
ナッツを食って何か書くという
この不思議な連載も最終回ということで、
最後は盛大に気ままなことを書いて、
なんだこりゃという読後感を大いに喚起しつつ
謎の連載を終わらせようかと思ったのだけれど、
そういうわけにもいかなくなった。
なぜかというと、ナッツについて、
自由にたくさんのことを書いてきた結果、
自分でも意外なことに、
ぼくには言いたいことがあると気づいたからだ。
そう、ぼくは、ナッツについて、
あるひとつのことが言いたい。
たぶん、前々から言いたかったのだけれど、
そんなこといきなり言ってもしょうがないよな、
という感じで自重していたのだ。
しかし、ここには、さすがに書くことができる。
なかなかこんな場はないからね。
ぼくが言いたいことは、とてもかんたんにいえば、
「ナッツには差がある」ということだ。
おいしいナッツと、そうでもないナッツがある。
当たり前のことだと思うでしょう?
でもね、そうじゃないんですよ。
人々は、ナッツに差があると、あんまり思ってない。
これは、ぼくが年中ナッツ(おもに落花生ですが)を
ぽりぽり食べながら、しばしば実感することである。
たとえば人はコーヒーを語る。
あそこのコーヒーはおいしいとか、
おいしいけど好みじゃないとか、
けっきょく俺はあそこでいいよとか、
当たり前に、共通認識として、
おいしいものとそうでもないものがある、
ということを前提にして語っている。
でも、まあ、ナッツについては、
だいたい、どれも、こういう感じだねポリポリ、
という感じでとらえていると思う。
むしろ、さほど個体差のない食べ物だ、
というくらいに考えているのではないか。
理由はいくつかあって、
ひとつはナッツがナッツ単体で
加工されずに食われることが意外と少ないということだ。
たとえばナッツは、チョコレートでコーティングされる。
甘辛いぱりぱりの和風のお菓子で包まれたり、
柿の種的なものやキャラメルコーン的なものと
ひとつの袋に一緒に入れられたりする。
そこで、ナッツ単体の味を感じろというのは、
まあ、ちょっと無理である。
いや、ピーナッツやアーモンドは
単体で食われるじゃないかとあなたは言うかもしれないが、
じつはそれらはかなりしっかり塩味がついている。
もちろんマカダミアナッツチョコレートとかに比べれば、
ナッツそのものの味を感じられるけれど、
いってしまえば、だいたい同じ感じの塩味だ。
しかも、その意味でいえば、おおむね全体においしい。
だとすれば、ナッツの格差をわざわざ語る必要はない。
おいしいとか、おいしくないとかわざわざ言わず、
手元にあったらぽりぽりつまむ。
それで何か問題ありますか? ということになる。
いいえ、何も問題はありません。ぽりぽり。
でもね、あるよ、差は。
当たり前のことだよ。
おいしいナッツはおいしいんだ。
ぼくは、やっぱり、そう言いたい。
おいしいナッツはおいしいんだ。
4つ目の箱を開ける前に、
それをしっかり言っておきたかった。
みなさん、知ってますか。
おいしいナッツはおいしいんです。
スーパーやコンビニで年中売ってるナッツも
たしかにおいしいです。
そっちをディスるつもりはまったくありません。
むしろナッツファンとして
その安定した品質には敬意を表します。
でも、やっぱり、思うんですけど、
スーパーやコンビニで年中売ってるナッツとは
明らかに差のあるナッツがあるんですよ。
食べた瞬間、あ、おいしい、と思える、
やがて消えるナッツがあるんですよ。
ああ、こういうことが言えてうれしいですよ、ぼくは。
さて、4つ目の箱を開ける。
おいしいナッツの4箱目だ。
箱に添えられた説明カードにはこう書いてある。
「フレーバーいろいろ、ごちそうセット」
おお、最後の箱にふさわしい華やかさ!
