる麦畑》の複製画を持っていたそうです。それ、ゴッホが自殺直前に描いたとされている絵なんですが、その絵の本物を見たときに、複製画にはない「生(な)ま生(な)ましさ」が「堪え難く」、「絵としては複製のほうがよいと思った」と書いていました。そんなことを、加賀美さんのお話を聞きながらボンヤリ思い出していました。

加賀美さんの「カッコいい」

革の鞄にビニールをかけている人bag

雨が降りそうな日に歩いていたら、革の鞄にビニールを被せている人に遭遇しました。よっぽど鞄が濡れるのがイヤなんだと思いますが、それが逆に、とてもスタイリッシュに見えました。こんなデザインの鞄がラグジュアリーブランドから発売される日が来るかもしれない。カッコいい。

2022-09-16-FRI

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