西澤丞（にしざわ・じょう）さんの写真は、
冷たくて、熱くて、なんといっても格好いい。
大規模な地下工事現場から、ロケットの開発・打ち上げ、
造船所や製鉄所、加速器、核融合研究施設、発電所など、
撮影許可が得られにくい“立入禁止”の場所での
撮影を実現し、写真を発表してきた方です。
そのポリシーは「安全第一、現場優先」。
そして「撮影は２のつぎ、３のつぎ」。
でも、「写真を撮ってるときが、いちばん楽しいよ」と破顔します。
東京都品川にあるキヤノンさんの「ギャラリーS」で
開催された西澤さんの写真展「超現実世界」の会場にて、
20年間のキャリアの集大成とも言える
数々の写真の前で、じっくりインタビューを行いました。
写真だけでも、ぜひ見てもらいたい。
聞き手は、ほぼ日乗組員で旧知の松田です。
西澤 丞（にしざわ じょう）
1967年、愛知県生まれ、群馬県在住。写真家。
自動車メーカーデザイン室、撮影プロダクション勤務を経て2000年に独立。「見えない仕事を、可視化する。」をコンセプトに掲げて写真を撮影。大規模地下工事現場に始まり、ロケット開発・打ち上げ、造船所、製鉄所、加速器、核融合研究施設、発電所など、撮影許可が得られにくい場所での撮影を実現、写真を発表してきた。
著書に、『MEGA-SHIP』・『鋼鉄地帯』・『Build the Future』（太田出版）、『Deep Inside』（求龍堂）、『福島第一 廃炉の記録』（みすず書房）、『DEMIURGOS』（キヤノンマーケティングジャパン）などがある。
- ほぼ日
- 西澤さんの真後ろの写真はなんですか？
- 西澤
- あ、これは、美笹深宇宙探査用地上局という、
要するに通信機のアンテナです。
はやぶさ2とか、遠くに行く衛星があるじゃないですか。
あれと通信をするためのアンテナを建設している最中なんです。
- ほぼ日
- なんとなく、ここは宇宙ゾーンなんですね。
先ほどまでのお話だと、
見えなくてかっこいい被写体が気になる。
このロケットに対しても同じ興味だったんですか？
- 西澤
- まあね、メカっぽいものは全般に好きですよね。ええ。
- ほぼ日
- （笑）
- 西澤
- 自分の興味や好きなものと、
自分がやらなきゃいけないと思ってることと、
両方がないと、たぶん続けられないんですよ。
やんなきゃいけないって思っている、
「使命的なもの」だけだと疲れちゃう。 - だけど、好奇心で撮りたいものだけ撮ってたら
世の中の役には立たないので、
このバランスを取れるような被写体を
探しながら撮ってますよね。
だから基本的にぼくの趣味に近い被写体しか、たぶん無い。
- ほぼ日
- なるほど、趣味の要素は絶対に含まれている、と。
- 西澤
- そう、もちろんそれは外せない。
- ほぼ日
- 最初にロケットに依頼をしたとき、
どんな依頼をしたか、覚えてますか？
- 西澤
- 基本的には、このイプシロンを撮ったときも
それまでと依頼の内容は一緒なんですよ。
これが3回目でオッケーになったのも、
その窓口の人とか、
あとは上のジャッジする人によるっていう感じですかね。
- ほぼ日
- うーん。なんかやり取りしてて、
こんなことを言うと嫌がられるというような
ご経験は無いですか？
- 西澤
- ぼくは基本的に、嫌がられるようなことは言わないですね。
こういう撮影はドキュメンタリーや
報道という範囲になると思うんですけど、
ぼくは何かを暴いてやろうとか、
批判してやろうっていうふうに撮ってるわけではなくて、
取材先のいいところを
なるべく世の中に伝えようと思ってるんですね。 - 世の中、悪口を言う人って
ものすごくいっぱいいるじゃないですか。
でもぼくはそんなことに全然興味がなくて、
「こんなかっこいいものがあるよ」とか
「こんなに頑張ってる人がいるよ」というのを
知ってほしいって思ってますね。
- ほぼ日
- そういうことを電話や
メールでお伝えするんですか？
- 西澤
- そうですね。
せっかくかっこいいものがあるんだから、
もっと世の中に発信しましょうよ、っていうのが
基本的な内容かなぁ。
- ほぼ日
- メリットがどうとかいう話じゃなくて、
あくまで広報なんだ。
- 西澤
- 交渉するときには企画書を書くじゃないですか。
そのとき、いちばん最初に書かなきゃいけないのは、
取材先の心配をどうやったらなくせるか。
たとえば、
「機密とか安全をどうやってクリアすればいいのか」と
取材先の人は考えるじゃないですか。
だからそれに対しては、
こういう段取りでいったら、機密も守れるし、
安全も守れますよね、ってまず書きますよね。 - で、その次に窓口の人が考えるのは何かって想像すると、
「これをどうやって上司に説明しようか」って
思うわけじゃないですか。
だから、それに対する答えも用意しておく。
その組み合わせがまず第１のポイントで。
- ほぼ日
- 相手のことをまず考えると。
- 西澤
- ２つ目は、取材を受けることによって
取材先にどんなメリットがあるのかを
書かなきゃ駄目なんですよ。
３つ目は、その撮影や取材に
社会的な意義がどれくらいあるのか。 - この３つをセットでバッチリ書ければ、
よっぽどの人でない限りたぶん通ると思いますよ。
ちょっとやる気のある窓口の人であれば。
- ほぼ日
- その依頼の方法は、だんだん身につけられたんですか？
- 西澤
- それはやっぱりね、
どうやったらオッケーしてくれるかなって
相手のことをずっと想像していて、
少しずつ精度を上げていく感じですよね。
書き方の教科書って、無いんですよ。
- ほぼ日
- 無いですよねぇ。
- 西澤
- ぼくみたいな撮影をしてる人って
まったくいないじゃないですか。
だから何を調べても無いんですよ、そんな情報。
自分の中でちょっとずつちょっとずつ
「どうしたらいいのかな？」って考えて。
今の中でベストはその組み合わせというだけで、
正解かどうかは、わかんない。
- ほぼ日
- お話をお伺いしていると、
営業の人が考えてることとか、
コンサルタントが考えてることにすごく近いです。
- 西澤
- ああ、うん、たぶんそうだと思いますよ。
- ほぼ日
- はい。相手が困るであろうことの解決策を
用意してあげるっていうところ。
- 西澤
- そうそう。
- ほぼ日
- コンサルタントなんですね、西澤さんは（笑）。
- 西澤
- 見方によっては、そうも言えるかもしれないですよね。
- ほぼ日
- 広報コンサルタントであり、
解決策を実際に自分でやれちゃうっていう。
- 西澤
- ええ、そう。取材先のなかには、
たとえば、自分の現場で取材を受けたことの無い人
というのも結構いるんですよ。
だから、自分たちの現場がどういうふうに
写真という形で表現されるのかって、
まったく想像ついてない人も大勢いらっしゃるので、
文章だけで説明しても、
最初はあまりわかってくれないんです。
けど、でき上がったものをご覧いただくと、
「あっ、こういうことだったのね」って
感想をもらうことはよくあります。
- ほぼ日
- その観点で言うと、
このイプシロンはどうでした？
- 西澤
- もうね、みなさんものすごく喜んでくれました。
ここのプロジェクトチームの人と
打ち上げやりましたもん（笑）。
（現場での頭のなかの話に、つづきます）
2025-07-01-TUE
