ラジオパーソナリティのクリス智子さんが、
ご自宅の近所にひっそり建っていた
ふる〜い一軒家を引き継いで、
おもしろそうなことをはじめるみたいです。
その建物‥‥というか「場」の名前は、
cafune(カフネ)。
愛しい人の髪にそっとやさしく指を通す、
おだやかなしぐさ‥‥という意味を持つ
ポルトガル語なんだそうです。
いったい、何がはじまるんだろう?
わくわくしながら、うかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>クリス智子さんのプロフィール

クリス智子(くりす・ともこ)

ハワイ生まれ。上智大学卒業後、FMラジオ局・J-WAVEでナビゲーターデビュー。現在も同局で『TALK TO NEIGHBORS』(月曜日〜木曜日、13:00〜13:30)に出演中。そのほかナレーションやイベントMCなど、幅広く活躍中。

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第2回 時間だけがうみだす空気。

──
この家に越してくる前は、
おふたりは、どちらにいらしたんですか。
クリスさん
逗子に3年半ほど住んでいました。
その前は目黒です。
知り合い(の小暮徹さんご夫妻)が、
こっちへ家を買ったとき、
まだちっちゃかった子どもを連れて
遊びにいったんですけど、
「なんか、海に近いのはいいね」
「逗子だったら、電車も楽だよ」なんて。
けっこうノリっていうか(笑)、
なかなか急な展開ではあったんですけど、
「ダメだったら戻ればいいし」
くらいの気軽な感じで、
東京にも荷物を置きつつ移ったんですね。
──
フットワークが軽いなあ。
クリスさん
逗子ではマンションに住んでいたんです。
いつかは売りに出すことを前提に。
どなたにも好まれそうな雰囲気の内装に
リフォームをして‥‥。
──
つまり、ご自身たちの好きなテイストに、
あんまりしすぎないで。
クリスさん
そう。それで住みはじめて
1ヶ月もしないうちに、
当初は子どものためにと思って
移ってきたんだけど、
わたしたちが
「もう、こっちがいい」となっちゃって。
ダンナさん
東京へ帰る気がなくなったんだよね。
クリスさん
東京は東京でいいところがありますけど、
なんだろう、
こっちにすごく馴染んじゃったんだよね。
ダンナさん
ぼくは、逗子に住みはじめたら、
「都会には住めないな」って思いました。
──
どうしてですか。
ダンナさん
うーん、やっぱり「人」かな。
距離感もほどよく近いし、やさしかった。
クリスさん
ご近所のみなさんも、気さくに、
うちの子に話しかけたりしてくれるんです。
「坊や、元気?」とかって。
わたしが小さかったころも、
ご近所さんにかわいがってもらったので、
「ああ、こういうのいいな」って。
ダンナさん
とにかく居心地がよかったんです。
逗子には、
わたしたちと同じような「移住組」が
けっこういたので、
地元の人たちにも、
受け容れてもらいやすかったんですね。
──
でも、そんなに居心地が良かったのに、
どうして別の家を探そう‥‥と?
ダンナさん
彼女が、いつかはマンションじゃなくて、
一軒家に住みたいと言ってたんです。
クリスさん
言ってたっけ。
ダンナさん
言ってたよ(笑)。
クリスさん
たしかにもともと一時的な住まいだって
はじめから考えていたので、
家具もぜんぜん置いてなかったんです。
だから落ち着ける一軒家を探したいって、
思っていたのかもしれません。
──
なるほど。
クリスさん
はじめは、同じ逗子内で探していたんです。
わたし、逗子の海が大好きですし。
ただ、もう少し植生の多い環境がいいな、と。
ダンナさん
逗子、葉山でね。
クリスさん
あちこち見てまわりました。
鎌倉といっても、海と山でちがいます。
町内でちがうし、駅によってもちがう。
もともと物件を見るのが好きなんです。
というか、引っ越し好き。
ここの家で、23回目なんです(笑)。
──
えええ、そんなに!?(笑)
23軒ぜんぶ覚えてたりするんですか。
クリスさん
覚えてますよ。
ちっちゃいころに暮らしていた家は、
さすがにちょっと曖昧ですけど。
──
それだけ引っ越ししてきたクリスさんと
ダンナさまのご夫妻が、
最終的な住処にしよう‥‥と思ったのが、
ここのおうちってわけですか。
クリスさん
やっぱり、子どものことも大きいですね。
わたし自身これだけ引っ越しをしてきて、
楽しかったんだけど、
ひとところで育つよさもあると思います。
ここが自分の育った土地だ、
という感覚を、
子どもに持たせてあげたいなあ‥‥って。

