JAXA+PARCO+ほぼ日でお届けする
地球観測衛星の大特集ですが、
大変ながらくおまたせしました!
これまで幾多のガンダムシリーズを
プロデュースしてきた、
バンダイナムコフィルムワークスの
小形尚弘さんの登場です!
ガンダム好きがたくさん集まる
JAXAさんの中でも
ガンダム好きが嵩じて入社したという
「筋金入り」の重藤真由美さん、
いつもの明るいコーディネイト役・
安部眞史さんと、
ガンダムについて、人工衛星について、
さらには「地球」について、
アツく語り合っていただきました。
全5回、担当は「ほぼ日」奥野です。

>小形尚弘さんのプロフィール

小形尚弘(おがたなおひろ)

『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダム サンダーボルト』『機動戦士ガンダムNT』『Gのレコンギスタ』など多くの作品でプロデュ―サーをつとめ、近年のガンダムシリーズ劇場作品『閃光のハサウェイ』『ククルス・ドアンの島』ではエグゼクティブプロデューサーをつとめる。現バンダイナムコフィルムワークス執行役員。

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第5回 JAXAとガンダム、何をする?

重藤
わたしたちの人工衛星の仕事って、
とても長期に渡るプロジェクトなんですが、
その途中で、
トラブルが起きるんです、絶対に。
アニメの制作も長くかかると思うんですが、
その間、何かトラブルって‥‥。
小形
毎日がトラブルの連続です(笑)。

安部
わー、そうなんですか。
小形
これは誰に聞いてもそう言うと思いますが、
最初から最後まで何のトラブルもなく、
スタッフ全員が
和やかに笑いあいながらよかったねーって
つくった作品って「売れない」と思うんです。
──
へええ‥‥。
小形
逆に、ヒットした作品って、
何かしらの摩擦や意見の対立が起こって、
ケンカしながらつくったものが多い。
だからといって、
トラブル大歓迎ってわけじゃないですが。
──
そういうものなんですね、おもしろい。
小形
ぼくたち制作サイドの仕事は、
日々、起こるトラブルをどう解決するか、
対立する意見をどう調整するか。
いま、アニメのプロジェクトは
製作期間がどんどん長くなってるんです、
下手したら「5年」とか。
──
そんなに!
人工衛星のプロジェクト並みですね。
小形
その間、延々トラブルを処理してる。
というかトラブルが起これば起こるほど、
みんながイキイキしてくる感じもあって。
重藤
ああー‥‥なんとなくわかります(笑)。

小形
たぶん、火事場であればあるほど、
やる気がわいてくる、
作品をつくってる感じが出てくるんです。
いまは、コンプライアンスだったりとか、
社員のはたらき方にも、
十分に気を配る必要があるんですけどね。
その点、JAXAさんは、どうですか?
安部
はい、もちろん残業に関する規定などは
厳しくなっていますが、
こと「摩擦を避ければいいか」と言えば、
個人的には違うかなと思っています。
結局シャンシャンでつくれちゃうような
誰の「都合」に照らしても問題ない、
悪くないような企画って、
いままでやったことの焼き直しなんです。
小形
そうですよね。
安部
そういう企画って、
ずっと笑って終われるかもしれないけど、
競争力もないし、おもしろくもない。
結果として大したことのないものになる。
その点では宇宙開発も同じだと思います。
──
それ、具体的にはどういうことですか?
宇宙の場面で言うと。
安部
企画のアイデアつまり
衛星のミッションを考えているときでも、
「そんなことやってどうするの?」とか、
「たぶんうまくいかないよ」とか、
「経済的に成り立たないでしょ?」って、
横から言われることも、ま、あるんです。
でも、そのときに、
誰からも文句の出ないような、
もっと手堅いところやっていきましょう、
みたいなところに収めてしまうと、
結局、
ミッションの革新性は失われますよね。
──
じゃ、そこをグッとがんばって。
安部
以前の企画の焼き直しだったとしても、
プロジェクトとしては成立する。
成立すれば予算もついて、
それなりのかたちになるかもしれない。
でも、それって、完成したあと、
即、競争力がなくなる感覚はあります。
──
アニメ制作現場での摩擦やケンカって、
ようするに、
お話をおもしろくするため‥‥の?
小形
そうですね。われわれといっしょに
500人、600人のクリエイターさんが
はたらいていると
冒頭でもお話したと思うんですが、
彼らにとっては自分のキャリアにおける
大事な1年間、大事な3年間なんです。
──
ああ‥‥。
小形
自分の限りあるクリエイティブの力を、
その期間ずっと、
ひとつの作品に注ぎ込むことになる。
しかも、ガンダムの場合は、
自分の「代表作」になるかもしれない、
そういうシリーズなので、
みなさん「本気でくる」んですよね。
安部
おおお。
小形
まあまあ、各所が正面衝突したまんま、
誰も譲らないみたいなときが、
わりと‥‥いや、多々あります(笑)。
──
そのせめぎあい、その緊張感の中から、
傑作やヒット作がうまれる、と。
小形
そういうことが多いと思います。

