写真家が向き合っているもの‥‥について
自由に語っていただく不定期連載、第13弾。
ご登場いただくのは、平間至さんです。
平間さんといえば、音楽誌のカバー、
CDのジャケット、そして何より
時代を画した「タワレコ」の広告
『NO MUSIC, NO LIFE.』で、
名だたるミュージシャンを撮影してきた人。
世代的にも
「憧れの写真をたくさん撮ってる平間さん」
なのですが、お話をうかがってみると、
平間さんの現在地は、
「その先の先の、もっと先」にありました。
渋谷ヒカリエでは大規模個展も開催中です。
担当は、「ほぼ日」の奥野です。

>平間至さんプロフィール

平間至(ひらまいたる)

1963年、宮城県塩竈市に生まれる。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、写真家・伊島薫氏に師事。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」のキャンペーンポスターをはじめ、多くのミュージシャンの撮影を手がける。2006年よりゼラチンシルバーセッションに参加。2008年より「塩竈フォトフェスティバル」を企画・プロデュース。2012年より塩竈にて、音楽フェスティバル「GAMA ROCK FES」を主宰。2015年1月、東京・三宿に平間写真館TOKYOをオープン。

前へ目次ページへ次へ

第2回 1000枚(!)撮る写真館。

──
平間さんは、
言ってみれば写真の中で生まれて、
家業を継ぐためだと思って
「しょうがなく」
写真の学校を出たんだけれども、
異国の地ニューヨークで
ひとりぼっちになったときに、
はじめて「写真に向き合った」と。
平間
きっと、ぼくの話を聞きに来る前に
思い描いていたストーリーと、
ぜんぜんちがうと思うんですけれど。
──
いえ、というか、はい、というか。
でも、とにかく意外です。
そして、おもしろいなと思います。
では‥‥そんな平間さんが、
写真を撮るときに
「大切にしていること」とかって、
たとえば何だったりしますか。
平間
当たりまえのことなんですけど、
「自分と向き合う」
「相手と向き合う」ことですね。
でも、それって、
写真に限らない話だと思います。
写真家である以前に、
人間として生きていくときには、
つねに重要なことなので。
──
相手と向き合う‥‥具体的には、
どういうことでしょうか。
コミュニケーションをとるとか、
言葉を変えて言うと?
平間
それは、もちろんそうですけど、
もっといえば、
相手を理解することでしょうね。
相手を引き受ける‥‥というか。
覚悟を持って。

平間至 《勝手にしやがれ&オダギリジョー》 「NO MUSIC, NO LIFE.」 2006年 10月 ©Itaru Hirama 平間至 《勝手にしやがれ&オダギリジョー》 「NO MUSIC, NO LIFE.」 2006年 10月 ©Itaru Hirama

──
相手を理解する‥‥引き受ける。
そうするために、平間さんは、
どんなことをしているんですか。
相手がミュージシャンなら、
その人の音楽を聴くというのは、
当たり前かもしれないですが。
平間
そうですけど、ただ、
音楽はあくまできっかけですね。
聴けば理解できるわけでもない。
やっぱり、
現場でその人と向き合いながら、
少しずつ、ですよね。
──
理解していく仕方は、
相手によってさまざまであると。
平間
少なくとも言えるのは、
その人を理解していなかったら、
よく撮れたかどうかも、
わからないでしょってことです。
──
その人を理解してはじめて、
よく撮れたかどうかが、わかる。
言い換えると、目の前の人を
どれだけ理解していたか‥‥が、
写真の出来にも関わってくる。
平間
もちろん。
──
それって、
有名なミュージシャンを撮る場合も、
平間さんの写真館に来る
お客さんを撮る場合も、同じですか。
平間
写真館のお客さんの場合には、
事前にアンケートをとったりだとか、
そういうこともしますけど、
でも、
その人を理解できるかどうか‥‥が、
やっぱり肝心な部分です。
なるべく、そこに時間をかけてます。
──
写真を撮る前に。
平間
目の前の人とやりとりをするなかで、
「ピン!」ときたら、
ようやく撮影をはじめる感じですね。
言葉にしづらいんですが、
あ、撮れるという瞬間がくるんです。
それが来るまでは、撮らない。
長い人だと、
2時間とか撮らないこともあります。
──
え、写真館で撮ってもらったことって
何度かあるんですが、
そんなふうに撮られたことはないです。
2時間も‥‥。あえてお聞きしますが、
流れ作業みたいに撮っていったほうが、
「効率がいい」気がするのですが。
平間
たしかに、
世の中のたいがいの写真っていうのは、
作業のようにして
撮られているだろうとは思うんです。
でも、撮影前に必要な時間をかけずに、
相手を理解しないまま撮って、
結果、お客さんに
満足してもらえない写真を撮るよりは、
ぼくは、いいと思ってるので。