──
なるほど。
ダンナさん
ぼくはもう、必死についていくだけ。
クリスさん
そんなことないでしょ(笑)。
ダンナさん
「ええっ? ここに住むの? 本当に?」
みたいなことが何度も(笑)。
──
じゃ、「ついにめぐりあった」みたいな、
そんな感じですか。探しに探しまくって。
クリスさん
せっせと物件を見に行っては、
「ちがうかなあ」ってやってたんですが、
ここの家は、たまたまお休みだった日に、
完全に軽いノリで見に来たんです。
鎌倉からはちょっと離れてるし、
不動産屋さんからは
「クリスさんのおっしゃるイメージとは
ちがうかもしれませんが、
それでも、ごらんになりますか?」って。
──
ええ。
クリスさん
でも、なにしろ「物件好き」なもので、
見てみたいですって見にきたら、
「わあ、ちょっと待って!」‥‥って。
──
どのへんに「ピン!」ときたんですか。
クリスさん
まず「開拓しがいがある」と思ったのが、
ひとつの大きな理由です。
室内に置いてあったモノを見ても、
以前に住んでいた人が
素敵な方だろうとわかったし、
この家を大切にしていたことも
ひしひしと感じたので、
「引き継いだら、いい家になるだろうな」
と確信しました。
修理しなきゃならない部分もあるけど、
歳月を経たからこその魅力って、
どうやったって
人の手では生み出せないじゃないですか。
──
はい。時間だけのなせる業ですよね。
クリスさん
時間の堆積にしかうみだせない空気感が、
この家には満ちていたいんです。
それで、不動産屋さんに
「ちょっと待って。この家、売らないで」
ってお願いしたんです(笑)。
ダンナさん
ただ、たしか、その翌々日には、
ディベロッパーに買われてしまう予定で、
交渉権を得るには、
「いま申し込まないとダメ」って(笑)。
クリスさん
わたしとしては、心は決まってました。
ただ、「売らないでほしい」と
言ってはみたものの、
その場で即決はできなかったんです。
でも
「申し込まなかったら交渉もできないよ」
ということになり。
ダンナさん
申込書をPDFで送ってもらって、
すぐに、必要事項を記入して捺印をして。
それをスキャンして送信しました。
──
早業ですね!
クリスさん
そうやって交渉する権利を確保してから、
あらためて、いっしょに見に来たんです。
そしたら「え、ここなの?」って(笑)。
ダンナさん
すっかり陽の落ちた時間帯だったので、
あたりは完全に真っ暗闇の森でした。
──
なるほど(笑)。
ダンナさん
鬱蒼とした木々をわけいって、
門をギギーッて開けて敷地内に入っても
「どこに家があるの?」って。
──
そんな暗闇で、見てと言われても(笑)。
クリスさん
もう、本当に感謝です。信じてくれて。
「絶対ここだと思う」というわたしの意見を。
ダンナさん
いや、もう、そこまで言われちゃったら、
しょうがないですよね(笑)。

撮影:公文健太郎 撮影:公文健太郎

(つづきます)

インタビューカットはじめ、

撮影クレジットの明記されていない写真は、

すべて編集部による撮影です。

2024-08-29-THU

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  • 2024年8月28日の21時、 cafuneのオンラインショップが オープンします。

    撮影:藤原慶

    クリス智子さんご夫妻が
    近隣の古い民家を引き受けて再生した
    cafune(カフネ)という場。
    ここから何がうまれるんだろう‥‥と
    わくわくします。
    まずは「cafune & pieces」という
    オンラインショップが、
    8月28日(水)の21時にオープン。
    第1弾のおたのしみとして、
    3つの「まあるいもの」を販売予定。
    おいしいうめぼし、真っ白いお皿、
    ベーグル型の鍋しきと、
    どれもクリスさん一家が愛用する品
    (写真は、鍋しき)。
    それぞれの作家さんと
    クリスさんの対話も公開予定だそう。
    気になったら、cafuneのサイト
    チェックしてみてください。