
2025年末から2026年2月にかけて、
五味太郎さんがこれまでに描いたすべての絵本を並べた展示
「五味太郎 絵本出版年代記展
ON THE TABLE」が開催されました。
会期中のある夜、五味太郎さんと
グラフィックデザイナーの祖父江慎さんによる
トークイベントがおこなわれました。
その全編は5月末まで、
アーカイブ配信で視聴することができます。
長年、本づくりに携わる五味さんと祖父江さんは、
「本でやってみたいこと」が尽きないように見えます。
いったいどんなことを考え、次々と
ほかにない本を生み出しているのでしょうか。
ふたりの天才っぷりが垣間見えた対談の、
一部を抜粋してお届けします。
五味太郎(ごみ・たろう)
1945年東京生まれ。
工業デザインの世界から、
絵本を中心とした創作活動に入り、
400冊近い著作(共著を含む)を発表。
海外30カ国以上で翻訳出版されている。
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祖父江慎(そぶえ・しん)
1959年愛知県生まれ。
グラフィックデザイナー。コズフィッシュ代表。
多摩美術大学在学中に工作舎でアルバイトをはじめる。
1990年コズフィッシュ設立。
書籍の装丁やデザインを幅広く手がけ、
吉田戦車『伝染るんです。』や
ほぼ日ブックス『言いまつがい』、
夏目漱石『心』(刊行百年記念版)をはじめとする、
それまでの常識を覆すブックデザインで、
つねに注目を集めつづける。
五味さんとは、ムック『ぺぱぷんたす』での
2度にわたるコラボレーションを通じ意気投合。
2026年3月発刊『そういうことなんだ』でも
再びタッグを組む。
Xアカウント:@sobsin
- 五味
- 本の装丁って、グラフィックから始まるけど、
彫刻に近いよね。
- 祖父江
- 立体だよね。
- 五味
- 紙って、ちょっと哲学的に言ったら、
折った瞬間に立体物になっちゃうみたいな
ところがあるじゃない。
平面だったのに、折った瞬間に立体。
- 祖父江
- 紙に背骨ができるとね、本に進化するんですよ。
おもしろいよね。
- 五味
- また、難しいこと言って。
みんなに全然伝わってないよ。
- 会場
- (笑)
- 五味
- もう一回言って。
- 祖父江
- 紙に脊髄、背骨ができただけで、本になる。
背骨がないと、本じゃないんですよ。
- 五味
- 背骨は、紙を折ればできる。
- 祖父江
- 折ればできます。
- 五味
- そこに行くとおれは、
やっぱり一生に一度、
1ページの本をつくりたいと思うわけよ。
- 祖父江
- 1ページの本は、本と言えるのかな?
- 五味
- そこなんだよ。
1ページでも成り立つかと思いきや、
じつは2ページになっちゃってるんだな、
これが。
- 祖父江
- うーん。
- 五味
- だから、メビウスの輪ってえらいな。
- 祖父江
- えらいね!
- 五味
- えらいよね。
- 祖父江
- 永遠に1ページだもんね。
おまえ、裏表はっきりさせろ! って感じでね。
- 五味
- そんなこと言わないけど、おれは。
- 祖父江
- メビウスの輪を使えば、
1ページの本つくれますね。
でも背骨はないから、
本って言っていいかどうか‥‥
- 五味
- 哲学だよね、
「1ページの紙はありうるか」。
つまり、裏表がない空間がありうるか。
- 祖父江
- うんうん。
- 五味
- 紙じゃなくて、ボールや風船を
裏返しにするっていう考え方でもいいんだよ。
風船を、左右から内側に向かって
押していくわけ。
で、ここからがトリックなんだけど、
左右の指が中央を通り過ぎるの。
- 祖父江
- 右の指と左の指が会うと、くすぐったいよね。
- 会場
- (笑)
- 五味
- 哲学ってみんなくすぐったいの。
哲学はくすぐったい。
で、指が風船の中央を通り過ぎたところを
イメージしてください。
- 祖父江
- した。
- 五味
- そうすると途中で、
ドーナツ型ができるんだよね。
- 祖父江
- ‥‥わかったつもり。
- 五味
- そのドーナツ型を無視して、
どんどんどんどんどん右の指が左に、
左の指が右に行くと、
外側だったものが内側に入り‥‥
- 祖父江
- あ、入った!
- 五味
- ね。
- 祖父江
- 入った!
- 五味
- それで、内側だったものが今度は外側になる。
空間が入れ違う。
みんなわかってないかもしれないけど、
祖父江先生はわかったよ。
- 祖父江
- えへ。
- 五味
- 外にいたつもりが中に、
中にいたつもりが外にいる。
ということは、中にいたはずの自分が、
外側にいることになっちゃう。
- 祖父江
- うん。
- 五味
- すごくない、これ?
