特別展には、大勢の人が集まりますね。
さまざまな切り口で、
国内外から美術作品を集めてきては、
おもしろく見せてくれるから。
でも、常設展に並んだ所蔵作品にこそ、
その美術館の個性が出るもの。
日本の国宝が迎えてくれるし、
パリへ行かずとも、ピカソに会えるし。
そこで、各館の常設展示をめぐって
所蔵する作品を見せていただく、
何とも贅沢なシリーズを、はじめます。
まずは、日本のミュージアムの起源、
上野の東京国立博物館さん。
記念すべきシリーズ第1弾なので、
和田ラヂヲ先生とうかがってきました。
お話をしてくださったのは、
東博の竹之内勝典さん、
伊藤信二さん、河野正訓さんです。
ラヂヲ先生の手には、
万が一に備えて(?)スケッチブック。
準備は万端。
担当はほぼ日奥野です。お楽しみあれ!

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第1回 東博の大階段で倍返しだ。

竹之内
正面が、東京国立博物館の本館です。
こちらいちど建て替えておりまして、
2代目の建物になります。

写真提供:東京国立博物館 写真提供:東京国立博物館

──
どっしりしてます。いつ見ても。
竹之内
そして、左手に見えますのが、
慶びを表す館と書きまして、表慶館。
──
あっ、そういうお名前でしたか。

ラヂヲ
どういうことに使う建物なんですか。
竹之内
もともとは
大正天皇のご成婚を記念した建物で、
初代本館は
関東大震災のときに壊れたのですが、
表慶館は無事だったんです。
片山東熊という建築家の方の設計で。
──
表慶館でも、展覧会をやるんですか。
竹之内
以前はいろいろやっていたんですが、
100年ほど経ちますので、
少々‥‥雨水が漏ったりですとか、
強い風が吹いて
窓ガラスが割れてしまったりしたら、
いけませんので‥‥。
ラヂヲ
そりゃイケませんね。
竹之内
材質の弱い絵画や書跡などの
日本美術作品は展示しておりません。
今は、工芸の展覧会をやっていたり。
──
つまり、雨風に強いような。
ラヂヲ
いやいや、雨に濡れないようには
してるでしょ、さすがに(笑)。
竹之内
はい(笑)。
──
ちなみにですが、壊れる前の本館て、
どんな感じだったんですか。
竹之内
ええ、赤レンガ造りの建物でした。
次また大地震が来ても壊れないよう、
重厚に建て直しております。
ラヂヲ
完成したのは‥‥。
竹之内
昭和13年です。
国民のみなさんから、浄財を募って。
これから
本館をまわっていただきますけど、
館内のあちこちに、
宝相華(ほうそうげ)という文様が
あしらわれているんです。
ラヂヲ
ホーソーゲ。

竹之内
架空の花を組み合わせたデザインで、
奈良時代や平安時代、
仏教の道具などに描かれていたもの。
ラヂヲ
ホオー‥‥‥‥ソーゲ。
竹之内
壁から扉から、何から何まで宝相華。
そんな感じの内装になっております。
──
架空の花ということは、
誰かが考えた花ってことなんですか。
竹之内
いわゆる「唐草文様」の一種ですね。
中国から伝来したものです。
正倉院に保管されている宝物等にも、
あしらわれている模様なんですよ。
──
あれっ、この階段って‥‥。
竹之内
はい、あの『半沢直樹』で使われた、
大階段でございます。
──
やっぱり!
ラヂヲ
倍返しだ!
──
はやいなあ(笑)。
ようするに、
東京中央銀行の大階段ですね、ここ。
赤絨毯こそ敷かれてはいないけど。
竹之内
ドラマの撮影だけじゃなく、
一般の方のご婚礼のお写真などにも、
ご活用いただいております。
──
あ、そういうのもOKなんですね。
竹之内
はい、利用料がかかりますけれども、
お受けできる場合には、
開館前や、毎週月曜日の休館日に。
ラヂヲ
インスタにアップして、
自宅の階段ですと言ったらダメかな。

──
ダメですよ(笑)。
ラヂヲ
照明もいいね。光がすごく柔らかい。
竹之内
はい、ほとんど当時のままですね。
本館の1階は、現在は部屋ごとに、
仏像や陶磁・刀など、
分野をわけて展示をしております。
──
なるほど。
竹之内
2階は日本美術の作品を、
時代ごとに、めぐっていただけるんです。
縄文時代や古墳時代からはじまって、
少しずつ仏教が入ってきて、
お茶の文化も広がり、
戦国時代、そして江戸時代へ‥‥と、
順を追ってお楽しみいただけます。
──
はい、楽しみです!
竹之内
東京国立博館全体では、
約12万件の日本美術を所蔵しています。
ラヂヲ
12万件て。
竹之内
はい、日本の美術作品については、
当然ですが、
世界最大規模のコレクションです。
もちろん、海外にも、
いい日本美術はたくさんありますけれど。
ラヂヲ
ああ、流失していった作品とかね。
浮世絵とか、いろいろ。
竹之内
そうですね、江戸から明治になったとき、
仏教寺院を壊したり、
仏像や経典などを燃やしたりした
廃仏毀釈運動が起こったので、そのとき。
──
日本史の教科書で習いましたけど、
ここへ来ると、あらためて
本当にとんでもない話だったんだと
思わされます。
竹之内
でも、少し言葉はよくないですけど、
その当時、
アメリカの美術愛好家などが、
日本美術を大量に買い取ったんです。
そのおかげもあって、
こんにちでは、世界各地の美術館で、
たいへん保存状態のいい
日本美術の作品を目にできるんです。
──
ありがたいことですね、結果的に。
竹之内
そうですね。
日本にないことは残念ですけれども、
そのままにしていたら、
壊されたり、
燃やされてしまっていたわけで。
世界のどこかに無事に残っていれば、
結果的には、
日本文化を広めることになりますし。
たまに「里帰り」もしてきますしね。
──
伊藤若冲のプライスコレクションも、
東日本大震災のあと、
里帰りしたときにはじめて見ました。
海外の方が大事にしてくれていて、
すごいことだなあ、
ありがたいことだなと思いました。
ラヂヲ
日本人が西洋に憧れたように、
外国人も、同じ思いなんでしょうね。

竹之内
そうなんだと思います。
それでは先へ進ませていただきますが、
『半沢直樹』のシーンの写真を
撮影しなくても宜しいですか、階段で。
──
そんなご提案(笑)。
ラヂヲ
半沢の役がいないけど?
──
先生がやるしかないかと。
ラヂヲ
あのドラマ、じつは見てないんだよね。
──
見てないのに
「倍返しだ!」って言ったんですか。
ラヂヲ
そうです。
竹之内
先日の第2シーズンでは、
この階段を行ったり来たりすることが
多かったんですよね。

ラヂヲ
じゃあ、とりあえず
行ったり来たりしてみたらいいのかな。
倍返しだ!(遠くから)

(つづきます)

2021-01-26-TUE

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