特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!

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第8回 東京国立博物館の奥深さよ。

竹之内
まだまだ、みなさんに
お見せしたいものがあるのですが、
そろそろお別れの時間です。
ラヂヲ
曲がりましたか。最終コーナーを。
竹之内
はい、まずは、お茶の世界です。
──
むむ‥‥さすがに、難しい。
修行が足りないのだと思いますが。

竹之内
いやあ、難しい世界だと思います。
とりわけ外国の方には、
茶器をお見せしても、
それだけではなかなかわからない。
そこで、
映像で茶道の流れを紹介しつつ、
裏の庭園で
お茶会を体験いただいたりして。
──
このうつわ‥‥どうですか、先生。
食器棚の奥から出てきたら。
ラヂヲ
いやあ、わかる自信ないよ。
ふつうに使っちゃうでしょ、これ。
あるもん、うちにも。似たようなの。
竹之内
ここからは刀や鎧の展示が続きます。
お茶の文化から、戦国の文化です。
このゾーンは
博物館の中でも歴史ある箇所で、
つまり‥‥古いので、
リニューアル待ちをしているところ。
──
なるほど。
竹之内
加藤清正の鎧兜。
──
おお、虎退治で有名な戦国武将。
竹之内
別のところにいっておりますが、
織田信長が、
実際に着ていた陣羽織もあって。
──
え、すっごい。
竹之内
先日までは
豊臣秀吉と徳川家康と織田信長、
その3人の陣羽織を3着、
同時に並べて展示していました。
──
どういう状態ですか、それ(笑)。
ラヂヲ
どこにあったんですか、そんなの。
竹之内
探せばあるんですよ。
──
いい答えだなあ‥‥「探せばある」。
ラヂヲ
織田信長の陣羽織も、探せばある。
探せばあるもんだなあ。
──
希望を与える言葉ですね。
竹之内
あるところには、あるんです(笑)。
ラヂヲ
帰ったらさっそく、
自宅の押入れを探してみようかな。
──
あるかなぁ~‥‥そこに(笑)。
竹之内
このような屏風絵なんかになると、
戦国時代に、
実際に部屋に置いて眺めたことは、
ほとんどなかったようです。
献上されたら蔵に入ってしまい、
そのままの状態で眠り、
長い時を経て、
出てくるという場合がほとんど。
──
そうなんですか。はああ‥‥悠久。
竹之内
さて、
いよいよこちらが、最後のお部屋。
江戸の庶民の芸術、
浮世絵を集めて展示しています。

──
わあー、知ってる人がたくさん。
竹之内
作品の劣化を防ぐという意味で、
浮世絵は、
4週間以上は展示しないルール。
照明も極端に落としております。
──
繊細ですものね、見るからに。
竹之内
やはり、光に弱いものですから。
ちなみに今日は、
ラヂヲ先生がいらっしゃるので、
写楽をご用意しておきました。
──
すごい、写楽が用意されている!
さすがラヂヲ先生! 
ユーアーV.I.P!
竹之内
本当は
昨年から予定されていたものです。
ラヂヲ
えっ。
──
ですよね(笑)。
でもホラ先生、写楽ですよ。写楽。
ザ・浮世絵ですよ。
ラヂヲ
う、うん。

東洲斎写楽筆 四代目岩井半四郎の乳人重の井(重要文化財) 江戸時代・寛政6年(1794)
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp) 東洲斎写楽筆 四代目岩井半四郎の乳人重の井(重要文化財) 江戸時代・寛政6年(1794) 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp)

竹之内
歌舞伎役者の演ずるいち場面ですね。
大首絵と呼ばれるもので、
全身を描かずに、
特長的な場面だけを切り取ってます。
ただし、こうした形式は、
当時の役者からは、
変な瞬間を描かれていると思われて、
評判は良くなかったそうです。
──
そんなところを切ってくれるな、と。
ラヂヲ
ポートレートみたい。著者近影だね。
世が世なら、このまま、
ツイッターのアイコンにできるよね。
──
四代目岩井半四郎のツイッター‥‥
フォローしてしまいそう。
ラヂヲ
以前、永谷園のお茶づけのおまけで、
カードが入ってたなあ、そういえば。
歌川広重の「東海道五拾三次」とか。
──
ああ、ありましたね。
ゴッホとかルノワールとかもあった。
竹之内
本館のご案内は、これくらいですが、
となりが、平成館という建物。
ちょっと行ってみましょうか。
今の天皇陛下がご成婚されたときに
建てた建物なんです。
──
2階で特別展をやってる建物ですね、
ふだん。
竹之内
はい。あ、こちらがですね、
映画『大魔神』のもとになった埴輪。
群馬県から出土した「挂甲の武人」、
国宝の埴輪です。

挂甲の武人 群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp) 挂甲の武人 群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp)

──
おお‥‥立派! そして、お顔が素朴。
ラヂヲ
怒ってないね。
竹之内
もともとバラバラの状態で出てきて、
それを復元したものなんです。
ちなみにですが、この平成館の他に
展示施設があと3つと、
黒田清輝の専用の展示室もあります。
──
まだまだ、奥深いんですね。東博。
竹之内
もっと時間があればよかったですが、
駆け足になってしまって。
外まわりで、本館に戻りましょうか。
あちらの銅像は町田久成さんという、
大英博物館を見に行ったりして
この博物館を
日本に造るべきだと提唱されたお方。

──
つまり、東博の父。
竹之内
旧薩摩藩士でらっしゃったので、
薩摩藩の方角を向いて建っております。
ラヂヲ
やっぱりそういう意味があるんですね。
竹之内
いや、当日のノリで‥‥。
ラヂヲ
え? ノリ?
竹之内
はい、ここにドシンと設置するときに、
薩摩藩のほうを向いてもらおうかと。
──
本日、ずーっと感じていたことですが、
東博さんの意外なゆるさが素敵です。
竹之内
ちなみに、この平成館前の池の周辺は、
かの森鴎外が、
当館の前身である帝国博物館の
総長を務めていたときに、
総長のお部屋があった場所なんですよ。
──
今はお池になっているけれど。
ラヂヲ
池の真ん中に、鴎外。
それじゃ、池鴎外じゃないか。

──
森が池になってしまった(笑)。
森鴎外ならぬ、池鴎外‥‥誰だろう。
竹之内
宮沢賢治さんも、ここらの階段付近で
本を読んだりしていたそうです。
上野の電車が出発するまで、
東博で時間を潰していたなんて記録も
残っているんですよ。
ラヂヲ
すごいなあ、東博さん。
──
知れば知るほど、奥が深いですよね。
ちなみに、ここまで2時間強、
全体の何割くらい回れた感じでしょう。
竹之内
いやあ‥‥半分いかないくらいですね。
まーだまだ、おもしろおかしいものが、
たくさん眠っておりますので‥‥。

東博さんのキャラクター、トーハクくん&ユリノキちゃんとラヂヲ先生。 東博さんのキャラクター、トーハクくん&ユリノキちゃんとラヂヲ先生。

(おわります)

2021-02-02-TUE

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