![](/n/s/wp-content/uploads/2024/03/s_title01-960x647.jpg)
かつての日本は、繊維産業が盛んでした。
たとえば生糸(絹)は明治42年に、
綿織物は昭和9年に、それぞれ
世界一の輸出量を誇っていました。
日本の高い技術によってつくられた
高品質の繊維製品が、
それぞれの時代に、いろいろな国で、
高く評価されてきたのです。
残念ながら、令和のいま、
日本の繊維産業は
世界のトップランナーではありません。
けれども、技術は残っているんです、あちこちに。
そして、おおぜいいるんです、
往時のすばらしい技術を継承しようという
情熱をもった人が、いろいろな産地に。
このプロジェクトでは、
そんな日本各地の産地と人を追いかけて
紹介をするとともに、
いっしょに「あたらしい繊維製品」をつくることを
目的としています。
このプロジェクトがはじまったきっかけとこれから、
そして日本の繊維の産地への思いの丈を、
「ほぼ日」の“布好き”な
「/縫う/織る/編む/」プロジェクトチームが、
ぞんぶんに語りました。
参加者プロフィール
![“縫”](/seisakuchu/images/icon/nui.kaneko.gif)
金子 縫
金子 縫
2021年から「ほぼ日」の商品事業部で
「〈O2〉」「つきのみせ」
「marikomikuni」など
アパレルの企画・生産管理を担当。
初就職からずっとアパレル一筋20年、
「ほぼ日」に来る前はセレクトショップの会社で
下着やルームウェアの
商品計画などを担当していたこともあり、
このプロジェクトの中心人物ながら、
「コンテンツをつくる仕事」は、ほぼ、はじめて。
名前の「縫」(ぬい)は本名、
好きなものは裁縫、布、服地と断言。
スターウォーズも好き。
![“やえ”](/seisakuchu/images/icon/yae.gif)
渡辺 やえ
渡辺 やえ
「ほぼ日」古株乗組員。2005年入社。
商品事業部に籍を置き、
「ほぼ日手帳」や「やさしいタオル」
「BIWACOTTON」などの工業製品系から、
「アトリエシムラ」「うちの土鍋の宇宙。」
「MITTAN」「tretre」
「そろそろ、いいもの。」などの手仕事系まで
さまざまなコンテンツに携わる。
最近力を注いでいるのは、
そういうこととはまた別の「MOTHERプロジェクト」。
自他ともに認める猪突猛進型のOTAKU気質で、
ゲーム、マンガ、歌舞伎など、多方面に詳しく、
どせいさんとピカチュウが大好き。
オーディオも家具も陶磁器も、
好きになったものや、好きな人が好きなものには、
専門書まで読んで勉強し専門家なみの知識をもつが、
「カメラとクルマだけは、モノにならなかった」。
モノを集めすぎて、女性誌で受けた自宅取材で
「汚部屋度満点」という名誉を授かったが、
あくまでもモノが多すぎるだけで、
じぶんなりの整理整頓はできているという。
![“みちこ”](/seisakuchu/images/icon/michiko.gif)
山川 路子
山川路子
「ほぼ日」デザイナー。2007年入社。
編み物が好きで、自分が着る冬のニットの多くはお手製。
三國万理子さんを師と仰ぎ、「Miknits」を立ち上げ、
プロジェクトリーダーを10年以上にわたりつとめている。
デザイナーながら、情熱的で冷静な編集者的視点をもち、
伊藤まさこさんの「weeksdays」や
イセキアヤコさんのジュエリー、
なかしましほさんの「OYATSU」プロジェクトなどにも
企画立案から参加している。
私生活では双子(プリンセスブーム中の女児)の母。
![“なお”](/seisakuchu/images/icon/nao.sakai.gif)
酒井 菜生
酒井菜生
「ほぼ日」商品事業部所属。2019年入社。
中・高はフランスで教育を受けたという帰国子女。
渡辺やえと組み生産管理を担当することが多く、
やえの商品愛ゆえの
暴走に近い仕事ぶりをコントロールできる
唯一の存在とも言われ、なにかと頼られている。
その表情はつねにクールかつ
アルカイックスマイル。
お寺(名刹らしい)の娘という出自ゆえか。
「熱量」を伝えたい。
- このプロジェクト、
最初は縫さんとわたしの、
個人的な趣味というか、
社内サークルみたいなかたちで始まったんですよ。
「産地をめぐる旅をする仲間」というか。
- そうだったんですか。
- 「あそこの産地がすごいらしい」と聞けば、
休みの日に見学に行きましょうよ、
みたいな感じでしたね。
- 縫さんは、たしかアパレルのご出身ですよね。
産地には、もともと、詳しかったんですか。
- そうですね。
「あの産地がすごい」ということは、
情報として知っていましたし、
仕事で訪れたこともありました。
それで「わたしが今気になっているブランド、
生地屋、産地」のリストを、
やえさんと共有したんです。
- アイドルの情報を交換するみたいに。
- ほんと、そう。それが面白くて!