──
ちなみになんですけど、富野監督って、
インタビューを読んでいても、
すごくものをハッキリおっしゃる‥‥。
小形
はい(笑)。
──
すごくおもしろいなあと思うんですが、
ふだんからああいった感じなんですか。
小形
あのまんまです(笑)。
ぼくは
『∀ガンダム』(ターンエーガンダム)のときに
制作進行で、
監督が富野さんだったんです。
すでに60歳は超えていたと思うんですが、
当時ファッション誌とか、
机においてある
ぼくらが読んでいた本や雑誌なんかも
手に取って読むんですよ。
そこから得た情報や言葉が、
モビルスーツの名前になって戻ってきたり 。
──
へええ‥‥すごい。
小形
いろんなもの対して興味を持っているんです。
いまは80歳を過ぎてますが、いまだに
このモビルスーツはこうやって動くんだって、
興奮しながら、
半分怒りながら(笑)お話しされるんですが、
あんな人いないです。感服しますね。
──
もう、たくさんあると思うんですけど、
小形さんが、富野監督から教わったことで、
いちばん大事にしているのは何ですか。
小形
そうですね‥‥ぼくは、横にいて
本当にいろんなことを教わってきましたが、
やっぱり、いちばん大きいのは、
びっくりするような話とかじゃなく、
「仕事に対する姿勢」かなと思いますね。
とにかく、他の誰よりもはたらくんですよ。
スタジオの中の、誰よりも。
──
わあ。
小形
でも、そういうことを富野さんに言うと、
富野さん、若いころ
手塚治虫先生のところにいたんですけど、
手塚先生にくらべたら、
自分はぜんぜんはたらいてないからって。
──
そうなんですか。
小形
あと、富野さんがすごいなあと思うのは、
やっぱりちがうなと思ったら、
いつでも、
それまでの考えを捨てられるところです。
下からすれば言ってることが違うよって
思ったりもしますが(笑)、
その決断って、なかなかできないんです。
──
あるていどの時間と労力を注いだものを
「捨てる」って、
めちゃくちゃ勇気がいると思います。
小形
そう、でも、富野さんは、それをやる。
富野さんが新しいものをつくるときは、
いつでも、
前につくったものぜんぶ壊すんですよ。
重藤
いい作品をつくるために。
小形
はい。その重要性を、学んだと思います。
自ら妥協はしないんです。
ただ、ぼくらのほうから、
ここを妥協してほしいってお願いしたら、
妥協してくれる。
現場がダメになるような状態には、
富野さんは、絶対させないっていうかな。

──
そこは、柔軟に。
小形
人に見てもらってこその作品なんだって
いつも言っているので。
「いいもの」を「完成させる」ために、
いかに、
みんなの力を合わせられるかってことを、
つねに考えている気がします。
安部
でも、このところのはたらき方の改革で、
JAXAも変わってきていますが、
小形さんたちクリエイティブの世界では、
たぶんもっと、
仕事に対する熱量とコンプライアンスの
バランスの取り方が難しそうですね。
小形
そこは、やっぱり大きな課題ですね。
クリエイティブとコンプライアンスとを
どう両立させて、いい作品をつくるか。
多くの場合、制作サイドは社員で、
監督や作画さんは
フリーのクリエイターになるんですけど、
後者の人たちは、
何にも縛られずにやりたい人もいますし。
安部
なるほど。
小形
はたらくうえでの条件がそれぞれ違う中、
おたがい、
気持ちの部分でどうしたら一緒になれて、
いい作品をつくっていけるか。
試行錯誤していかなければと思ってます。

──
でも、安部さんや重藤さんたちが、
次、人工衛星で何をやるかを考えるのも、
クリエイティブな仕事ですよね。
今度は地球の何を見ようっていうことを、
考えているわけですから。
安部
ぼくが個人的に課題だと思っているのは、
これまでの日本の宇宙開発では、
海外の成功事例を
なぞることが多かった、ということです。
技術的には世界でもトップレベルですが、
そもそものコンセプトや発想自体は、
海外が生み出したものが多かったんです。
だから、
日本独自のミッションを考え出すことが、
ぼくら世代の課題だと思っています。
小形
そうなんですね。
安部
このまま地球がどんどん温暖化して
「大変です! 氷が溶けてます!」って
大声で発表すれば、
注目はしてもらえるかもしれないけど、
明るい気持ちにはなれないと思うんです。
そこから一歩進んだミッションを
どうつくって、
それを、どう伝えていくか ‥‥。
重藤
その点、ガンダムなどアニメーションは、
物語と一緒に、
環境問題や将来の地球のことなど、
わたしたちと
同じような問題を伝えてくれてますよね。
身近に、感じてもらいやすいと思います。
──
JAXAとガンダムって、
それぞれに
地球という同じ星を、見てきたんですね。
安部
アニメを通じてなら、自然に、
楽しみながら考えることができるなって。
やっぱり、みんなの人生って、
社会課題を解決するための人生じゃない。
なるべくなら、
楽しみながら取り組んでいきたいので。
重藤
ですから、ガンダムのみなさんとは、
今後も何か一緒にできたらいいなあって、
ひそかに思っているんです‥‥!
──
それはファンとしても楽しみです。
何でもいいから実現してください(笑)。
小形
ぼくらにできることがあれば、ぜひ。
環境や人口問題、将来の地球のことって、
ガンダムが、
ずーっと取り組んできたテーマのひとつ、
ですから。

『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より ©創通・サンライズ ©創通・サンライズ・MBS 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』より ©創通・サンライズ ©創通・サンライズ・MBS

(おわります)

2022-10-07-FRI

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