──

日本のフェイクニュース対策は始まったばかりですね。

古田

そうですね。
この８年間で世界各国が進めてきた対策が、
日本ではほとんど進んでないんです。

「日本ファクトチェックセンター」という名前で
やっているけれど、
ぼくはずっと
「ファクトチェックだけでは問題は解決しない」と
言っています。
活動の柱は２つあって、１つはファクトチェック
もう１つは、メディアリテラシー教育です。

メディアリテラシー教育で、
「なぜ人は騙されてしまうのか」とか、
「なぜ間違った情報がこれだけ拡散するのか」のような
メディア環境の基本的なしくみから教えています。

アルゴリズムとかフィルターバブルって言葉を
聞いたことあります？

──

ぜひ教えてください。

古田

YouTubeの画面を思い浮かべてください。
画面を開いた瞬間、
自分が見たい動画が並んでいるじゃないですか。
すごいと思いませんか？

世界中でYouTubeの動画って、
１分間に500時間以上アップされています。
つまり星の数ほどある中から、
あなたが見たい動画はこれでしょ？と
ズバッと集めてくる。

──

たしかに、興味にそった動画がおすすめされますね。

古田

これはアルゴリズムが、
いろんなデータに基づいて並べているんですよ。

ぼくだったらトレーニングや格闘技、ゴルフが好きだから、
そういう動画をパパッと並べてくれる。
情報が氾濫している中で、
自分でひとつひとつ検索するのは手間がかかる。
勝手にYouTubeなどのサービス側が選んでくれるのは
めちゃくちゃ便利なわけですよ。

ただしこのアルゴリズムによって、
フィルターバブルという状況が生じてしまうんです。
アルゴリズムというフィルターを通ったコンテンツばかりを
見ることになってしまう。

気がつけば、自分で情報を探すことが減っているんですよ。

（資料提供：日本ファクトチェックセンター　以下同）

──

たしかに、
自分の好きなものばかりを見ている気がします。

古田

昔はウェブサイトをブックマークしていたと思うんです。
好きなサイトを定期的に見に行くために。
でもブックマーク使うことは減っていると思うんですよ。

今では『ブックマーク』という言葉自体を知らない人も
増えていると思います。
それはすごい量の情報が押し寄せてくるから、
自分でブックマークをしてまで
サイトの情報を見る必要がなくなってくるんですね。

特にショート動画ですよね。
次から次におすすめの動画が出てくる。
見ているだけで気がつかないうちに
あっという間に時間が過ぎてしまう。

──

そうですね。

古田

「エコーチェンバー」も大事な言葉のひとつです。
直訳すると「反響室」という意味です。
防音室のような
狭い部屋で音が反響する部屋ってありますよね。
あれをエコーチェンバーと言います。

古田

あとソーシャルメディアには
フォローっていう機能がありますよね。
どういう人をフォローしますか？

──

好きな有名人です。

古田

好きな人ですよね。
自分が嫌いな人やメディアを
わざわざフォローする人はそんなにいませんね。

自分の好きなインフルエンサーをフォローする。
自分が好きなインフルエンサーの言葉も、
そこにコメントする人たちも
自分と似たような考えの人たちです。
そうすると、せまい反響室の中で、
「それ、いいね」、「正しいよね」っていう言葉ばかりが
こだまのように聞こえることになってしまう。

いろんな意見があるのに、耳に入ってこなくなってくる。
これが、いわゆるエコーチェンバーという状態です。

──

反対意見は耳に入らなくなってしまう。

古田

そうなんです。

こういったアルゴリズム、フィルターバブル、
エコーチェンバー、認知バイアスとか、
メディアリテラシーの基礎的な用語を理解している人は
日本で非常に少ないんですよ。

先日、日本ファクトチェックセンターと電通総研で
行った調査では、
メディアリテラシーに関する基礎的な用語を
理解していた人の割合はわずか10％以下でした。

古田

アメリカや韓国などアジアの国々とか
他の国を調べた調査と比較すると
日本はダントツに低いんですよね。

──

ダントツに低いんですか。

古田

ダントツに知っている人が少ないですね。
なので、この遅れを取り戻していかないといけない。

アルゴリズム、フィルターバブル、
エコーチェンバー、認知バイアスとか。
こういう言葉を知らずにインターネット見るのは、
運転の仕方を知らずに
車を運転するようなものだと思います。

──

大人も子どもも
毎日何気なくネットを使っているけれど
これらの言葉を理解していないかもしれませんね。

古田

ぼくは選挙が終わるたびに
投稿していることがあるんです。

選挙が終わると結果を見て、
「私の周りでは
Aさんに投票した人がもっと多かったのに‥‥」とか、
「私の周りでは投票している人はいっぱいいるから、
投票率がこんなに低いなんておかしい」
とかポストしている人たちがいるんですね。
「それがまさにエコーチェンバーです」と。

あなたの周囲にAさんの支持者が多く見えるのは、
あなた自身がそうした人たちをフォローしているから。
けど、他の人はBさんをフォローしているから、
全然違う景色が見えているかもしれない。
こういうことにまず気づかないといけないんですよね。

──

そうか。フィルターバブルの中にいて、
さらにエコーチェンバーが起きると
自分の考えが正しいと思いこんでしまう気がします。

古田

そうなんです。
フィルターバブルとエコーチェンバーは、
認知バイアスとめちゃくちゃ相性がいいんですよ。
自分が「◯◯党の◯◯さんっていいかも」と
思ったとしますよね。
そしたら、その人が出ているYouTubeを見ますよね。

YouTubeのアルゴリズムは、
「この人は◯◯党の◯◯さんが好きなんだ」と認識します。
そうすると、その人が出てくる動画を
どんどんおすすめしてくる。

で、それによって、
「あ、いいじゃん！」とおすすめされた動画を
見てフォローする。

どんどん流れてくる動画を認知バイアスで
「正しいことを言っている！」と受け取る。

認知バイアスと
フィルターバブル、エコーチェンバーがすべてあいまって、
あっという間に「◯◯党の◯◯さん最高だ！」
となっていってしまう。

──

見ているうちに好意的な気持ちが
どんどん強くなっていきそうですね。

古田

まさにそうです。
人間の認知バイアスで、接触率が高いものが
正しく見えてしまうという傾向もあります。
そうすると、どんどん特定の情報ばかりを
集めてそれが正しいと思うようになってしまう。

──

たしかに同じ情報を何度も聞いていると、
最初は「これ、正しいのかな？」と疑いを持っていても
だんだん正しいような気がしてきちゃいますね。
これが認知バイアスですか。