それで、ひょっとして縫さんは、
「ほぼ日」でこういうことがしたいんじゃないかな、
って思ったんです。
すばらしいけれど埋もれがちな産地と
それを知らないままでいるお客さまを、
「ほぼ日」が商品コンテンツを通してつなぐ、
ということですね。
それは自分もすごく興味があることで。
- そうだったんですね。
私はもうただ楽しくて産地への旅に出て。
まさか「ほぼ日」のコンテンツになるなんて、
思ってませんでした。
- うんうんうん。
最初に行ったのはどこだったんですか?
- 尾州(びしゅう)です。
- そう、尾州って、
日本一の毛織物の産地なんですけど、
それがもう、
ものすごーくおもしろかったんです!
- 「ものすごーく」どころか
「とてつもなく」おもしろかった!
とある工場を訪ねたんですが、そこの人が、
手織りでしかできないようなことを、
機械で設計して、生産ができるんですよ。
その技術があまりにもすごくて、
聞けば、名だたるブランドが使っているとか。
それを知ったら、もう、メラメラと、
「ほぼ日で、こういうものを商品化したい!」って
思っちゃいました。
- やえさんぽい(笑)。
縫さん、驚いたでしょう。
- ハイ。こんなすごいもので何を?! って。
でも、私もやえさんと話すうちに、
そうか、こういうものが商品化できたら、
日本の繊維産業の凄さであるとか、
いまも残る産地のこと、技術のことを、
「モノにのせて」届けられるかもしれない、と。
- なんとかしてその生地でプロダクトをつくりたいと
いきなり交渉したんですけど、
たくさんはつくれない規模のところに
あまりに多くの注文が来ているそうで、
「ほぼ日」が入る余地はなかったんですよ。
でも、そのことが、さらに火をつけて。
- 「ほかのところでも、できるんじゃないか」
って、やえさん、言いそう。
- まさしく(笑)。
それで「縫さん、ほかにも、知らない?」って。
- そうしたら、出てくる、出てくる。
あそこにこんな工場がありますよ、とか、
あの地域ではこういうことをしていますよ、って、
もう、いてもたってもいられない情報が。
- 日本各地に?
