連載第11弾は、箱根のポーラ美術館へ。
まさにいま、
開館以来、最大規模のコレクション展が
開催されています。
モネから、ルノワール、ベルト・モリゾ、
藤田嗣治、日本の具体、そしてリヒター。
ポーラ美術館といえばの名作から、
新収蔵作品もたーっぷりと楽しめます。
チャンスがあったら是非、
訪問することをお勧めしたい展覧会です。
ご案内くださったのは、工藤弘二さん。
担当は「ほぼ日」奥野です。
個人的には、
新収蔵作品だけの藤田嗣治さんの展示室、
あれがすごかった‥‥!

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第5回 杉本博司さん、三島喜美代さん。

工藤
さて、次の展示室では、
2名の現代アートの作家を紹介しております。
こちらが中林忠良さん。銅版画家です。
現在もご活躍されていて、
日本の版画界の最高峰といった方ですね。

──
おおー‥‥重厚な空間。
工藤
中林さんのモノクロの版画に対比して、
隣では杉本博司さんのカラー作品を
紹介しています。どちらも新収蔵です。
まずは杉本さんから見ていきましょう。
──
お願いいたします。
こちらは「写真」‥‥なんですか?
工藤
そうです。
プリズムで光を分光させているんです。
杉本さんが撮りたい色を、
鏡を使って、
観測室と呼んでいる部屋に誘導する‥‥
という方法で。

©Ken KATO ©Ken KATO

──
わー。すごくきれい。
工藤
分光した光を観測室へ誘導したあと、
その光をポラロイドカメラで撮影して、
それをデータ化し、
さらにデジタル処理を施して出力する。
それが、これらの作品なんです。
──
そんなプロセスを経て、撮っている。
こんな作品もつくってらっしゃった。
工藤
杉本さんのいちばん新しいシリーズで、
そもそも写真は光を用いた表現ですが、
これは、光そのものを撮影しているわけですね。
本来なら、光そのものって撮れないし、
絵にも描けないものじゃないですか。
──
なるほど、たしかに。
光に照らし出されたものを撮影したり、
光を絵に描いた
印象派みたいな人たちはいたけど、
その表現を成立させている光そのものを、
杉本さんは、みごとに撮っちゃった。
工藤
杉本さんって、発想がすごいんですよね。
光を表現した‥‥なんてよく言いますが、
「光そのものを撮ろう」なんて、
なかなか思いつかないし、
とっても杉本さんらしいなあ、と思います。
──
痛快な感じすらします。
工藤
黒と青の光で画面を2分割した作品も
ありますが、
杉本さんには
《SEASCAPES》という、
海を撮ったシリーズがあるんですけど。
──
あ、水平線と空の。
工藤
そう、あのあたりの過去の有名作品が
オーバーラップしてくる感じもあって。
若いころから
非常にコンセプチュアルな作品を多く
つくってこられましたが、
これも、非常に考え抜かれた写真です。
今回10点、新収蔵したので、
前・後期で5点ずつ分けて紹介します。
──
一転して中林さんは、モノクロの世界。
工藤
そして一言でいうと「超絶技巧」です。
間近で見ていただくと驚くと思います。
これで「銅版画」なんです。
つまり銅板を腐食させたりする手法で
ここまで細かい表現をしている。
とんでもない技術をお持ちなんですよ。

──
この、針葉樹なのかな、
細い枝の表現とか、目をみはりますね。
まじまじ眺めていても、
どうしたらこうなるんだろう‥‥って。
工藤
そうなんですよね。
はい、どうやってるんでしょうね(笑)。
このあたりは、
東日本大震災のあとにつくられた作品なんですが、
じっと見ていると、
いろんな感情が沸き起こってきます。
お客さまの中には、
泣いている方もいらっしゃったそうです。
──
中林さんの版画を前に。そうなんですか。
でも、わかる気がします。
あ、駒井哲郎さんのもとでと書いてある。
工藤
そうそう、そうですね。お弟子さんです。
それでは、
いよいよ最後のセクションのご紹介です。
ここは現代美術を展示するための
アトリウムギャラリーというスペースで、
2017年につくったんですが。

