クレイジーケンバンドの横山剣さんと糸井重里は、
これまで互いの作品のファンでありながら、
いちども対面したことはありませんでした。
なぜか機会がなかったのです。
横山さんにとって糸井は、長年影響を受けた
矢沢永吉さんの本『成りあがり』の制作者でもあり、
そして糸井には、
「横山剣という人が、どこからやってきて
どんな道を通って、この場所に至ったのか」
という、根本的な興味がありました。
さぁ、クレイジー・ケンができるまでの、
ロング・マグネティック・コンテンツを
おたのしみください。
きっとあなたも、呼ばれているぜ。
＊近日公開＊
歌あり、笑いあり。貴重な動画バージョンはほぼ日の學校で！
横山 剣（よこやま けん）
クレイジー・ケン。音楽家。
横浜の本牧育ち。
通称、東洋一のサウンドクリエイター。
17歳でクールスのローディーとなり、
1981年、ボーカルに。1984年に離脱。
その後、輸出貨物の検査会社に勤務しながら
1997年にクレイジーケンバンド（CKB）を結成。
「タイガー&ドラゴン」などのヒットを生む。
2004年から2018年（2019年は惜しくも11位）の
オリジナルアルバムがすべてベスト10入り。
2021年、音楽家としてデビュー40周年を迎える。
- 横山
- 母は当時、
渋谷の西武デパートＢ館で働いてたんですよ。
なぜならぼくが「ここで働け」と言ったからです。 - 母は父と別れてひとりでぼくを
食わしていかなきゃいけなかった。
工員さんになって働きたいって言うんで、
「いやダメだ」
「ＶＡＮの子ども向けラインの
ＶＡＮミニとかＶＡＮボーイズがあるから、
その服を社割で買えるように、ＶＡＮで働け」
と母に言ったんです。
- 糸井
- 子どもが親に？
- 横山
- そのときは４年生でした。
- 糸井
- また貿易商みたいな子どもだ（笑）。
- 横山
- そうしたら母が、
ＶＡＮに電話したけどダメだったと言う。
じゃあ今度は、
「たとえばデパートのなかで
ＶＡＮを扱ってるところがあるでしょう」
つって調べて、
渋谷の西武デパートのＢ館４階に
ＶＡＮの子ども服売り場がありました。
「そこに入ったらどうだ」と薦めて、受かって、
それからぼくは社割で
ＶＡＮの服を着られる子どもになりました。
- 糸井
- どうしてそんなこと（笑）、
知ってたんでしょうね。
- 横山
- なんでしょうね、
やっぱり‥‥ＶＡＮはレーサーの
生沢徹さんのスポンサーとして知っていたし、
おじの読んでいた
『プレイボーイ』や『パンチ』で
アイビーやトラッドのカッコよさに
触れていたんでしょう。
- 糸井
- アイビーね‥‥横山さんはぼくより
ずいぶん若いんだけど、
全部ぼくの世代に話が重なってます。
- 横山
- いやいや、子どもなもんですから、
実際にはアイビーファッションのことを
あまりわかっちゃいませんでした。
けれどもＶＡＮミニ、ＶＡＮボーイズのおかげで、
その最終車両に乗っかれたんです。
- 糸井
- つまりＶＡＮは子ども服をつくったおかげで、
その文化を小分けできた、
ということなんですね。
- 横山
- ほんと、そういう感じです。
住んでいた日吉には慶応大学がありますから、
ヨコワケハンサムの慶応ボーイが
日吉中央通りのＶＡＮを扱う洋品店で、
当時、洋服を買っていたわけですよ。
「あれと同じ色味で」「ボタンダウンにしたいな」
とか、思ってました。
いや「色味」なんて言葉はさすがに知らないですけどもね（笑）。
「プルオーバーがいい」とか言っちゃって。
- 糸井
- 小学生でしょう？
- 横山
- はい（笑）。しかしぼくには
高くて買えないわけですよ。
ですから母親に働いてもらって、
勤務終わりの時間をみはからって、
日吉から渋谷まで東横線に乗って
売り場に行き、
「これとこれとこれ」って、やってました。
