──

私は建物を見るのが好きなんですけど、
鎌倉とか京都とか、いわゆる観光地みたいな場所でも、
いいなと思う建物が売りに出されて、
いつのまにか駐車場になってることとかがあって、
歯がゆいときがあるんです。

そういうのってやっぱり有形文化財みたいな
指定を受けて国に認められたもの以外は、
なくなるのを眺めているしかないのでしょうか。

もちろん、まちに住む人が
「この建物を守ろう！」みたいにファンを集めて、
クラウドファンディングで保存プロジェクトを
やる事例とかはあるとは思うんですけど。

中島

うーん、でもいま発信する方法はいくらでもあって、
各地域で建築審議会や地域会のような組織とか
活動をしている人たちが
街場の「これはいい」という建物を調査して、
文化財にしていってる動き自体は
けっこうあるとは思うんです。

──

文化財になるかどうかって、
そもそもどのように決まるんでしょうか？

中島

文化財は「文化財保護法」っていう法律を
もとに決められるんです。

そして最高グレードが「国宝」ですよね。

だからまずは明治時代のはじめとかに、
歴史的な建造物のお寺とか神社とかから
「国宝」が決まっていったんです。
そして「国宝」までいかないけれども文化財として
指定したいものもあって、決めていったわけです。

だけど、そうするとどんどん
裾野が広がっていきますよね。
その先で「誰々が住んでた住宅」とかも
文化財として指定されるようになったんです。

だけどそれ
「寺とか公共施設とか神社とかに比べて、
民家も同じ価値なのだろうか？」
みたいなこともあるわけです。

──

そのなかでもグレードがあるんですね。

中島

で、「国宝」なども含む「指定文化財」は、
国が「これが宝です」って指定したもの。

だけど文化財ってそれだけじゃなくて、
もうひとつ「登録文化財」というものがあるんです。
こっちは指定じゃなくて、登録するもの。

この「登録文化財」の仕組みをつくられた方が
言ってたんですけど、
指定は国が「これだ」と指定するもの。
登録はむしろ、所有者の側から
「これ登録してください」と出願して、
一定の価値基準を満たしてれば
「OKですよ」と登録されるものですね。

だから「指定」というのは
政府が「決めた」と指定をして、
所有者がそれを守らなきゃいけない文化財。
その代わり、守ることにかかる費用は
国が負担するという仕組み。

一方「登録」は、
個人が「社会、国、この地域にとって
価値があるものだから、登録して」と言ったら、
国が「OKですよ」って認めたもの。
だから国は「そんなに負担できないけれど、
改修のときには一部補助するよ」みたいかたち。
「国では全額負担はしないけど、ちょっとは
サポートするよ」みたいな仕組みなんです。

──

そうなんですね。

中島

で、こっちは「登録」なんで、
一定基準を満たしていればOK。
ハードルが低いんです。

その基準っていくつかあるんですけど、
けっこうざっくりしてて、たとえば
「外観が特徴的だから文化財にしたい」とか。
そういう理由でいいんですよ。

──

えっ、そういうのでいいんですか（笑）。

中島

はい、「景観上特徴がある」という。
そして「築50年以上経ってる」。

なので、けっこう最近のものでも、
そこに50年建ち続けていて、
みんなが愛着を持っている素敵なものなら
登録できたりもするんです。

もちろん調査やレポートは必要で、
そこは建築家の人たちなど専門家と
やらなきゃいけないんですけど。
だけどレポートを自治体に上げて、
文化庁に上げていけば登録されるという。

さらに、そういう登録のものって、
外観を守る必要はあるけれど、
内部はけっこう自由に使えるんです。
だから文化財だけど、なかでビジネスができて、
宿とかもけっこうあるんです。

学士会館も、最初に「登録」って言いましたよね。
登録文化財なんです。
そのため補助も受けつつ、事業活動したりとか、
内部の空間の改変まである程度できる自由があります。

──

たしかに学士会館ってレストランがあったり、
中に泊まれたりもしてましたね。

学士会館の中の様子

中島

これ、「指定」とか「国宝」になると、
ものによっては釘１本打てないとか、
いろんな制限も大きくなるわけです。

だけど「登録」はもうちょっと自由に
ハンドリングできる。
だから、そういう仕組みをうまく活用する流れを
つくっていくと、少なくとも、
いきなりなくなっちゃうことはなくなるし、
ある程度、所有者の人にも負担が少ない形で
維持できるかなとは思うんです。