──
三島喜美代さん。
工藤
はい。これら、新聞紙やダンボールの箱、
漫画雑誌、空き缶などのオブジェが
彼女の作品なんですが、
いったい、何でできていると思いますか。
──
パッと見‥‥粘土‥とか‥‥?
工藤
答えはセラミック。つまり陶なんです。
だから落とすと割れちゃいます。
──
えええ、そうなんですか。
ひゃ~‥‥これ、陶でできてるんですか。
工藤
いろいろとんでもないんです、三島さん。
くずかごのなかの空き缶、
これ、ひとつひとつぜんぶ陶ですけど、
懐かしいのもありますね。
メローイエローって、ご存知ですか?
──
はい、もちろん知ってます。好きでした。
コーラ、ドクターペッパー、ポカリ‥‥
よくわからない缶もあるけど、
きっと実際にあった商品なんだろうなあ。

工藤
おそらく。
──
これが、ぜーんぶ陶なのか‥‥!
何でできているのかがわからない状態で
見ていたときと、
陶なんだと思って見ているいまとでは、
まったくちがって見えますね。
つまり、それなりに重いってことですね、
空き缶だけど。それが、すごく不思議。
工藤
ええ、陶ということは、
窯で焼いている「やきもの」なんですよね。
三島さんは、こういった作品を
ずーっと、つくり続けてきた方なんです。
──
はあー‥‥。
工藤
こちらの大きな「週刊少年マガジン」と
「週刊少年ジャンプ」は、
「溶融スラグ」という素材を使ってます。
──
溶融スラグ。
工藤
ゴミを燃やし続けると、
最後の最後には「粉」になるんですって。
それを、もういちど成型して焼いてます。
──
きっと、とっても有名な方なんですよね。
不勉強で存じ上げませんでしたが、
何だかもう、すっかりファンです(笑)。
工藤
とりわけ有名なのは新聞紙の作品ですね。
──
新聞紙の文字とか、
どうやってプリントしているんだろう。
まさか、三島さんみずから、
手で描いてるわけじゃないでしょうけど。
工藤
これは「転写」です。
シルクスクリーンを使っているそうです。
──
えっ、シルクスクリーン?
それを聞いても「なるほど」と思えない。
だって新聞紙、クシャっとしてますけど、
こんな表面にシルクって刷れるんですか。
工藤
ご本人が言うには、
意外と簡単よっておっしゃっていました。
三島さん、シルクスクリーンを
昔からやってらっしゃったらしいんです。
先日、当館へお越しいただいたときに
お話を聞いたら、
「転写は、昔からずっとやっていたから
意外と簡単にできるのよ~」って。
でも、それはおそらく、三島さんだから。
──
そうなんでしょうね(笑)。
工藤
そもそもですが、
「やきものにシルクスクリーン」っていう
その発想自体が、すごいですよね。
同時に、そのすごい発想を、
このクオリティで実現する、髙い技術力。
中林さんとは違った方向性ですが、
三島さんの作品も、
いわゆる「超絶技巧」なんだと思います。
こんなことができる人は、
三島さんしかいないだろうなとも思うし。
──
いやあ、おもしろいです。
ちょっと、追いかけてみたいと思います。
工藤
三島さん、今年で90歳になられるいまも‥‥。
──
ええっ、今年で90歳!? 
さらに驚きました!
作品から受ける感じで、
もっとぜんぜん若い人かと思ってました。
工藤
はい、そうなんです。
現在もお元気に制作されているんですが、
今回の展示にメッセージをお願いしたら
「好奇心を失わない事」って。
本当に、明るいエネルギーに満ちた方で。