平間至 2021年 ©Itaru Hirama 平間至 2021年 ©Itaru Hirama

──
そういうやり方にたどり着いたのって、
いつくらいからなんですか。
いきなりそういう感じだったんですか。
平間
最初からですね。
──
最初から、そのやり方だったんですか。
試行錯誤の末とかじゃなくて。
おじいさんとか、お父さんが
そういうやり方をされていたんですか。
平間
ちがいますね。でも、最初から、です。
この写真館をはじめたら、すぐに。
──
じゃあ、写真館をはじめる前は、
メディアの仕事が中心だったと思いますが、
そのときに、そういうやり方を?
平間
いや、海外のミュージシャンなんかは
「5分で撮って」
なんてこともありますから(笑)。
2時間もしゃべっていられないですよ。
──
そうか‥‥そうですよね。
平間
でも「相手を受け入れる」姿勢は同じ。
メディアの撮影でも、写真館でも、
「ああして、こうして」とは言わない。
あくまで、目の前にいる人が
自由に、自発的に動ける雰囲気だとか、
環境をつくることを大事にしています。
──
そうか、「自由に動いてもらう」のは、
たとえ「5分」しか時間がなくても
できること、なのかもしれないですね。
平間
写真館の仕事でも、
子どもたちがやんちゃしだしたりとか、
ワンちゃんがはしゃいだりしても、
ぼくたちは、絶対に止めないんですよ。
その「自由」を受け入れて、
それを楽しみながら撮っているんです。
──
なるほど‥‥。
平間
やっぱり、ああして、こうして、
笑ってくださいとか、
そうやって撮った写真って、
ほんとうの意味で、
その人らしさが出ないんですよ。
無理に笑った笑顔になったりね。
──
たしかに「笑ってください」には、
こちらとしても、
少し困ることがありますね(笑)。
平間
だから、うちは「禁止」なんです。
笑ってください‥‥は。
そんなことで「いい笑顔」なんて
撮れるわけがない‥‥
というところを出発点にして、
「じゃあ、どうしたら撮れるのか」
をその場で探っていくんです。

平間至 2021年 ©Itaru Hirama 平間至 2021年 ©Itaru Hirama

──
それは完全に相手次第、ですよね。
平間
決まったやり方って、ないですね。
いわば「インプロ」です。
──
撮影をはじめる前に時間をかけて
コミュニケーションして、
相手を理解できたかなと思ったら、
撮影する‥‥方程式のない作業。
ちなみに「撮れたな」と思うまで
どれくらいかかるかも、
やっぱり目の前の人しだいですか。
平間
平均で言うと、どうでしょうかね。
ひとつの家族を撮影するのに、
1000枚くらいが多いと思います。
──
1000枚!?
平間
撮影の前の時間、セレクトの時間、
撮ってる時間ふくめて3時間、
それで、1000枚くらいですかね。
──
そんな写真館、行ったことない!
それは、撮られた人も、
満足度が高いでしょうね。きっと。
「今日は、撮ってもらったなあ!」
みたいな。
平間
でも、あっという間ですよ。
──
聞けば聞くほど、
一般的な写真館とはちがっています。
平間
そうだと思います。
でも、そんなふうにやらないと、
こういう写真にならないと思います。
──
でも、どうして、はじめから
このスタイルでできたんだろう‥‥。
平間
それはね、やっぱり、
『MOTOR DRIVE』を写真館でやろう、
そう思ったんですよ。
『MOTOR DRIVE』、知ってます?
──
もちろんです。というか持ってます。
平間
目の前の人を「止めて」撮ることに
違和感があったんです、当時。
撮る側が
目の前の人を「止めた」瞬間に、
その人らしさが消えてしまうんです。
だから、被写体に
カメラから逃げ回ってもらって
撮ったりしたのが
『MOTOR DRIVE』なんですけど、
あれを、写真館でやってるんですよ。

平間至 《MOTOR DRIVE》 1992年 ©Itaru Hirama 平間至 《MOTOR DRIVE》 1992年 ©Itaru Hirama

(つづきます)

2023-07-21-FRI

前へ目次ページへ次へ
  • 平間至展 写真のうた -PHOTO SONGS- 渋谷ヒカリエで開催中!

    まず入場してすぐのところ、
    誰もが知ってる、タワーレコードの
    「NO MUSIC, NO LIFE.」の
    ポスターのコーナーで、
    しばらく足を止められてしまいます。
    さらに進むと、日芸写真学科時代、
    「はじめて、自ら写真に向き合った」
    ニューヨーク滞在時の作品から、
    初期作『MOTOR DRIVE』、
    錚々たるとしか言いようのない
    ミュージシャンたちの肖像群を経て、
    さまざまな「場」で即興的に踊る
    田中泯さんの「場踊り」、
    そして、
    現在の平間写真館TOKYOでの写真。
    これまでの平間さんの歩みを、
    ギュッと濃縮した大充実の内容です。
    雑誌やCDのコーナーでは、
    「わあ、あれも、これも平間さん!」
    と、あらためて驚きます。
    ミュージアムショップもたのしくて、
    中古レコードがたくさん売ってるし、
    フォトプリントのTシャツは
    当然カッコいいし。
    この展覧会のためにつくったという
    LPジャケット型の作品集とか、
    平間さんのバンドの音楽
    (カセットテープ)も販売してます。
    そのほか、会場でのゲリラライブ(!)など
    イベントもたくさんあるそうなので、
    展覧会の公式サイト
    ときどきチェックしてみてください。
    8月23日まで、
    渋谷ヒカリエ9F・ヒカリエホールBにて。
    チケットなど詳しいことについても、
    上記の展覧会の公式サイトで、ご確認を。

    特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    010 中井菜央+田附勝+佐藤雅一/雪。

    011 本城直季/街。

    012 伊丹豪 中心と周縁

    013 平間至/自由

    特集 写真家が向き合っているもの。

    001 浅田政志/家族

    002 兼子裕代/歌う人

    003 山内悠/見えない世界

    004 竹沢うるま/COVID-19

    005 大森克己/ピント

    006 田附勝+石内都/時間

    007 森山大道/荒野

    008  藤井保+瀧本幹也/師と弟子。

    009 奥山由之/わからない/気持ち。

    010 中井菜央+田附勝+佐藤雅一/雪。

    011 本城直季/街。

    012 伊丹豪 中心と周縁

    013 平間至/自由