- そうなんです。
生地産地には、若手の方々が立ち上げた
サークルがあったりして、
うちの産地を盛り上げるぞ、
っていう熱量がすごいんですよ。
そういうところを、やえさんに紹介しました。
- すごい、縫さんの知識。
- 私、これまでずっとアパレルの仕事を
やってきたんですけど、
いいものを作ろうとすると、
やっぱり生地が重要で。
国産の生地って、ほんとにクオリティが高いんです。
それで日本の繊維産地を調べていたんです。
繊維の産地には、
とてつもない個性と技術が残っている。
とてつもない個性と技術が残っている。
- 実際に産地に行ってみると、
わかることってありますよね。
洋服になる布、生地の産地のことって、
考えてみればこれまでよく知らなかったなぁ。
- 産地の人とか職人さんって、寡黙というか、
自分たちがやっていることやつくったものを、
わざわざアピールしないんですよね。
だからなのかな、あまり知られてない。
- 繊維系の産業って本当に昔からある業態なので、
考え方とか仕組みが古いところもあるのかな。
商社や問屋に卸すことが仕事みたいな
機屋さん(はたや=反物をつくる家)って、
昔はいっぱいあったと思うんですよね。
それだけで経済が回っていた。
でもいろいろ状況が変わってきて、
いつの間にか産地の規模が縮小してしまった。
だからなおさら、情報がわたしたちまで
届かないと思うんです。
- 産地の生地っていうのは、何が特別なんだろう。
心惹かれるところは何なんだろう。
- やっぱり、信じられないような高い技術です。
想像を超えた技術っていうのかな。
色とか織り模様とかデザインとか、
そういう美的センスとはまた別の‥‥。
- 気になります。
- この機械のこの歯車をこっちに付け替えたら、
こんな生地が織れるぞ、
みたいな、エンジニア的な部分があって。
- 「こうやったら、もっといい布ができるかも」って
常に模索しているんですね。
- そうです、そうです。
それって、すごいじゃないですか、
普通じゃ考えつかないというか。
- 機械自体から変えてしまうわけですよね。
コンピュータで言えば
プログラムを書き換えるようなこと。
それは‥‥想像を超えてますよね。
- 「そこだったんだ!」って、思いました。
美的な意匠も大切だけど、その前の段階の技術ありき。
いまとなっては珍しいくらい古い機械があって、
それをうまくあつかえる人がいて、
さらに、それを維持するだけじゃなくて、
改造というか、自分で考えて手を加えることを、
しようと思うし、やりたいし、
それが楽しくてしょうがない、
っていう人たちがいるんです。
機械でつくってるけど、
手仕事に近い感覚なんだなって思いました。
そのぶん「ゆっくり」なんですけれど。
- もちろん、スピード重視の大量生産が
悪いとは全然言わないんですよ。
たとえば、長く使っても歪まないとか、
均一で、クレームが少ないものができ、
その良さはあるわけです。
でも今回のことは、それとは真逆で、
着ているうちに風合いが変わってきたり、
体に馴染んてくるようなものができる。
そういう良さなんです。
思ったんですよ、
数はたくさんつくれないし、
ものすごく手間がかかるし、
いわば生産効率が悪いようなものの中に、
素晴らしいものがあるんだなって。
- うんうんうん。
- それって「ほぼ日」っぽいものですよね、すごく。
大量生産品と、作品の、間。
- そう、その、間。
本当にね、「ほぼ日」っぽいでしょう?
やるべきでしょ? ふふふ。
- そっか、そういう産地が、
日本各地に、たくさんあるんでしょうね。
- そして今、繊維の産地って、
続けていけるかどうか、っていう
むずかしいタイミングになってるところが本当に多くて。
でも素晴らしいものづくりをしているところ、
産地はまだたくさんあるので、いろいろ取材して、
ご紹介していきたいんです。
- いろいろ行きたいですね。
繊維の産地の日本地図がつくりたい。
- その気ですけれども、私は!
プロジェクト第一弾は
「遠州」からはじめます。
「遠州」からはじめます。
- このコンテンツは、各産地と組んでの
商品化を道しるべにしますよね。
その第一弾の産地が‥‥。
- 「遠州」です。
- 静岡の? 浜松というか。
- そうです、その遠州。
- なぜ、遠州に?
- 去年の春くらいに、やえさんと、
「またどこか産地に行きましょう」と話をしていて。
そしてたまたまインスタで
綿織物の産地をめぐる「浜松・遠州バスツアー」を
見つけたんです。
- すごい。楽しそう。
そんなツアー、誰が主催しているんですか。
- それが宮浦晋哉さんというかたなんです。
- 宮浦さんはこのプロジェクトにおいて
最重要と言ってもいい人物です。
これからもコンテンツに登場しますよ!
- どんなかたなんですか。
- ご説明します。
宮浦さんは1987年千葉県生まれ。
- 30代のかたなんですね。
- お若いんです。
なんと年間200社の繊維工場を回り‥‥。
- 200社!
