──

最近、情報に振り回されていると思うことがよくあります。
そのモヤッとした気持ちがこの企画の出発点です。
わたしは「ほぼ日」というメディアの人間で
情報を伝える側でもあるのですが、
そのことをいったん忘れて、
一個人としてお話を聞きたいと思っています。

古田

わかりました。何でも聞いてください。

──

SNSを見ていて
「こんなニュースがあるのか！」と驚いて
リポストしそうになることがあり、
あとから、フェイクニュースだったとわかったことが
ここ最近何度もありました。

偽の画像や動画を信じてしまったり、
偽の情報を信じてしまったり。
フェイクニュースをいったん信じている自分がいることに
ちょっと怖さを感じるんですよ。

古田

なるほど。

──

もうひとつは選挙。
テレビやネットニュース、SNSなどで
幅広く情報を集めているつもりだけど、
結果は、予想していたことと違うことが起きている。
自分にとって都合のいい情報ばかりを集めていることを
実感しています。
「井の中の蛙」になってしまっているなぁと感じました。

古田

いまは世の中に情報があふれすぎている状態なので、
不安になって当然だと思いますよ。

──

そうですか。そう言われると安心しますね。

では本題に入る前に、
古田さんの経歴とフェイクニュースとの関わりを
教えていただけたらと思います。

古田

はい。
ぼくは朝日新聞で新聞記者や海外特派員、
デジタル編集部での勤務を経験しました。
そのあとBuzzFeedという
アメリカのインターネットメディアが
日本版を始めるにあたり、編集長に誘われて、
BuzzFeedに移りました。
そこで編集長を３年半やり、
フェイクニュース検証に取り組みました。
その後はフリーランスになって
Google News Labで２年間働き、
2022年に「日本ファクトチェックセンター」を立ち上げて、
いま編集長をやっています。

フェイクニュースの問題は
BuzzFeed時代の2016年からやっているので、
10年目になります。

──

フェイクニュースの問題に
取り組み始めたきっかけはどんなことでしたか？

古田

2016年のイギリスのブレグジットと
アメリカの大統領選です。
イギリスが国民投票でEUからの離脱が決まったことと、
アメリカの大統領選でトランプ氏が
１回目に当選したことですね。

当時、BuzzFeedにいたんですけど、
この２つのできごとは世界中をびっくりさせたんですよ。
「なんでこんなことが起きるの！？」と、
どちらも予想から大きく外れたできごとだったんです。
理由を調べたら、
ネットに大量の偽情報が拡散していることがわかった。

当時のBuzzFeed同僚のクレイグ・シルバーマンが
アメリカ大統領選のときに
Facebookで拡散しているニュースを調べたんですね。
上位から並べていったら、
CNNやワシントンポスト、
ニューヨークタイムズのような
伝統的なメディアのニュースよりも、
デタラメばっかり書いている
いわゆるフェイクニュースサイトが発信している
ニュースのほうが上位に来ていたんですよ。

──

フェイクニュースがよく見られていた‥‥。

古田

偽情報が増えていることは気づいていたんですよ。
でも「まさかここまで多いとは」と驚きました。
この2016年を起点に
フェイクニュースへの問題意識が世界に広がったんです。

──

2016年から海外では
フェイクニュースの問題意識や
ファクトチェックの重要性が広がっていったのに、
日本にはあまり広がらなかったですか？

古田

2016年ごろも
フェイクニュースは日本にも広がっていたのですが、
それを検証するファクトチェックの重要性は
広まりませんでした。

2017年に日本で衆議院議員の総選挙があり、
そのときにクレイグ・シルバーマンがやったのと
同じ手法で、日本の状況を調べてみたんですよ。
結果は、日本でもNHKとか朝日新聞とか読売新聞などの
大手メディアの記事よりも、
偽情報を流しているニュースサイトの記事のほうが
上位だったんです。
だから日本にも2017年の段階で、
フェイクニュースはたくさん出回っていた。

でも日本は昔から圧倒的に自民党が強く
政権がひっくり返るほどではなかったので、
重要性がわかりにくかったんです。

──

そうだったんですね。
なぜ偽情報が広まるかなどの話は
あとで詳しく聞かせてください。

古田さんたちが取り組んでいるファクトチェックは
週に何本ぐらいやっているんですか？

古田

週に７、８本ぐらいですね。
カテゴリーとしては
政治、国際、医療・健康あたりのニュースが多いです。

▲日本ファクトチェックセンターがファクトチェックをしたニュースの内訳。多い順に政治、国際、医療・健康、災害と続く。

──

ファクトチェックするニュースは
どんな基準で選んでいますか？

古田

まずはファクトチェックであって、
オピニオンチェックではないというのがあります。

たとえば「古田大輔はバカだ」という情報があるとする。
それは意見として受け止めるしかないので、
ファクトチェックはできないんです。

だけど「古田大輔は大学に裏口入学した」
という情報があったとしたら、
「いや、裏口入学はしていません。なぜなら〜」
というファクトチェックができますよね。
そういった形で、客観的に検証ができるものかで
最初のフィルターをかけます。

──

まずはファクトを確認できるかどうかですか。

古田

そうです。
その上で、ぼくたちは３つの指標を考えていて、
１つ目は「広さ」。影響している人口の多さですね。
２つ目が「深さ」。影響の深刻さ。

たとえば風邪に関する噂と
新型コロナウイルスに関する噂があったら、
コロナのほうが死亡率も高いので深刻ですよね。
だからコロナのほうを選ぶ。

３つ目は「近さ」。
日本の話題とイギリスの話題だったら、
日本の話題が優先します。

そういう３つの指標を考えながら、
「今回はこれを検証しよう」と決めます。
検証を始めても途中でボツにすることもあります。
だいたい３割ぐらいの割合でボツになります。
これは客観的、科学的に検証ができないという
パターンです。