───

絵を仕事にしようと思ったのは？　

蓮尾

きっかけは‥‥。
まず、大学３年生のときでした。
ギャラリーさんから
「絵を飾りたい」と言っていただいて、
わたし、あまりピンときてないまま、
お貸ししたんです。

───

はい。

蓮尾

その絵が、人の手に渡って、展示されて。
なんというか‥‥
「うれしい」と思って。

───

自分の作品が展示されるまでを、
はじめて体験したんですね。

蓮尾

そういうことが何度かあって、
そのたびに「うれしいってな」って。

───

実感が重なった。

蓮尾

それで、卒業するタイミングになって、
そのギャラリーさんが、
「個展をやりましょう」
とおっしゃってくださって。

そのときに「仕事にしよう」と思いました。

───

どちらのギャラリーさんですか？　

蓮尾

熊本の「GALLERY MOE」さんです。

───

あ、熊本の？　
ただいま製作中でおしらせした？　

蓮尾

そうです。
わたしの背中を押してくださった、
たいせつなギャラリーです。

▲GALLERY MOE「蓮尾佳由個展」（2023）

───

おかゆちゃんにとって、
個展をひらくということは、
どういう意味があることなのでしょう。

蓮尾

‥‥意味。（基本的にずっと小さい声）

───

なぜ個展をひらくのか。
どういうことが、うれしいのか。

蓮尾

うーーーん‥‥‥。

───

‥‥‥‥‥‥。

蓮尾

ええと‥‥‥。

───

‥‥大丈夫です。
ゆっくり、考えてください。

蓮尾

‥‥‥‥‥‥。

───

‥‥‥‥‥‥。

蓮尾

‥‥‥‥反応？　

───

反応。

蓮尾

反応が見たいから。

───

‥‥いいですね。

蓮尾

それと、
ギャラリーのかただけじゃなく、
両親や友人、
小中学校の先生、
前の職場の人もそうです。
あと、
これまで絵を購入してくださったかたとか‥‥。

───

はい。

蓮尾

誰かを言い忘れていないか
心配なんですが‥‥
応援してくださるかたがたくさんいらして。
自分には、それに返す責任があると思っています。
なにかを返せたらいいな、と。