- それで宮浦さんは、
日本のものづくりの発展を考えて、提案する
会社「糸編」(いとへん)をつくるんです。
いわば、繊維産業を俯瞰して見るプロ。
だから私たちがぼんやりと、いろんな面白い産地と
組んでのモノづくりをしたいなと思ったときに、
まず宮浦さんに会ってみよう、って思ったんですよ。
「お話、聞かせてください」って。
- ちょうど宮浦さんは、
繊維・ファッション業界での人材育成を目指す
「産地の学校」をなさっていて。
- 「産地の学校」? 面白そうですね。
- そうでしょう?! 私もそう思ったんです。
繊維産業について、
またテキスタイルとはどういうものかについて、
都内で先生から総合的に学ぶことができる場で、
12講で専門的な知識を得ていくんですが、
座学だけに終わらないよう、受講者を
「工場と直接商談ができる」レベルまで
持って行くんですって。
- カルチャーとしての講座ではなくって、
実学として学ぶところなんですね。
- まさしく「アカデミックよりストリート」と
宮浦さんはおっしゃっていて。
そういうところがすごくいいなあって思っていました。
また、都内での講座のほかに、
浜松で「遠州産地の学校」を開いていて、
ここではもっと具体的に
工場といっしょに学んでいくんですが、
さすがに学校に行くのは難しい。
その単発版のようなツアーもあって、
それが「浜松・遠州バスツアー」でした。
けれども、行きたいと思いつつ参加できなくて。
それで「じゃあ、自分たちで行こうか」って、
やえさんと二人、遠州に行くことにしたんです。
- え? いきなり?
- ‥‥というわけでもなかったんです。
私、最初に入った会社の本社が浜松で、
浜松に住んでいたこともあって、土地勘がありました。
- 縫さん、
「私の推しは遠州です」って言ってましたよね。
- そうなんです(笑)。
それで、宮浦さんに、遠州に行ってきますと話したら、
「僕、アテンドしますよ」って、
宮浦さんがツアコンを引き受けてくださって、
見学をするのにおすすめの工場や
この人に会ったらいいですよ、
ということを教えてくださったうえ、
引率で回ってくれたんです。
- ええーっ? 個人的に?! すごいですね。
- そこで出会うんです、
HUIS(ハウス)というブランドのかたがたに。
- 初めてお会いして、お話を伺っているうちに、
ああ、この人たちは、
生地を広めたくて服をつくっているんだ、
地場産業としての布を廃れさせず、
もっと発展させたいっていう強い気持ちがあって、
その手段の一つとして「服」を選んでる。
遠州織物っていう産地に対する想いが
洋服から感じられるんですよね。
だからフリーサイズで、
日常的に着倒せるような
デザインなんだとわかりました。
こういう方には、
「ほぼ日」で出会ったことがなかった。
- うんうんうん。
- しかも、生地がめちゃくちゃよかった、本当に。
ウェブだとわからずにいたんですが、
実際、服を見たら、
「ええっ? こんないい生地なの?」
ってびっくりして。
- うんうん、そうですね。
- だんだん縮小していく産地をたくさん見ているなかで、
産地によって事情はそれぞれ違うと思うけれど、
HUISさんの、浜松のことでいえば、
ここには、飛び抜けて「生き延びる」っていう
強さがあるように思えたんですよね。
産地の生き延び方の一つとして
「あっ、そういうのもあるんだ」と思って。
- 服のブランドとして産地に寄り添う感じですね。
- だからHUISさんのラインナップを
最初に紹介しようって思ったんです。
それゆえに「遠州から始めます」なんですよ。
ここまで来てプロジェクトとして立ち上げるため、
デザインと商品管理の担当が必要ということで、
ふたりにも声をかけたんです。
- そういうことだったんですね。
- 光栄です。
- がんばりましょう!
- 大前提として、生地をしっかり紹介したいですね。
- とにかくたくさんの人に着てもらって、
布が気持ちいい! って思ってもらいたいですね。
- はい、それが最大の目的です。
「この生地が推しなんです!」って(笑)。
わたしたちの熱量、すこしはお伝えできたでしょうか。
次回からは、ここでも話題になった
糸編の宮浦晋哉さんを迎えてのお話をお届けします。
どうぞおたのしみに!
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