ほぼ日が運営するリアルスペース、
TOBICHI東京で主にはたらくスタッフが、
自らの勤務先であるTOBICHIで個展をひらきます。
作家の名は、蓮尾佳由（はすお かゆ）。
抽象画を描く画家さんです。
TOBICHIのスタッフたちからは、
「おかゆちゃん」の愛称で呼ばれています。
ふだんは仲間であるおかゆちゃんに、
あらたまって、インタビューを行いました。
なぜ抽象画なのか。
どういう気持でキャンバスに向かっているのか。
質問への答えを探しながらの対話は、
ゆっくりと進みます。
抽象画家、という道を選んだ彼女の言葉に、
よろしければ触れてください。
聞き手は、ほぼ日リアルスペースチームの山下です。
蓮尾佳由（はすお・かゆ）
2020年 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。
2021年・2023年・2024年
個展(Gallery MOE•熊本県）
2022年
重城病院のメインロビー・カフェスペースの壁画制作(千葉県)
2023年
由布院駅アートホール個展(大分県)
2024年
ベネッセスタイルケア福祉施設 グランダ広島の
エントランスラウンジに作品展示(収蔵)。
アートレジデンス（ponderosa・ドイツ）作品制作。
マガジンハウス運営のウェブサイト「& Premium.jp」にて、
「今日１日を、このイラストと」10月を担当。
2025年
５月から６月にかけて、自らがスタッフとして勤務する
ほぼ日のリアルスペースTOBICHI東京とTOBICHI京都で
「蓮尾佳由個展」を開催する。
〈受賞歴〉
２０１８年 鋸山美術館(旧金谷美術館）コンクール 入選
２０１９年 ターナーアワード 入選
２０２０年 多摩美術大学卒業制作 優秀賞
２０２４年 松濤美術館公募展 入選
●蓮尾佳由のInstagram●
https://www.instagram.com/hasuok_/
- ───
- 話題を変えまして、
TOBICHIでのお仕事のことを。
- 蓮尾
- はい。
- ───
- ほぼ日のリアルスペースのなかでも、
主にTOBICHI東京での
お仕事がメインでしたよね。
- 蓮尾
- そうですね、TOBICHIでした。
- ───
- TOBICHIには、ほぼ日グッズのお店と、
ギャラリーのスペースが
半分ずつありますけど、
とくに印象に残っている催しとか、
なにかありますでしょうか？
- 蓮尾
- とくに印象的な‥‥。
- ───
- ああ、考えさせすぎたらごめんなさい。
- 蓮尾
- うーーん‥‥‥ジオラマ？
- ───
- ジオラマ？
ああー、
ジオラマと鉄道マンガ展！ - 巨大な鉄道ジオラマが
TOBICHIにドンと展示されました。
- 蓮尾
- 自分がまったく
触れてなかった世界だったので。
- ───
- 意外だけど、うれしい感想です。
- そういう未知のものがやってくると、
おかゆちゃんはかなり前向きに
興味を持ってましたよね（笑）。
- 蓮尾
- はい。
- ───
- どんどん作家さんに話しかけてました。
- 蓮尾
- せっかくほぼ日の場所にいるんだから、
こういう出会いはめったにない、
「話しかけに行かなきゃ」と思って。 - 緊張して話しかけるんですけど、
みなさんやさしいんです。
- ───
- そうだと思います。
- 蓮尾
- 「つなぐり」でおなじみのかなぶんさん、
刺繍家のyacmiiさん、ガラス作家の高橋禎彦さん、
ほかにもたくさんの作家の方と出会って、
いろいろなお話をうかがって、
影響を受けたり、勉強になったり。
ぜんぶの展示が、ありがたかったです。
- ───
- デザイナーでイラストレーターの
島塚絵里さんの展示のあとで
おかゆちゃん、
フィンランドへ行きましたよね。
- 蓮尾
- 行きました。
自分の個展で子ども向けのワークショップを
やろうと思っていて、
フィンランドではどういうワークショップが
ひらかれているのかを知りたくて。
そのとき島塚さんにお会いできて、
おうちにまでお邪魔したんです。
- ───
- なんと、おうちにまで！
すごい行動力。
ワークショップのために
そこまでしたこともすばらしいです。
▲GALLERY MOE 個展でのワークショップ（2024）
- 蓮尾
- それと、大分の由布院駅で
個展をひらいたときは
福田利之さんが来てくださいました。
▲由布院駅アートホールでの個展（2023）
- ───
- 福田さんが、大分の個展に？
- 蓮尾
- たまたま同じ時期に
福田さんも由布院で個展をされていたので、
立ち寄ってくださいました。
- ───
- なるほど。
- さあさあ、
そうやって活動してきたおかゆちゃんが、
いよいよTOBICHIでの個展を
目前に控えています。 - いまのお気持ちは？
- 蓮尾
- もう、なんだか‥‥
「どうしよう」って。
暗い気持ちに（笑）。
- ───
- えー（笑）、わくわくとかは？
- 蓮尾
- いや‥‥ずっとブルーです（笑）。
- ───
- 笑いながら
「ずっとブルーです」と（笑）。
- 蓮尾
- いつもそうなんです。
開催中もブルーで、
終わって、しばらくして、
ようやくうれしさを感じられるような。
- ───
- そうですかぁ、なるほどねぇ。
- でも、お客様の
「反応」はうれしいんですよね？
- 蓮尾
- あ、はい！ それはうれしいです。
- ───
- きょうお話をうかがって、