例によって箱は6つの区画に分かれていて
それぞれにナッツの小袋がぎゅっと入っています。
一気に紹介しましょう。
ひと袋目は、ベーコンスモークドナッツ。
これは、最初の箱にも入ってましたね。
アーモンド、カシューナッツ、
マカダミアナッツ、くるみという4種類のナッツを
燻製づくりなどに用いるサクラのチップや
ベーコンと一緒にスモーク。
スモークしたナッツはとてもスモーキーです。
続いて、2つ目の袋。
同じく4種類のナッツを、
こちらは刻みコンプといっしょにロースト。
仕上げに北海道産の塩昆布と合わせて
さらに風味豊かに。磯です。和風です。
このミックスナッツも最初の箱に入っていましたね。
3袋目はこの箱にのみ入っているもので、
おなじみのやわらかくて歯ごたえのある
インド産のカシューナッツを
マダガスカル産のペッパーで味付けしています。
これはあれですよ、ほどよくソリッドで
それ自体の明確な味を主張しないが
じわじわと味のあるものに、
はっきりとした味をつけることで
両者がたまらない味わいの掛け算を導くという、
冷奴とかつけ蕎麦とかと同じ構造のうまさですよ。
新鮮なイカのお刺身に薬味とお醤油、
みたいなことですよ。伝わってますか。
ヘイヘイ、ついて来いよ。
4つ目の箱はトリュフですよ。
トリュフっていうと、あれですよ、
世界三大珍味のひとつで、
まあ、あれだ、特殊な風味のキノコです。
訓練されたブタさんが森で探すやつですよ。
ちなみに世界三大珍味の
ほかのふたつはキャビアとフォアグラですね。
ウインダムとミクラスとアギラは
世界三大カプセル怪獣ですね。
力のトライフォースと
知恵のトライフォースと
勇気のトライフォースは
世界三大トライフォースですね。
そういうのは世界三大とはいわないと思う。
やり直します。4つ目の箱はトリュフです。
ここは資料の言い回しをそのまま引用しましょう。
「ブラック・ダイヤモンドと呼ばれる
仏ペリゴール産の黒トリュフと、
ブルターニュ産ゲランドの塩をブレンドし、
4種類のナッツに贅沢に合わせた」そうですよ。
わはは、と笑ってしまいそうな豪華さですよ。
「ブラック・ダイヤモンドと呼ばれる
仏ペリゴール産の黒トリュフと、
ブルターニュ産ゲランドの塩をブレンドし、
4種類のナッツに贅沢に合わせた」ナッツなんて
なかなか食べられないですよ。
「ブラック・ダイヤモンドと呼ばれる
仏ペリゴール産の黒トリュフと、
ブルターニュ産ゲランドの塩をブレンドし、
4種類のナッツに贅沢に合わせた」ナッツを
あなたは食べたことがありますか。
ぼくも「ブラック・ダイヤモンドと呼ばれる
仏ペリゴール産の黒トリュフと、
ブルターニュ産ゲランドの塩をブレンドし、
4種類のナッツに贅沢に合わせた」ナッツを
はじめて食べたんですけど、
「ブラック・ダイヤモンドと呼ばれる
仏ペリゴール産の黒トリュフと、
ブルターニュ産ゲランドの塩をブレンドし、
4種類のナッツに贅沢に合わせた」ナッツは、
おいしかった。また食べたいと思った。
5つ目のナッツのフレーバーは
バーニャカウダです。
ああ、ぼくはバーニャカウダが大好きなんですよ。
あの、独特のどろどろした濃厚なソースを、
くつくつと、ふつふつと温めて、
パプリカとかさ、セロリとかさ、ラディッシュとかさ、
なんか赤カブを薄切りしたようなやつとかをさ、
ぐぐっとつけて食べるわけだよ。
で、野菜を食べきってもソースが残っちゃって、
もっと野菜がもらえないものかなとか
思っちゃったりしてね。
あ、ヤングコーンとかもいいね!
ヤングコーン! 変な名前、ヤングコーン!
前職の先輩にシバタさんという愛すべき人がいて、
その人とフォルクスに行くとかならず注文するときに
「じゃあぼくは、ヤングじゃないけどヤングステーキ」
って言うのが恥ずかしいやらおかしいやらでさ。
やり直します。
5つ目のナッツのフレーバーは
バーニャカウダです。
ええと、鎌倉の沖で穫れる
カタクチイワシを原料にしたアンチョビと
ナッツの組み合わせだそうです。
このこってりとした濃厚さは、
もちろん他では味わえないものですよ。
さあ、最後は、ローストナッツです。
用いられてるナッツは
オーストラリア産のアーモンドと
インド産のカシューナッツとアメリカ産のくるみ。
これを、じゃじゃーん、
塩とオイルだけでローストしましたとさ!
うまいよ。シンプルで。ぽりぽりと。
ああ、ナッツそのものの味がするよ。うん。
この箱はあれですよ、
まあ、この箱に限らないともいえるけど、
友だちとの家飲みの際に、
手土産として持っていった場合に最強で、
かならずや「おまえでかした」ということになるよ。
「なにこれだれこれもってきたの」ってなると思うよ。
「あ、おれおれ」「あたしあたし」って答えたら
「なにこれなんなのどこのどうしたの」
ってことになると思うよ。
だって、おいしいナッツはおいしいですからね。
そして、またたく間に消えます、ナッツは。
ひとりで食べても消えるんですから、
友だちと食べるはさらなり。
家族とつまむもいとおかし。
さて、4回に分けて、非常識なほど熱心に
ナッツについて書いてきましたが、
なにしろ、ほぼ日でこのナッツを買う機会は
10月30日までです。
ありふれた言い回しに本気を込めて言いますが、
この機会を、どうぞ、お見逃しなく。ほんとに。
ああ、たくさん書けて、ぼくは満足です。
なかなかこういうことを伝えられる場はない。
というか、こんなに思うことがあるか、俺は。
ナッツというものに。
そういうのも含めて、おもしろいなあ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
やがてナッツは消える。
いいタイトルだと思うので、
映画化してくれませんかね。
‥‥どうやって。
2020年10月 永田泰大(ほぼ日)
(おわり)
2020-10-30-FRI
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デリな生活のたのしみ展
ナッツ!ナッツ!ナッツ!
Groovy Nuts × ほぼ日
日本初のナッツ専門店として、
2014年にオープンしたグルーヴィーナッツ。
店内には、世界中から仕入れた「木の実」が
博物館のように並んでいて、
ひと粒、ひとつぶ、姿も味もさまざま。今回「デリな生活のたのしみ展」のために
とくべつなセットを4つ、用意していただきました。
ぜひ、お召し上がりくださいね。