- 糸井
- ‥‥よく、珍しい人の話として
「子どもながらに大人のようなことをする人」
の話題が取り上げられたりしますけど、
いまの話全体、とくに「何をした」わけじゃないから
テレビの名人芸には出ない内容ですね（笑）。
だけど、すごくおもしろい。
- 横山
- そうなんですよ、
テレビには出ないし、
まったく誰にも褒められないし、
自分だけの世界です。
- 糸井
- 全体的にはおままごとのようなんだけど。
- 横山
- 「ごっこ」ですよね。
「大人ごっこ」です。
- 糸井
- いやぁ、楽しかったでしょう、それ。
もちろん子どもだから、
金回りがよくない。
お母さんのおかげで
割引でファッションを手に入れて、
音楽のほうは、いとこの持っていたものを
もらえたわけですね。
- 横山
- ええ。
音楽のダビングも好きにさせてくれましたし、
ギターも放置してあるんで、
弾けないんだけど弾いたフリみたいに、
ストロークだけ真似していました。
リビングにピアノもあって、曲の伴奏を
自己満足的レベルで楽しく弾いていました。
- 糸井
- 大きな家にみんながいて、
音楽がそこに自然にあったような感じですか？
- 横山
- そうです。大きな家のリビングに
ピアノがあって、ギターがあって、
ソファーがあって、
そこに無造作にレコードやら
「家具調ステレオ」やらが置いてある。
そこはぼくのおじの家なんですけど、
みんながパラサイトしている状態でした。
親戚のなかでそこがいちばんいい家で。
- 糸井
- おじさんは、もちろん住んでるんですよね？
- 横山
- 住んでます。
そこを増設して、みんなが住みました。
- 糸井
- ‥‥よっぽどおじさん、
うまいこと行ってたんですね（笑）。
- 横山
- すごく太っ腹な方で、楽しかったです。
- 糸井
- 「貧しさが人を育てることはある」という物語は
たくさん世の中にありますが、
そういう「おじさん」も、人を育てますね。
- 横山
- そうですね。
もうひとり別の親戚のおじさんがいて、
その人は、見てはいけないようなものも
いっぱい見せてくれました（笑）。
- 糸井
- 横山さんちの全体的な
家系図を遠くから眺めたとしたら、
それはわりとふざけたような感じの
家系だったのでしょうか。
- 横山
- そうですね、
かなりファンキーだったと思います。
じつはちゃんとしてる人たちなんですが、
基本的に「人生を楽しむ感じ」が
共通しています。
- 糸井
- そうですね、
楽しい雰囲気はするけれども、
おそらく捨てばちな人はいませんね。
- 横山
- あ、そうだ、いませんね。
- 糸井
- なるほどなぁ、
しっかりしてるんだ。
- 横山
- はい。
ものごとを楽観的に考えることで、
なんとかなる、という感じです。
- 糸井
- それはもう、「學校」ですね。
- 横山
- ああ、そうですね。
- 糸井
- 横山さんは「その學校」の出身なんですね。
- 横山
- 言われてみればあそこはまさに學校でした。
音楽聴いて、地図広げて、
南米に興味を持って
そこから図書館に行ったりして。
（土日も連続して、つづきますヨッ！）
2021-10-08-FRI
-
クレイジーケンバンドの最新アルバムは
初のカバーアルバム『好きなんだよ』です。今年デビュー40周年を迎える横山さんが
ご自身の音楽遍歴をあらためて振り返り、
エネルギーの源になったすばらしい歌の数々を
１枚のアルバム作品として表現しました。
矢沢永吉さんの「時間よ止まれ」、
ORIGINAL LOVEの「接吻」、
シュガー・ベイブの「DOWN TOWN」、
ユーミンの「やさしさに包まれたなら」など、
「ああ、クレイジーケンバンド、
そう表現するのか！」
という鳥肌楽曲のオンパレード。
ぜひ聴いてみてください。