日本全国の美術館・博物館の
コレクションを見に行くシリーズ第14弾は、
続・東京都現代美術館。
前回の訪問時、時間が足りなくて
全フロアを拝見できなかったので、
「もう一回!」取材させていただきました。
「歩く、赴く、移動する」というテーマの
1階のコレクション展を
前回とおなじく水田有子さんが、
3階の特集「横尾忠則―水のように」を
藤井亜紀さんが、
やさしくおもしろく教えてくださいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。どうぞ。

 

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第1回 歩く、赴く、移動する。

──
水田さん、お久しぶりです。
前回の取材では、時間の都合で
そのとき展示されていたすべての作品を
拝見することができなったので、
こうしてふたたび、やってまいりました!
どうぞ、よろしくお願いいたします。
水田
ありがとうございます!
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
前回は「コレクションを巻き戻す」
というタイトルの企画で、
東京都美術館時代も含む
コレクションの歴史を紐解きながら、
所蔵作品を制作年順に展示していました。

──
はい、そうでした。
水田
今回、展覧会のスタートが
関東大震災から100年の年だったので、
その関連作品を起点に、
近年の新収蔵品もたくさんご紹介しつつ、
展示を構成しています。
──
タイトルが「歩く、赴く、移動する」。

水田
画家の鹿子木孟郎が
1923年の震災直後に被災地を歩き、
描いたスケッチから、コロナ禍の2020年まで。
 
およそ100年の間に制作された
多彩なコレクションを、
 そうしたキーワードを切り口に
ご紹介しているんです。
──
鹿子木さんって、たしか
東京じゃないところにいたんですよね。
関東大震災が起こったときに。
水田
はい、京都に住んでいたのですが
東京で大きな地震が起こったという一報に接し、
日本画家の池田遙邨(ようそん)にも
声をかけて、
震災から1ヶ月たたない時期に、
被災地・東京へと鉄道で出かけていきました。
 
最初のセクションでは
「東京を歩く」というテーマで、
鹿子木をはじめ、戦後すぐくらいまでの
東京を描いた画家たちの作品を集めています。
──
このあたりは、鹿子木さんのスケッチ。
水田
はい。
 
被災地を歩きつつ、
対象からやや距離をとって描いていますよね。
瓦礫を堀り起こす人々や、
倒壊した建物などの輪郭線を
冷静に捉えているように見えます。

鹿子木孟郎《震災スケッチ(避難民と焼野)》1923 鹿子木孟郎《震災スケッチ(避難民と焼野)》1923

──
このときの鹿子木さんの気持ちって、
いわゆる「報道」というか、
そういう気持ちだったんでしょうか。
水田
実際に現地に赴いて、
被災地を歩き、スケッチや記録に残す。
 
そのことは、たしかだったと思います。
でもやはり画家として‥‥
途中、さまざまな批判も受けて、
新聞社の腕章をつけて
描いたりもしていたようですが。
──
一般の報道カメラマンさんも、
いたってことですね、つまり。
水田
はい、報道写真や映像も多数残っています。
鹿子木もこのときカメラを持っていて、
たくさん写真も撮りつつ、
スケッチしていたんですよね。
──
なるほど。
水田
そして、こちらの大きな絵は、
のちに描かれた、鹿子木の油彩作品です。
 
スケッチでは、
対象を少し遠くから描いていましたが、
油彩では、避難する人々の姿を
より近接した視点から描き出しています。
西洋画でいう、いわゆる歴史画のように。

