
新しい登山の形「フラット登山」や、
三拠点生活など、
自然や地方との関わりのなかで、
ご自身にとっての心地よい生活のしかたを模索している
ジャーナリストの佐々木俊尚さんと、
糸井重里が久しぶりに会って話しました。
話は、「ホーム」をどう考えるかにはじまり、
地域との関わり方から、
働き方、人生の終わり方にまで及びました。
これから先、より心地よい生活を
送っていくにはどうすればいいか、
あなたも一緒に考えてみませんか?
佐々木俊尚(ささき・としなお)
作家・ジャーナリスト。
1961年兵庫県生まれ。
毎日新聞記者、月刊アスキー編集部を経て、
フリージャーナリストとして活躍。
テクノロジーから政治、経済、社会、
ライフスタイルにいたるまで発信する。
「フラット登山」を考案。散歩でもない、
ロングトレイルでもない、新しい登山の形を提唱している。
著書に『フラット登山』(かんき出版)のほか、
『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、
『そして、暮らしは共同体になる。』
(アノニマ・スタジオ)などがある。
9寿命が1000年だったら。
- 糸井
- 佐々木さんがいま興味があるテーマはありますか。
- 佐々木
- 考えているのは、さきほど話にも出てきた
小さなコミュニティについてです。
なんらかの形で表現してみたいです。 - もう1つは、死生観についての本を書こうと
ずっと思っています。
人間の死生観はどう変わっていくのか。
あるいはテクノロジーにどういう影響を与えているのか。
そういう本も書いてみたいと思っています。
- 糸井
- ほぼ日でも「老いと死」という
テーマの特集をやっています。
養老孟司さんのどこへ飛んでいくかわからない話から始めて。
そんなに真面目にやってるわけではないんですけど、
面白いですよ。
若い人ばっかりが集まって「老いと死」を語ったり。
「実感ないんですよね」から始まりますから。
- 佐々木
- 拝読いたします。
まあ20代で老いを考えてる人は
あまりいないですよね。
- 糸井
- とば口の話だけして終わりにしようと思うんですが、
佐々木さん、いくつまで生きたいと考えていますか?
- 佐々木
- ハーバード大学大学院のお医者さんである
デビッド・A・シンクレアという人が書いた
『LIFESPAN: 老いなき世界』
という本があって、
このまま医学が進歩すると
平均寿命は120歳ぐらいまでになると書いてあったので、
そのくらいまで生きたいと思っています。
- 糸井
- つまり長い老いの期間を受け入れるってことですよね。
- 佐々木
- そうですね。
医療がものすごい勢いで進化しているので
長生きはできるだろうと。
ただ健康寿命をどこまで維持できるかは
予防医療の世界なので、
そこは自分の努力でなんとかするしかない。
だからジムに行きまくってますけどね。
- 糸井
- 佐々木さんが生活のクオリティについて
相当考えていらっしゃるのはよくわかります。
今日会ったとたんに言ったことですが(笑)、
体が締まっていますよね。
- 佐々木
- そうですね。登山しているのもそうだし、
健康的な食事をしてるのもそうです。
食事、運動、睡眠。
お医者さんに健康寿命を伸ばす方法を聞くと、
この3つしか言わないですよね。
そこにかけるお金は惜しまないです。
とはいえ、たいした金額かからないんですけどね。
近所のジムに月額1万4000円払っているのが
一番大きい出費です。
- 糸井
- どういう死に方がいいですか?
- 佐々木
- どういう死に方(笑)。
糸井さんはどうですか?
- 糸井
- ぼくはだいたいのことを受け入れようと思っています。
極端に言えば、明日でもいいんです。
でも長く生きるのもいいなあ。
たとえば1000年生きる。
- 佐々木
- 1000年。それはなかなか厳しいですね。
- 糸井
- 1000年生きて、
退屈だなあとか嫌だなあとか言いながら
世の中を見てたら楽しいと思うんですよ。
過去の1000年がずいぶんいろいろ変化してるから。
この先1000年生きるのは、
火の鳥のように生きたい、ということですよね
- 佐々木
- 1000年前ってまだ平安時代ですね。
- 糸井
- そう考えると、これから1000年近く生きられたら
笑っちゃうくらい面白そうですよ。 - その一方で、
明日、人生が終わってもいいとも思っています。
実を言うとぼくは安楽死賛成派なんですよ。
クオリティ・オブ・ライフを考えると
「やりたいことができないんだったら、もういいかな」
という気持ちは持っているんです。 - 一方で、死は自分に属してないと、
吉本隆明さんに言われたことがあります。
周りの人がどうするかを決めることだと言われたんです。
- 佐々木
- つまり意識がないのに、
延命治療をさせられるということですね。
- 糸井
- そうです。延命治療については
自分の考えを書いておこうと思ってます。
- 佐々木
- ぼくも安楽死はいいと思います。
それで最後は散骨してもらうのが一番いいかなと
考えています。
- 糸井
- あと、ぼくは全身麻酔が大好きなんですよ。
- 佐々木
- 大好きという人の話はあまり聞いたことないですね(笑)。
- 糸井
- 「あ、起きてる!」という周りにいる人の言葉で
意識が戻るのがいいんですよ。
全身麻酔は小さな死を体験してるのにも近いと思うんです。
「全身麻酔から起きなかったのが、死に近いのではないか」
と思ってます。
- 佐々木
- 麻酔でスッと意識が落ちるのは、
眠るのと感覚が全然違いますね。
麻酔はスッと意識を失って、何時間も経っているのに、
1秒後に目覚めたような気持ちになりますからね。
- 糸井
- ぼく自身は死についてこんなことを考えているんですけど、
「そうは言っても、
死が近づいたら多くの人が生きたいと言うものだ」
という人がいますよね。
ぼくはその意見に対して反発があります。 - 震災のときも、
みんなが食べ物を奪い合って見苦しくなると
予言をしてた人がいたけど、そんなことはなかった。
同じように、人は死を前にすると
生きたいって言って、もがいたり、
ときには殴り合いをするんだという意見もあるけれど、
そういう人ばかりではないと思っているんです。
- 佐々木
- 悲観的なことを言ってるほうが知的に見える
不思議な文化的伝統がありますね。
楽天的なことを言うと馬鹿に見えてしまうんです。
- 糸井
- そうなんですよ。
ぼくは楽観主義なので、
馬鹿なほうでいたいんですよね。
まぁそういう予告編のようなことをお話したところで
終わりにしたいと思います。
- 佐々木
- この話は次回の予告編だったんですね。
今日は『フラット登山』の話から始まり、
いろいろなお話をさせてもらいました。
- 糸井
- どうもありがとうございました。
- 佐々木
- どうもありがとうございました。
(お読みいただきありがとうございました)
2025-10-28-TUE
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佐々木俊尚さんの新刊

気負わず、できる範囲で山を楽しんでほしいという、佐々木さんが新しい登山のかたちを書いた『フラット登山』(かんき出版)。どんな装備を用意したらいいかから、どんなコースを歩いたらいいかまで、かなり実践的な内容です。佐々木さんのパートナー、松尾たいこさんによる装画もさわやかで、山に行きたくなります。