そういう仕組みもありますんで、そこにつながる、
市民活動レベルでの景観まちづくりの
取り組みに参加するとかもありますね。

──

中島先生は神田のまちにも
いろいろ関われられていますけど、
神田のまちなみって、どんな特徴があるんですか？

中島

そうですね、すごくざっくりと言うと、
神田の東側は江戸時代からの町人のまちですね。

そして西側、神保町のほうとかは、
もともと武家地だったんです。
要は、参勤交代で江戸に来てる武士たちの土地。
だから土地のロットが大きいんです。

明治維新以降、その人たちが完全にいなくなったことで、
明治政府が入ってきたんです。
そこに近代化のための施設を置こうということで、
もとの大名屋敷とかの場所に大学が置かれるんですね。
それが今日の神保町につながるんですけど。

なので、西側はロットが大きいですよね。
逆に東側、内神田のほうはロットが小さくて、
いわゆる「ペンシルビル」と言われるような
ビルがいっぱい並んでます。
もともと町屋の小っちゃい区画が
そのまんまビル化しているので、そうなってます。

神田はそういう特徴の違いが
しっかり出ている土地なので、
歩くと「ほら！ ほら！」という感じが面白いです。

──

ああー！

中島

あと神田はやっぱり、地元のまちの人たちが
めちゃくちゃおもしろいんですよね、

実は僕のルーツが神田にちょこっとあって、
曽曽お祖父さんが長野から神田に出てきて、
祖父さんまで神田の淡路町にいたらしいんですよ。

なので、うちの祖父さんは
「俺で３代目だから、俺は江戸っ子だ」
というのが自慢で（笑）。
まあその後、戦争が終わったタイミングで、
（東京の西側にある）日野市のほうに
引っ越したらしいんですけど。

なので、神田のまちの人とお酒を
飲んだりする機会に
みんなの調子がだんだんよくなってくると、
死んだ祖父さんが喋ってるようなテンションがあって、
そのとき初めて僕、
「あ、うちの祖父さん、本当に神田っ子だったんだな」
と思ったんです。
べらんめえまで出ないけれども、調子がよく、
うまく滑っていく感じ。
それがけっこう懐かしくて好きなんです。

やっぱりいまでも、そういう気っ風のある人たちが
近い距離間で仲良く暮らしていて、
それこそ江戸下町情緒的な、
落語の世界とつながるような雰囲気がありますよね。
すごく気持ちよく居心地がいい。
「おお！ ちょっとここへ来なよ」みたいな感じで、
スッと中に入れてくれる。
その感じが、神田にいていいなと思うところですね。

そこが入口になって、まちの課題も
「これ、どうにかしたいんだけど」みたいに
生の声として聞かせてくれるので、
「じゃあ、こんなことどうでしょう？」って言うと、
「またけったいなこと考えるな、お前は」とか
「それはおもしれえじゃねえか」と言ってもらったり。
やろうとなると一気に
「おい、声かけといたからやろうぜ！」って
パッとすぐに動いてくれたり。

そういう気持ちのやりとりと、
まちの関わり方がすごくつながってるところが
神田のすごく好きなところですね。

──

中島先生、ありがとうございました。

今日は学士会館の工事の話にはじまり、
曳家のこと、東京駅の再開発のこと、
まちづくりの話など、いろいろ話が広がって、
都市計画について興味が増えた人も
たくさんいるんじゃないでしょうか。

都内を歩くとき、今日のお話をもとに
「ここは都市計画の場所かしら」みたいに
思いを馳せるだけでもすごく楽しそうですし。

中島

そうですね。ぜひそういう視点も持ちつつ、
まちを歩いてみてもらえたらと思います。

「まちづくり」の話って、
本当にささやかなことからダイナミックなものまで、
たくさんのドラマがあるんですよ。
また、まちの話は
「自分のまちがよりよくなるために何かできるかな？」
とちょっとでも動くと、自分に返ってくることが
すごくたくさんあるものなので、
ぜひいろんなかたに、肩ひじ張らず、
息吸って吐く延長で、
おもしろがってもらえるといいなと思ってます。

今日はこちらこそ、ありがとうございました。

──

ありがとうございました！（拍手）