「ほぼ日」夏限定の人気コンテンツ「ほぼ日の怪談。」がこの2019年もはじまりました。
昨年は書籍版の『ほぼ日の怪談。』がでて、さらに今年はなんと、電子書籍にもなりました。
(詳しくはこちらをどうぞ。)

この応援企画として、「本で読む怪談のおもしろさ」をもっと知りたいと、
たいへんな読書家である河野通和「ほぼ日の学校」学校長に、「こわい本」を紹介してもらうことに。

そして絞りに絞った5冊を、1時間で一気に語ってもらいましたよ。
なんと河野さんは、この紹介のために5冊を再読して、身も心もへとへとになったそうです。

‥‥‥それはざぞかし、こわいに違いない!!

どうぞ、お楽しみください。

ここでご紹介した本は、8月23日(金)からのTOBICHI東京「すてきな4畳間」のイベントで、すべて手にとってご購入いただけます。

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第1回


『その女アレックス』


ピエール・ルメートル

これを最初に読んだときにはぶっ飛びました。

ルメートルの小説は、いきなり
核心に向かって鋭角的に切り込みます。
そして、おそらくこういう展開になるだろう、
という予想とまったく異なる場所に連れ出されます。
風向きがどんどん変わっていく。
その変わり方のスピード感と意外性、
常識を破るような奇抜な構成に、
読者は圧倒され続けます。
唖然としながら、
心を揺すぶられ、体ごと酔いしれます。

ネタバレするからしゃべれないのですが、
この作品も誘拐事件として始まります。
カバーにもこうあります。

「おまえが死ぬのを見たい
——男はそう言って女を監禁した。
檻に幽閉され、衰弱した女は死を目前に脱出を図るが‥‥。
ここまでは序章にすぎない。」。

そう! ここまでは、まったく序章にすぎません。

誘拐事件? 女性が被害者? 男が加害者?

文章は余計な説明を省き、
攻撃の手はいささかも緩めません。

さらに、その攻撃パターンが突然切り替わる。
物語の様相が一変して、
「えッ!」と驚く間もなく異次元の空間へと運ばれます。

読者はぐいぐい引き込まれてしまいます。

序盤を読んだ人たちは、おそらく、
トマス・ハリス『羊たちの沈黙』などを思い出すでしょう。
異常人格の頭の切れる猟奇犯罪者がいて、
それが女性を生贄にして、監禁して‥‥
残虐な“バッファロー・ビル”や
ハンニバル・レクター博士みたいな男が、
これでもかこれでもか、ということをやって、
自分たちを恐怖のどん底に落とすのだろう‥‥と。

そう思っていたら、大マチガイ!
最後の最後まで、えッ、えッ、そうなの!?
という衝撃の逆転が続きます。

攻めにハズレがありません。
攻めて攻めて、ぜんぶ得点をとっていく。
パンチを的確に当てていく。
そのたびに守ってる側(読者)は、
ドスンドスンとパンチを浴びて、
全身にダメージを受けていく。

描写も丁寧だし、セリフも凝っています。
そういう文学的こだわりは、えてして読者を足止めし、
テンポが緩んだり緊張感が失われたりするものですが、
いっさいそういうことがありません。
描写が細かくなっても、そこがおもしろい。
おもしろいけれども、先が読みたくてそれどころじゃない!

いやー、この人は55歳で作家デビューですから
遅咲きですが、本当にすごい才能です。

実は『悲しみのイレーヌ』という小説が
この作品の前に書かれていて、
『その女、アレックス』に『悲しみのイレーヌ』が
終わった事件として出てきます。
日本では『その女、アレックス』が先に出版されました。

でも、『アレックス』を先に読んで『イレーヌ』に戻っても
おもしろさは損なわれません。

翻訳もすばらしい。
そして、とても映画的。
場面が映像的に浮かんできます。
それがもう目の前にちらつくから、
あなたは今夜眠れない!
絶対に夢に出る!
あなたはアレックスと夢の中でまた会えます!

(つづきます)

2019-08-14-WED

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  • 『ほぼ日の怪談。』Kindle版リリースを記念して、
    TOBICHIの「すてきな四畳間」でイベントを行います。
    ここで紹介される本も、手にとってお求めいただけます。

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