───

すてきな動機だと思います。

蓮尾

でも、あの、そればかりを考えて
描いているわけではないんですが‥‥。

───

わかります。

さっき、たっぷり考えた末に、
「反応？」って、
半疑問形で出てきた答えは、
すごく正直で健全で
明るいものだな、と思いました。

蓮尾

ああ、よかった。
ようやく明るさが（笑）。

───

おかゆちゃんは声も小さめだし（笑）、
控えめに見えます。
でも、作品を出していくことへの
積極性も感じるんです。

蓮尾

ああ‥‥。

───

個展をひらくのもそうだけど、
病院の大きな壁に絵を描くような
お仕事もしていましたよね？　

蓮尾

あ、はい。

▲千葉県「重城病院」壁画制作風景（2022年）

───

控えめなだけでは、
そんな大胆な絵は描けないと思います。

▲千葉県「重城病院」壁画（2022年）

───

去年は、マガジンハウスのウェブサイト、
「& Premium.jp」でお仕事も。

蓮尾

はい。
「今日１日を、このイラストと」という企画で、
10月を担当させていただきました。

───

あれも、手を挙げていたから、
見つけてもらえたんだと思います。

そして、そう、
これも積極性だと思うんですが、
プロフィールの写真を
幡野広志さんに撮ってもらいましたよね。

蓮尾

思いきってお願いしました。

※写真家・幡野広志さんは
ほぼ日に何度もご登場いただきました。
今回ははじめて糸井重里と対談した記事にリンクを。

───

すごくいい考えだと思いました。真正面から依頼をして。

蓮尾

はい。
‥‥このスタジオで。

───

え？　あっ、そうか、そうでした！　
まさしくこのスタジオだ。

蓮尾

ここを貸していただいて。

───

幡野さんに撮ってもらった時間まるごとが、
おかゆちゃんにとって
有意義なものになったでしょう？　

蓮尾

はい。
たくさん声をかけてくださって‥‥。
やさしい感じなんですけど、
とがったナイフみたいなところもあって。

───

ですよね（笑）。
ズバッと、
ほんとのことを言ってくれます。

蓮尾

はい（笑）。

───

写真、見せてもらいました。
すばらしいです。
おかゆちゃんの、
混ざってる感じが写ってる気がしました。

蓮尾

‥‥混ざってる感じが？　

───

個人的な感想です。
深刻な一面と、笑顔のおかゆちゃん。

蓮尾

‥‥‥？　

───

（笑）記事になったとき、
その写真を掲載しておきますね。

▲写真：幡野広志

▲写真：幡野広志

───

それで、ですね、
そもそも、みたいな話なんですが。

蓮尾

はい。

───

こうしておかゆちゃんをご紹介しながら、
「抽象画」という絵について、
どう見たらいいのか、
正直ぼくにはわかっていないのです。

蓮尾

ああ‥‥。

───

感じるところはあるんです。
でも自分の印象が
合っているのかどうか、とか。
いろいろなことを思ってしまいます。
‥‥どう見ればいいのでしょう？　

蓮尾

ええと‥‥自分の絵を、
こう見てほしい、というのはなくて‥‥。

───

自由でいい。

蓮尾

そうですね、感じていただいたままで。

───

とはいえ、たとえば、
どういう思いで描かれたのか、とか。
なにかしら鑑賞の手がかりがあると
もっと感じられるような気がして‥‥。

ちなみに、そのイーゼルに乗っている絵は、
どういう気持で？　

蓮尾

これは‥‥なんか‥‥５月、みたいな。

───

５月。

蓮尾

５月や６月の、明るい感じ‥‥
のつもりだったんですけど、
意外と暗くなってしまいました（笑）。

───

たしかに（笑）、明るいだけじゃない。
この絵でいうと、
「黄色」で明るさを表現している？　

蓮尾

それは、あの‥‥
この前何点か見ていただいたじゃないですか。

───

ええ、見せてもらいました。
メインビジュアルの絵をどうしましょう、
という話し合いのとき、
実際に作品をもってきてくれて。

蓮尾

あのとき黄色い絵があったんですけど、
それを見てみなさんが、
「これいいね」って。

───

あ‥‥反応だ。

蓮尾

そうですね（笑）。

───

ぼくらの反応を見て、
明るい黄色を入れてみようと。

蓮尾

はい。

───

わわ、作品に影響を与えてしまった（笑）。

というか、
反応を取り入れるんですね？

蓮尾

取り入れます。

───

かたくなじゃないですねぇ（笑）。
なんだかうれしくなってきます。

あとやっぱり、
解説を聞くだけでたのしいです。
そちらの赤い大きな絵は？　

蓮尾

去年の10月にドイツベルリン近郊の
シュトルツェンハーゲンという村に、
アートレジデンスのために行ったんですけど。

※アートレジデンスとは、
アーティストが普段と違う環境に一定期間滞在し、
創作活動や研究活動を行うことを支援する制度です。

───

シュトルツェンハーゲン‥‥
知らない地名です。

蓮尾

すごい田舎なんです。
歩いていると牛がいたりして。
近くにずーっと森があって。
そのときの記憶が‥‥

───

この絵になっている‥‥。

そちら側の、ちょっと暗い面積が多い絵は？　

蓮尾

これは、海。

───

海。
どこの海？　

蓮尾

自分の記憶の中の、いろいろな海です。

───

そっかぁ‥‥いろいろな海‥‥。

ちょっと情報をもらって見ると、
より引き込まれますね。

‥‥TOBICHIの展示では、
おかゆちゃん在廊してくれます？　

蓮尾

全日ではないですが、できるだけ。

───

ぜひ、できる範囲でお願いします。
お話を聞きながら鑑賞できると、
ご来場者もたのしいと思うので。

蓮尾

はい。がんばります。