鹿子木孟郎《大正12年9月1日》制作年不詳 鹿子木孟郎《大正12年9月1日》制作年不詳

──
伝統的な西洋の絵画には序列があって、
その頂点が「歴史画」ですよね。
水田
鹿子木は、フランスに渡り、
ローランスという歴史画家のもとで
学びました。
自分に身近な関東大震災という大きな出来事を
歴史画のように描き出したのは、
ある意味、自然だったのだと思います。
──
この大きな絵は、
制作年不詳とのことですが、
震災が起きてから
わりとすぐに描いたんですかね。
ご自身の描いたスケッチを元にして。
水田
そうですね、報道の写真や、
池田遙邨のスケッチなども組み合わせて、
構成されているそうですよ。
──
つまり、実際の現場を忠実に描いた、
と言うよりも、
想像上のシーンだということですね。
水田
ええ、鹿子木は体験しなかった、
震災直後の被災地の光景です。
──
でも、カメラも持っていたけど、
わざわざスケッチや絵を描くっていうのは、
ご自身が画家だったから、
という以上の意味があったのかなあ。
水田
画家だからというのは、やはり大きいでしょうね。
あと、写真というものは、
シャッターを押して、
瞬間的に、目の前の光景を捉えるわけですけれど、
このスケッチを見ていると、
輪郭線を何度もなぞったところもありますよね。
目の前にある光景をみつめて、
それと向き合う時間の中で捉えるというか‥‥。
──
なるほど‥‥そうか。
絵の場合には、あるていどの時間、
震災というテーマに向き合う必要がある。
水田
何日も何日も、
東京の下町をめぐって歩きながら、
たくさんのスケッチを描いて、
そのあとに絵を描いているわけですよね。
──
そういう人は他にもいたんですか。
鹿子木さん以外にも。
水田
はい、いました。
両国にある復興記念館には、
そうした絵画作品が多く収蔵されています。
 
あと、たとえば竹久夢二なども
震災後の東京の街の光景を描いて、
当時の新聞や雑誌に載っていたりとか‥‥。
──
現在の報道写真家の方のような、
残すとか伝えるという役割への意識、
使命感のようなものも、
当時の画家にはあったんでしょうか。
水田
あるいは、そうかもしれません。

(つづきます)

2024-03-01-FRI

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  • MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020/ 特集展示 横尾忠則―水のように/ 生誕100年 サム・フランシス 3月10日(日)まで開催中!

    今回、取材させていただいている
    MOTコレクション
    歩く、赴く、移動する 19232020
    特集展示 横尾忠則―水のように/
    生誕100年 サム・フランシス」
    の会期は、3月10日(日)まで。
    記事を読みながら展示室をまわると、
    いっそうおもしろいし、理解が深まると思います。
    開場時間など詳しくは展覧会ページでご確認を。
    なお、東京都現代美術館のコレクション展示、
    次会期は
    「歩く、赴く、移動する 1923→2020/
    Eye to Eye-見ること」展
    と題して、4月6日(土)からスタートします。
    1階「歩く、赴く、移動する 1923→2020」も
    いくつかの展示替えがあるとのこと。
    また、オラファー・エリアソンの
    《人間を超えたレゾネーター》も、
    コレクション展では初展示されるとか。
    また、3階の「Eye to Eye-見ること」展では、
    アレックス・カッツやリキテンスタイン、
    そして中園孔二さんの作品も展示予定だそう。
    こちらも楽しみです!

    書籍版『常設展へ行こう!』 左右社さんから発売中!

    本シリーズの第1回「東京国立博物館篇」から
    第12回「国立西洋美術館篇」までの
    12館ぶんの内容を一冊にまとめた
    書籍版『常設展へ行こう!』が、
    左右社さんから、ただいま絶賛発売中です。
    紹介されているのは、
    東京国立博物館(本館)、東京都現代美術館、
    横浜美術館、アーティゾン美術館、
    東京国立近代美術館、群馬県立館林美術館、
    大原美術館、DIC川村記念美術館、
    青森県立美術館、富山県美術館、
    ポーラ美術館、国立西洋美術館という、
    日本を代表する各地の美術館の所蔵作品です。
    本という形になったとき読みやすいよう、
    大幅に改稿、いろいろ加筆しました。
    各館に、ぜひ連れ出してあげてください。
    この本を読みながら作品を鑑賞すれば、
    常設展が、ますます楽しくなると思います!
    Amazonでのおもとめは、こちらです。

    常設展へ行こう!

    001 東京国立博物館篇

    002 東京都現代美術館篇

    003 横浜美術館篇

    004 アーティゾン美術館篇

    005 東京国立近代美術館篇

    006 群馬県立館林美術館

    007 大原美術館

    008 DIC川村記念美術館篇

    009 青森県立美術館篇

    010 富山県美術館篇

    011ポーラ美術館篇

    012国立西洋美術館

    013東京国立博物館 東洋館篇

    014 続・東京都現代美術館篇