──
伝わってきます、何だか。
工藤
作品をつくることが、心から、大好きで。
このあともまた展覧会をやるんだーって
さらっとおっしゃってましたが、
それって‥‥すごいことじゃないですか。
──
はい。柚木沙弥郎さんに
お会いするたびにも思うことなんですが、
好奇心を持ち続けてる方って、
いつまでもお元気でらっしゃいますよね。
工藤
やっぱり年齢とは別のみずみずしさというものを、
つねにお持ちですよね。
あのみずみずしい心のありようを持ち続けて、
これからも三島さん、
意欲的に制作されていくんだろうなあと。
──
いやあ、おもしろかったです。
すばらしい開館20周年記念の展覧会でした。
工藤
ありがとうございます。
開館以来、最大規模の展示なので、
少し駆け足になってしまって。
──
いえいえ、そんなことないです。
お話、じっくり聞かせていただきました。
ちなみに、この天井の作品は‥‥。
工藤
あ、ケリス・ウィン・エヴァンスですね。
いま、三島さんの作品を展示していた
アトリウムギャラリーで、
以前、ケリスさんに
展覧会をやっていただいたことがあって。
そのことをきっかけに収蔵した作品です。
見ればわかりますが、ネオン管です。

ケリス・ウィン・エヴァンス《照明用ガラス・・・(眼科医の承認による)》
2015年 ネオン 高378.0 幅319.0 奥行 191.0cm
(c) Cerith Wyn Evans Photo: Ken KATO ケリス・ウィン・エヴァンス《照明用ガラス・・・(眼科医の承認による)》
2015年 ネオン 高378.0 幅319.0 奥行 191.0cm
(c) Cerith Wyn Evans Photo: Ken KATO

──
ええ、美しい作品ですけど、
ああやって宙にポッと浮いている姿を
見上げていると、
どこか、そこはかとない不安‥‥とか
不気味な感じがして‥‥いいですねえ。
工藤
あ、いいんですね。よかった(笑)。
マルセル・デュシャンが作品に用いた、
視力を調べる検眼図というモティーフがあるんです。
それを、ネオン管で再現した作品です。
今日は「光」の話が
いろんな場面で出てきたと思いますが、
これも「光の彫刻」ですよね。
──
20周年の節目の大きな展覧会ということで、
本当に見ごたえがありました。
ポーラ美術館さんのフルスイング的な。
いつもそうだとは思いますが、今回はとくに。
工藤
やっぱり、美術館全体を使って
コレクションの全体像を見せることで、
美術館のこれまでの歩みと同時に、
これからの方針や姿勢、
「こういうことをやろうとしてるのか」
という部分を、おぼろげにでも
感じでもらえたらいいなって思います。
──
感じました。
工藤
ありがとうございます(笑)。
──
この取材をしていると思うんですけれど、
それぞれの美術館には
それぞれの役割や立ち位置があり、
それぞれの強みがあって、
それぞれの目指す方向性も違うんだけど、
大きく捉えると、
同じ志を持っているようにも感じますし。
工藤
はい。そこまで伝えることができたら、
わたしたち学芸員も、うれしいですね。

(終わります)

2022-07-29-FRI

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  • ポーラ美術館開館20周年記念展 モネからリヒターへ 新収蔵作品を中心に

    いま「開館以来、最大規模」の展覧会が、
    ポーラ美術館で開催されています。
    モネとゲルハルト・リヒターの競演、
    すべて新収蔵作品で構成された
    藤田嗣治の展示室。
    さらには、ルノワールやマティスなど、
    ポーラ美術館ではおなじみの印象派、
    20世紀美術の有名作から、
    戦後の日本美術、
    杉本博司さんなどの現代アートまで、
    新旧の名画ががズラリと並びます。
    見ごたえ、満足感が本当に、すごいです。
    9月6日(火)までの開催。
    この夏休みは、ぜひ、箱根へ。必見です。