- 祖父江
- すごいすごい。
- 五味
- ああ、全然聞いてねぇ。
- 会場
- (笑)
- 祖父江
- これね、自然界ではありえるんですよ。
ボルボックス。知ってる?
- 五味
- ちょっと知ってる。
- 祖父江
- さすがだなー。
ボルボックスって、裏返るんだよね。
球の内側に丸いプチプチがいっぱいついてて、
それが、あるときフッて裏返って、
プチプチが球の外側に行くの。
- 五味
- 中と外、裏と表の入れ替わりっていうものを、
頭の中で物理的に証明しようとすると、
どっかでトリックを使わなくちゃいけない。
でも‥‥
- 祖父江
- 実際にはあるんだもんね、自然界には。
不思議ですよね。
考えても分からないけど、
実際に起こることがあるって。
なんだか奇跡みたいだわ。
- 会場
- (笑)
- 五味
- どういうつもりで言ってるの、それ(笑)。
- 祖父江
- いや、不思議だなぁと思って。
論理性とは関係なく、
なんか起こっちゃうじゃない?
生きものの命だってそうかも。
裏側の話、もうちょっと行く?
- 五味
- 行こう、裏側の話。
- 祖父江
- 楳図かずおの『錆びたハサミ』
っていう作品、あれ痛いよ。
人の中に入っちゃった人がね、
外に出ようと思ってね、
頭蓋骨の内側から、ピッてハサミ出して、
目のところでチョキンって切って、
出てくるんですよ。
痛いよね!
- 五味
- 痛いよね(笑)。
- 祖父江
- 内側から人を切って出てくる。
顔から、よいしょ、よいしょって。
これ痛いね。
- 五味
- 痛いね。
- 祖父江
- でも、これは自然界でも起こらないよね。
- 五味
- 漫画や絵本って、
頭の中で描けるものがすべてなんだ、
みたいなところがあるじゃないですか。
イメージがすべてで、
この現実の世界ってたいしたことないよね
っていう。
でも、リアリティを突き詰めて考えたら、
当然、ありえないところは出てきますよね。
楽しい感じで
まとめちゃえばいいんだろうけども、
楳図さんはグロテスクにやるから(笑)、
すごいんだよね。
- 祖父江
- 五味さんの絵本にも
そういうところがありますよね。
いままでなかった感覚が立ち上がる感じ。
- 五味
- おれなんかは、
わりとグロテスクも興味あるんだけど、
自分の絵の能力かな、
あまりそういうタッチで描く趣味じゃないから、
できないのかもしれない。
劇画で描かれる方って、
みんな絵が上手いじゃないですか。
たとえば、エッシャーって男がいましたよね。
あの人もやっぱり絵が上手かったじゃないですか。
- 祖父江
- 上手いですね。
- 五味
- あれ見ると、表現力ってすごいなって。
- 祖父江
- それでいうと、
五味さんの絵って、抽象なのに雑じゃない?
- 五味
- あはははは、けっこうね。
- 祖父江
- 気楽なのに抽象化されてる感じが快楽ですね。
- 五味
- ありがとうございます。
「雑じゃない?」って、もろに言われたの、
初めてだよ。
- 会場
- (笑)
- 祖父江
- 抽象化したら、
ついきちんとしようと思っちゃうところを、
五味さんの絵は
きちんとしないまま抽象で進むから、
なんだか楽しく見られるんです。
- 五味
- 「抽象化してるな」っていう隙は見せない。
きちんとしたのを描けないだけなんだけどね。
だから、たぶんその人の画風、
あるいはレイアウト感覚、
最後はそういうものが勝負なんじゃないかな。
(明日に続きます)
2026-03-13-FRI
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本記事では、おふたりの対談の
一部を抜粋して掲載しています。
記事にできなかったパートも
本当におもしろかったのです。
おふたりで制作中の本の公開打ち合わせ、
『うさこちゃん』シリーズのお話、
自分の本を読んで感じること、
アイディアを生むために
心がけていること、などなど‥‥
対談の全貌が視聴できる
アーカイブ動画が5月30日まで
販売されているので、
本記事と合わせてどうぞご覧ください。祖父江さんとのトークのほかに、
五味さんと歴代編集者のみなさん、
荒俣宏さん、坂本美雨さん、
金原瑞人さん、ロバート キャンベルさんとの
それぞれのトークイベントの配信もあります。
特設サイトで
くわしい情報をご覧いただけます。また、展覧会の公式図録でもある、
『五味太郎絵本クロニクル1973-2025完全版』
(アノニマ・スタジオ)も発売中です。
五味さんのすべての絵本について、
一冊ごとに五味さんにインタビューした内容が
掲載されていて、読み応えたっぷりでした。
五味さんの仕事量にあらためて圧倒されます。