
部屋のなかに太陽や惑星を出現させて、
その宇宙空間をリアルに歩き回れたら?
過去や未来の惑星配置を自由に操作できたら?
そんなSF映画のような体験を楽しむことができる、
とってもリアルで、とっても面白いアプリ、
それが「Hobonichi Globe」(ホボニチ・グローブ)です。
このアプリで楽しめるいくつものコンテンツのうち
「惑星観察」を、くわしく紹介します。
一般のひと向けの「惑星観察」を、
宇宙の専門家が体験したら、
いったいどう思うんだろう?
宇宙の専門家といえば、宇宙航空開発研究機構(JAXA)。
そこで、まさに惑星探査が専門のJAXAの技術者・
池田人(いけだ・ひとし)さんに、
完成したアプリを堪能していただくため、
神奈川県相模原市にある宇宙科学研究所(ISAS)に
お邪魔してきました。
2025年8月にアプリに追加したばかりの新モード
「MMXを観察しよう」も第2回でご紹介します。
聞き手は、ほぼ日の松田です。
池田 人(いけだ・ひとし)
研究開発部門/第一研究ユニット
宇宙科学研究所(ISAS)/火星衛星探査機プロジェクトチーム(併任)
主任研究開発員
MMX(Martian Moons eXploration)では軌道関連の解析・運用システム開発を中心に、ミッション運用検討、探査機運用検討などを担当。
JAXA入社以来、宇宙機の軌道解析・軌道運用、地上システム開発、探査機の軌道推定研究、天体の重力推定研究などに従事。専門はアストロダイナミクス。
- 2025年8月、惑星観察に新モードを追加しました。
それが、火星探査機の軌道を観られる
「MMXを観察しよう」モードです。
このモードは、池田さんが計算して
提供くださったデータをもとに、
ビジュアライズを行っています。
「宇宙のプロ」の目にどう映ったのでしょうか?
- ───
- MMXは、探査機を火星圏へ送って、
火星衛星の観測や探査をするプロジェクトですよね。
今回「MMXを観察しよう」という
新たなボタンを追加しました。
- 池田
- 画面左下にありますね。
- ───
- それをタップしてください。
すると、自動で火星へ行き、
黄色い線の先に、探査機がいると思います。
- 池田
- あ、ホントだ!
- ───
- だんだん近づいてくると思います(上のgifを参照)。
- 池田
- ホントだ‥‥。
- ───
- だんだん火星に近づいてきて、
今、火星の近くを通りすぎました(フライバイ)。
- 池田
- たしかに、結構リアルです。
- ───
- しばらくすると戻ってきて、あとはくるくる回ります。
- 今回いただいたデータには、
火星の月のひとつである「フォボス」に
着陸する以降は含まれませんでした。
たぶん、まだ世に無いからだと思うんですけど。
- 池田
- そうなんです。
まだ着陸場所は決まっていないので。 - (じっと観察しつづける池田さん)
いいですね、いいですねこれは。
見やすいですね。
- ───
- 嬉しい(笑)。
- 池田
- 本当は、ここから近づいていって
ランデブー(2体が同じ軌道を飛行)する
ような軌道に入るんです。
けど、これでも、もう十分、
フォボスに行く感じがするので良いですね。
- ───
- さらにその先に、本当は
地球へ戻ってくるわけですよね。
- 池田
- そうですね。
- 今回お渡ししたデータは、
「なんとなくこんな感じです」という
概略の軌道だったんですけど、
アプリで見ると、よくわかりますね。
- ───
- ぼくらも、アプリにしてみて、
「こんなに離れてから
また近づいてくるのね」
という面白みがありました。
再現度としてはどうですか?
- 池田
- いっかい火星から遠いところまで行って、
また戻ってきて火星周回軌道に入って、
フォボスまで近づいていくというのが
よくわかると思います。
- ───
- 今は「火星」を中心に表示しているんですけども、
フォボス中心で軌道を観ることもできますし、
探査機を中心にして見ることもできます。 - 中心の天体を変えられる、
この機能がアプリの特徴のひとつではあります。
お好みの配置で楽しんで
いただけるようなつくりなんです。
- 池田
- うんうん。
- ───
- 改めて、スタートから見ていきましょう。
赤っぽい線が、探査機の飛跡を表現したものです。
- 池田
- (観察をつづける池田さん)
今、火星周回軌道に入ったんですかね。 - ‥‥もうちょっと頑張るなら、
探査機の姿勢も「それっぽく」しても
いいかなと思いますね。
- ───
- ぜひ、この先のアップデートで
ご協力いただけると嬉しいです。
- 池田
- あとやっぱり、
フォボスを探査する軌道が特徴的なんです。
- ───
- 「擬周回軌道(QSO)」ですね(図1(a)の青線)。
フォボスから見ると、
MMX探査機があたかも
まわりを回っているように
見えるんですよね(図1(b)の青線)。
擬周回軌道の図。池田人さん提供。
- 池田
- よくご存知ですね!
