
ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
クリス智子(くりす・ともこ)
ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。
- ──
- ここだと確信したクリスさんの直感に、
ダンナさまは、
現地を見る前に申し込みをした。
- ダンナさん
- あたりは鬱蒼としていたんですけれど、
建物の中は綺麗だった。
水野さん、大切に住んでいたんだなあ、
ということが、すぐにわかったし。
- ──
- 誰かが大切にしていたものを受け継ぐ、
それって素敵なことですよね。 - 自分は、70年前に製造されたカメラを
使っているんですけど、
これまで
何人もの人の手を渡ってきた機械が、
いま、
自分の手の中で動いているってことが、
何だか、
かけがえのないことに思えるんですね。
- クリスさん
- 本当に。それに、何年住んでも
まだまだ知らないことが出てくるので、
日々、おもしろいんです。 - たとえば庭に山茶花が植えられていて、
リビングからよく見えるんです。
最初は、
以前ここに住んでいた人たちが、
どうして
山茶花を植えたのかピンとこなかった。
それで自分たちの好きな植物に
植え替えようかなと思ったんですけど、
冬になるごとに、この庭に
ピンクの花を咲かせるようすを
リビングから眺めていたら、
「ああ、だから山茶花だったのかなあ」
って、理由がわかった気がして。
- ──
- 前の人の思いに共感できた?
- クリスさん
- 何か、前に住んでいらしたみなさんと
会話できているような‥‥
そういう「ギフト」が、
いまだにちょこちょこ、あるんですよ。
「素敵だな、いいなぁ、おもしろいな」
みたいな「うれしい発見」が。
- ダンナさん
- そうだね。
- ──
- 誰かにずっと大切にされてきたものは、
それだけで「宝」ですよね。 - クリスさんのおうちに
多くの人が集まるのもわかる気がする。
- クリスさん
- 自分たちでどうこうしようと思っても、
せいぜい何十年かの話ですよね。 - この建物だって、わたしたちより先輩。
「自然」なんて「永遠」です。
だから、自分たちの思いどおりに
すべてをコントロールするより、
折々にいろいろなギフトを受け取って、
「わ、こう来たか~!」って
びっくりしてるほうが楽しいんですよ。
- ──
- ギフトっていう捉え方は、いいですね。
- 思いがけないできごとも、
自然や時間からの贈りものだと思うと、
「楽しむ」視点が足されますから。
- クリスさん
- ここに残されていた蔵書も、すごいの。
「処分するには忍びないなあ」
というような本がいっぱいあるんです。
パラパラやってると、たまに
著者から水野さんへのお手紙なんかも
挟まっていたりして‥‥
チラリとのぞいてみたりとか(笑)。
- ──
- この家に住むということは、
それも「込み」だってことなんですね。 - おもしろいなあ。
- クリスさん
- だから「家を買った」というより、
この場自体に惹かれたんだと思います。
- ──
- 改装、リノベーションするに際しては、
じゃあ、以前の所有者の思いを
あるていど受け継ぎながら、
そこへ、自分たちらしさも加えながら。
- クリスさん
- 少しずつ、ですけどね。
- ──
- このあたりでようやく、
本日の本題に近づいてきたんですけど、
何でも、ひょんなきっかけから、
この家の近くに建っていた
古いお家も引き受けた‥‥そうですね。
- クリスさん
- そうなんです。
わたしたちがこの家へ越してきたのが、
8年くらい前なんですけど、
近くに空き家がいくつか建っていたんです。
わたしたちの出逢った一軒も、
持ち主の方がわからなかったんですが、
数年前の台風のときに、
そこの敷地の木が倒れちゃったんです。
- ──
- わあ、それは大変!
- クリスさん
- そこで、所有者の方を探し出して、
やりとりをするようになったんですが、
「こちらで処分しますので」
って言ってくださってはいたんですね。 - でも、都内にお住まいで、
なかなかことを進めることができずに、
半年くらい経っちゃったんです。
- ──
- ええ。
- ダンナさん
- で、そうこうしているうちに
「もし可能なら、
建物と敷地を買い取っていただけたら
ありがたいです」
というようなお話になっていって。
- ──
- なんと。その方も、クリスさんたちに
引き受けてほしかったのかなあ。
- クリスさん
- ただ、その所有者のおばあちゃまが
ちいさいころから住んでらした家だったので、
強い思い入れがあったようで。 - 買い取ってほしいと言ってみたものの、
手放すことに戸惑いもあったみたいで。
わたしたちも、
ほしくてたまらないというわけでは
なかったし、
その話は、一度は立ち消えになって。
- ダンナさん
- でも、その後に地滑りが起きたんです。
さらに木が3本、倒れてしまった。 - 危険なので、管理が必要だと伝えると、
あらためて
「やはり、引き取っていただけますか」
ということになったんです。
- ──
- もう住めないけど、
思い出の家を、手放したくはなかった。 - 何となくわかります。
その、おばあちゃまの気持ち。
- ダンナさん
- さらに、当時はコロナ禍をきっかけに、
三浦半島や鎌倉に移住する人が増えて、
不動産ブローカーさんたちが
よさそうな土地を買って開発している‥‥
みたいな話も、
方々から聞こえてきてはいたんですね。 - であるならば、
ぼくたちが買い取って管理したほうが、
いいのかなあと思ったんです。
- クリスさん
- だから買いたい、ほしいという目線で、
見ていたわけではないんです。 - ただ、近くにある「空き家」を、
どうにか、綺麗にしたいよね‥‥って。
- ダンナさん
- どちらかというと、止むに止まれずで。
安全のために買ったようなところも。
- ──
- でも、その「古い空き家」が
あんな素敵な建物になったんですよね。 - そのポテンシャルは感じていましたか。
物件好きのクリスさんの「目」には。
- クリスさん
- ああいう場所になるとは、
買った当時は、考えていませんでした。 - われながら、まさかの展開です(笑)。
- ──
- 家がもう一軒、増えちゃったわけだし。
- ダンナさん
- そう。所有する不動産が増えると、
管理費の負担も、そのぶん大きくなる。
建物を解体して、
この先、土砂崩れが起きないように
最低限の土留めだけして、
自然に返すという選択肢もありました。 - ところが、中に入ってみたら、
「この家は、壊しちゃいけないな」と。
- ──
- 感じた?
- ダンナさん
- いまにも倒れそうな古い家なんだけど、
なぜか空気が気持ちよく流れていて、
まったくカビ臭くない。
それどころか、まさに、
時間だけが生み出せる雰囲気があった。 - できるだけ、このまま残せないかなと。
入った瞬間に、そう思ったんです。
撮影:公文健太郎
(つづきます)
インタビューカットはじめ、
撮影クレジットの明記されていない写真は、
すべて編集部による撮影です。
2024-08-30-FRI
-


クリス智子さんご夫妻が
近隣の古い民家を引き受けて再生した
cafune(カフネ)という場。
ここから何がうまれるんだろう‥‥と
わくわくします。
まずは「cafune & pieces」という
オンラインショップが、
8月28日(水)の21時にオープン。
第1弾のおたのしみとして、
3つの「まあるいもの」を販売予定。
おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
ベーグル型の鍋しきと、
どれもクリスさん一家が愛用する品
(写真は、鍋しき)。
それぞれの作家さんと
クリスさんの対話も公開予定だそう。
気になったら、cafuneのサイトを
チェックしてみてください。