現代美術作家の加賀美健さんは、ヘンなものを買う。「お金を出してわざわざそれ買う?」というものばかり、買う。ショッピングのたのしみとか、そういうのとは、たぶん、ちがう。このお買い物も、アートか!?あのお買い物を突き動かすものは、いったい何だ。月に一回、見せていただきましょう。お相手は「ほぼ日」奥野です。

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加賀美健(かがみ・けん)

1974年東京都生まれ。現代美術作家。国内外の美術展に多数参加。彫刻やパフォーマンスなど様々な表現方法で、社会現象や時事問題をユーモラスな発想で変換した作品を発表している。

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instagram: @kenkagami

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買ったもの_その6 

「納豆ごはんの食品サンプル」

ごらんのとおりの「食べ残し」の食品サンプルです。それも「納豆ごはん」の。ぼく、代官山でストレンジストアって店やってるんですけど、そこがオープンしたときだから‥‥もう12年くらい前に買ったものです。最初はレジ横にパンチの効いた何かを飾りたいなと思って「食品サンプルでも置いとくか」って。ほら、ナポリタンのフォークが宙に浮いてるやつとかね、ああいう。で、ネットをいろいろ検索してたら、Amazonで売ってたんですよ。これが。迷わず購入しました。安くはなくて、3000円くらいだったかなあ。それからずっと、うちの店のレジ横に置いてます。お会計を済ませたお客さんがだいたい二度見していくんで、おもしろいんですよ。一回、ちょうどぼくがレジでこれを手に持ってたときに、何かのセールスの人が入って来たんです。「あ、オーナーさん、お食事中もうしわけございません」って言いながら(笑)。いやいや、レジで納豆ごはん食べないですから。いくらオーナーとはいえ。でも逆に言えば、それだけのクオリティってことでもあると思うんです。この「納豆ごはんの食べ残し」がね。見てもらったらわかると思いますけど、これ、金型とかでポコポコつくれるような代物じゃないんです。納豆とごはんつぶのバランスや配置、細かな気泡、大豆のシワ感、写実的な着彩、糸の引かせ方、絡ませ方‥‥熟練の職人が極めつけの手作業でつくり込んでる雰囲気。お茶碗は本物の陶器なんだけど、その真っ白なキャンバスに、この道ウン十年みたいな腕っこきの職人が「納豆ごはんの食べ残し」を表現してるんです。大空を飛ぶ鳥のような自由さで。山盛りのごはんに納豆をキレイに載っけるだけなら誰にだってできるじゃないですか。練習すれば、ぼくにもできる。でも、この絶妙な「食べ残し感」は、難しいでしょうね。相当なキャリアとセンスが必要。ここまでの「気持ち悪さ」は、新入社員には出せません。ニオイまでただよってきそうなほどの出来栄えですから。そもそも、少しでも美味しく見せるための食品サンプルじゃないですか。なのに「納豆ごはんの食べ残し」って。何のためにつくったのか‥‥いくら考えても「用途」が思いつかない。知らないだけで、食品サンプル界に風穴を開けた歴史的快作なのかもとか思ったりね。そして、これは「買う側」も同時に試されるようなところがあります。だって、世界的なアーティストのスタジオに置かれてたりしたら、一気に「そう見える」じゃないですか。フラっと入ったパリの路地裏のギャラリーに、これが、ガラスケースに入れられて展示されてたりしたら? もうそういうアートピースですよね、完全に。ま、ぼくはそんなつもりで買ったわけではないんで、こんど、これで本物の納豆ごはんを食べてみようかと思ってます。

たしかに用途はわからない。ただただ、食品サンプル職人さんの技術の高さがビンビン伝わってくるのみです。明治時代、職を失った江戸の刀工たちが、その超絶技巧を「お土産品」の工芸品にたっぷり注ぎ込んだかのような‥‥凄みさえ。ダイナミックな発想を、神が宿るほどの繊細さで表現した、無銘のアートピース。今なら3Dプリンタとかでもつくれるかもしれないけど、それだと何で、少し残念な気持ちになるんだろう

加賀美さんの「カッコいい」

リュックを2つ背負った人rucksack

リュックサックを2つ背負っている人を発見して「カッコいい」と思いました。リュックサックって1つだけ背負うのが当たり前‥‥なんていう固定観念や刷り込みが、ぼくや世の中にあったんだなあと感じました。この方のように、2つ3つのリュックを一緒に背負う方がイケてると思います。

2022-08-16-TUE

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