- ───
- 調べました(笑)。
擬周回軌道の動きも、
本当はアプリに
含めたかったんですけど。
- 池田
- フォボスを中心にする際に
「座標変換」をしないといけないので、
こういう形式で観ると、たぶん見にくいんですよね。
- ───
- はい、座標変換のしくみは
組み込んでいないんです。
- 池田
- 画面左に「深宇宙展」と表示されていますね。
- ───
- そうなんです。東京・お台場の日本科学未来館で
7月12日から開催中の「深宇宙展*」で
MMXも模型などが展示されていますが、
そのコラボレーションの一環として
MMX探査機の軌道を実装した、という背景があります。 
- 池田
- 打ち上がったりしたら
履歴とかを加えても面白いですよね。
- ───
- もちろん、
今後更新していけるといいなと思ってます。
- 池田
- これ、ほかの探査機も入ってるんですか?
- ───
- 入っていないんです。
入れたいなという話はあるんですけど、
今回ご協力いただいたように、
軌道のデータをいただかなきゃいけなくて。 - 「TeNQ(テンキュー)」という施設が
東京ドームシティにあるんですけど、
そこにほぼ日のアースボールが常設されていて、
じつは「はやぶさ2」だけは
軌道を見れるようにしてあります。 - 軌道データさえちゃんとあれば、全然できるんです。
どんどん増やしていけるのが
このアプリのいいところです。
実際、「月や人工衛星はないの?」とは
よく言われるんです。
- 池田
- 月は、動きが速かったりしますよね。
今回のMMXのフォボスとかもそうですけど。
- ───
- そうなんです。
今回、スピードを場面ごとに変えているのは、
フォボスが速すぎるせいで。 - フォボスの回転がちょうどよく
見えるくらいのスピードで
全体をずっと表示していると、
探査機がなかなか到着しないことになるので
ユーザー体験として良くないんです。
- 池田
- ちょっと速すぎますよね。
1周でたった7.66時間ですから。
- ───
- 今回いただいた計算データ自体は
池田さんにつくっていただきましたよね。
- 池田
- はい、ぼくがつくりました。
- ───
- ふだんの業務で、今回のような軌道計算は
何人くらいでやられてるんですか?
- 池田
- どうでしょう、5、6人ですかね。
JAXAのひともいますし、
メーカーのひともいるんです。
- ───
- まだ打上げをしていない状態で、
どのくらいの計算バリエーションを
準備しておくものなんですか?
- 池田
- 難しいんですけど、
「基本はこういうので行きましょう」という
基準のやつをつくって、あとは
「なにか起きたら、分岐しましょう」という
不具合があったときにどう対処するかという分岐を
色々、たくさん、つくってます。
- ───
- 何パターンくらい?
- 池田
- それはもう、わからないくらい。
無数につくってますね。
- ───
- 無数に準備しておいて、実際に打ち上げたあとに
その中で選択していくイメージですか?
- 池田
- 選択というよりも、
そのときの状態に合わせて、つくり変えます。
今は
「こういう不具合があったら、
こういうふうに対処すればいいよね」
というのをバーっと計算しておいて。
色々な知見を予めもっておいて、
実際に不具合が起きたら、その状況に合わせて
「そういえば前に計算したな、
これで対応しましょう」
という分岐を選ぶんです。
- ───
- 不具合やトラブルって、
どういうことを想定するんですか?
- 池田
- 到着時期がズレるとか、ですね。
今の計算だと
「2027年の何月から、
QSO(擬周回軌道)から
フォボスを探査しましょう」
と予定しているんですけど、
到着が早まったり、遅れたりもするので。 - 打上げ日はまだ決まっていなくて。
ある程度の範囲はあるんですけど、
その中でどのタイミングで打ち上がったかによって
うしろのミッションの日付が変わってきます。
それに合わせて、もう1回つくり直します。
- ───
- じゃあ打ち上がってしまったら
やることがないわけじゃなくて
状況に合わせて軌道計算を
し直していくんですね。
- 池田
- そうですね まったく暇ではなく(笑)、
運用もずっとやることになります。
- ───
- MMXチーム全体だと何人くらいが
関わってるといえますか?
- 池田
- JAXA内でMMXに関わってるのは約100名で、
外部の研究者や技術者とかも合わせると、300人くらい。
海外を含めると1000人いるとか。
- ───
- その1000人くらいのうち、
JAXA内とメーカーさんを含めて
5、6人が軌道計算チームですか?
- 池田
- そうですね。
じつは「軌道計算」にもいくつかあって、
「軌道をつくるひと」と「軌道を求めるひと」がいて
合わせるとたぶん10人くらいになるんじゃないかな。
- ───
- 「つくる」と「求める」ってどういうことですか?
- 池田
- 軌道をつくるひとは
「こういうふうに飛びましょう」
という予定を計算します。
軌道を求めるひとは
「3日前にどこどこを飛んでましたから、
今、どこどこを飛んでます」
という現在地を計算するんです。
その2つのチームで、順番に仕事をしていって
探査機を運用していくんです。
- ───
- そういう感じになってるんですね。
「求める」が必要なのは、
より正確な位置を割り出すためですか?
- 池田
- そうです、実際に探査機が飛ぶと、
やっぱり予定軌道とちょっとちがうんですよ。
なので、どこを飛んでいるかをキレイに求めて、
そこを飛んでるんだったら、
明日や1週間後はここに行こうと、
予定の軌道をつくって、という繰り返しをやってます。
- ───
- 知られざる世界です。
(つづきます)
2025-09-27-SAT