いちばんはっきりとしたお答えが
「反応」という言葉だったので、
そこは大事にされているんだろうなぁと。
- 蓮尾
- ずっとふわふわしていて、すみません。
- ───
- いやいや、
明確にテキパキと答えられたら、
おかゆちゃんらしくないので（笑）。
- 蓮尾
- うーーん‥‥。
- ───
- きっと、いままででいちばん、
お客様の反応を見られる
展示になると思いますよ。
だっておかゆちゃん、
シフトに入ってTOBICHIで
はたらいているときもありますよね？
- 蓮尾
- そうですね、そうなると思います。
- ───
- おもしろいかたちですねぇ。
ほぼ日手帳とかを販売しながら、
作家さんとして絵の解説をするという。
- 蓮尾
- あたらしい（笑）。
- ───
- おかゆちゃんという作家さんと、
作品の絵をセットで感じていただきたいです。
これをお読みのみなさん、
できればぜひ、おかゆちゃんが居る日に
お越しください（笑）。
- 蓮尾
- そんな‥‥どうしよう、またブルーに‥‥。
- ───
- わわわ、ごめんなさい（笑）。
- みなさま、ふつうにお越しください。
それで、たまたまおかゆちゃんが居たら、
話しかけてみてください。
- 蓮尾
- よろしくお願いします。
- ───
- なにか言い残したことはありますか？
- 蓮尾
- 言い残したこと‥‥。
‥‥おもしろいお話ができなくて
申し訳ないというか‥‥。 - ここに、ゆいこちゃんが居れば‥‥。
- ───
- ん？ ゆいこちゃん？ スタッフの？
どういうこと？
- 蓮尾
- ゆいこちゃん、いつもやさしくて‥‥。
この前ゆいこちゃんに、
「インタビューがあるんだよ」って言ったら、
「わたし、おかゆさんのマネージャーとして
横に居たいです！」って。
- ───
- そうなんだ（笑）。
来てもらえばよかったのに。
- 蓮尾
- 「おかゆさんの横に居て、
その言い方は語弊がありますとか、
これを言ってないですよとか、
そういうアドバイスをしたいです」って。
- ───
- いい仲間ですね（笑）。
- 蓮尾
- わたしがしゃべるの下手だから、
すごく心配してくれてるんです。
- ───
- わかりました。
このインタビューの締めは、
ゆいこちゃんに
「おかゆちゃんのススメ」を書いてもらいます。
- 蓮尾
- ほんとですか？！
- ───
- きっとよろこんで
書いてくれると思いますよ。 - というわけで、おかゆちゃん、
お話をありがとうございました。
- 蓮尾
- ありがとうございました。
ようこそ、おかゆさんの世界へ
ほぼ日のページ上で見た、
おかゆさんの絵はいかがでしたか？
いきなりの問いかけを失礼しました。
わたしは「おかゆさん」こと蓮尾佳由さんと、
リアルスペースチームでいっしょにはたらいている
木村結子と申します。
わたしの知るおかゆさんは、
誠実で、しずかで、存在感のあるお人柄です。
たとえば、TOBICHI勤務の日、
休憩から戻ってきたわたしが
「休憩をありがとうございました」と言えば、
おかゆさんからは、
「いえ、わたしはそんな‥‥」
というふしぎな言葉がちいさく返ってきます。
‥‥伝わっていますでしょうか。
おかゆさん本人に
実際に相対しないと、この独特な魅力は
ご理解いただけないのかもしれません。
ともあれ、そんなおかゆさんの描く絵が、
本人のお人柄も含めて、わたしは大好きです。
自称・マネージャーとなって
応援せずにはいられないのでした。
わたしにとって、おかゆさんの絵の魅力のひとつは、
よろこびに満ちた色にあります。
チャーミングなピンク、はっとするほどまぶしい黄色、
しずかではげしい青色‥‥。
おかゆさんから出てくる色は、ぜんぶ、
おかゆさんに似合うように感じます。
「パレットのうえでは自分が求める色たちを
思うままにつかうことができる」
そんな素朴なよろこびが、
自分に似合う色を筆先に導いている気がします。
そしてもうひとつ。
「境界がない」ところも、
おかゆさんの絵を見るときに大切だと思う要素です。
すこし話は逸れますが、
おかゆさんは心にもないことを言わない人です。
わたしがある質問したとき、
おかゆさんはすぐには答えず、
だいぶ時間が経って、わたしが忘れた頃に、
「あれってこういうことですよね」と
答えてくれたことがありました。
それは、丁寧でうれしい言葉でした。
誰かの質問に答えるために、
彼女がそんなふうに時間をかけるのは、
きっと他の人とのあいだに
しっかりと距離を感じているからだと思います。
でも、おかゆさんは、
他者への興味や好奇心が尽きない人です。
距離を超えたいときには、
すごく慎重に言葉を探す必要があるのでしょう
（言葉がたまに不十分であることを理解したうえで）。
おかゆさんの絵の多くは、境界がありません。
ひとつひとつの色がすこしずつはみ出し、
それぞれの重なり方を生んで、つながっています。
その重なり方に気づいたとき、わたしは、
「おかゆさんはこうやって
世界との折り合いをつけるのだ」と、
彼女の強い核のようなものを感じました。
世界や人、時間との距離をはかりながら、
おかゆさんがつくる色の重なりは、
見ているわたしたちに、
想像するためのおだやかな時間と
一種のざわめきを与えてくれるように感じるのです。
ようこそ、おかゆさんの世界へ。
TOBICHIの会場でお待ちしています。
（蓮尾佳由さんへのインタビュー、おわります）
2025-05-14-WED
