最後は、ソワレさんがYouTubeにアップしている
「シャンソン・テラコヤ」第１回の内容を
ダイジェスト的に抜粋し、テキストにしてご紹介。
シャンソンの語義からエディット・ピアフ、
2024年パリ五輪の開会式におけるシャンソンまで、
「はじめてのシャンソン」にぴったりの内容。
動画のラストはソワレさんの歌唱！
興味が出たら、ぜひとも本編もごらんくださいね。

「シャンソン」は「歌」を意味します

シャンソン（CHANSON）とは、フランス語で「歌」という意味。つまり、日本語でいう「歌」、英語の「ソング（SONG）」です。日本でいうところの「歌謡曲」は「シャンソン・ポピュレール」と呼ばれ、その中でも深い物語性があったり、悲しいストーリーが綴られているものが「シャンソン・サンチマンタル」。だから、日本で「シャンソンが好き」と言っても、フランス人にはうまく伝わりません。多くの人の心に響く「歌」って、「ラブソング」だと思うんです。でも「ラブ」といっても、不倫の恋もあれば、年齢差のある恋もあるし、同性の愛もある。あるいは、愛しい人が刑務所に入ってしまった、そんな恋の物語だってあるはず。ひとくくりにはできないんです。シャンソンって「むずかしいもの」というイメージがあるかもしれませんが、そんなふうにとらえないでほしい。シャンソンにもさまざまな歌があり、ひとりひとりの人生に必ずピタリとはまる曲があると思います。

2024年のパリ五輪とシャンソン

パリ五輪、開会式の冒頭に流れたのは「La foule（群衆）」のインストゥルメンタル。最後は「Hymne à l’amour（愛の讚歌）」をセリーヌ・ディオンが歌いました。つまり、オープニングとエンディングを飾ったのは、いずれもシャンソン。ともに、エディット・ピアフの代表曲。ただ、この時代のシャンソンを現在進行形で歌い続けている国は、もう日本くらいしかないんです。これこそが「日本のシャンソン」の大きな特徴。ピエール・バルーという人をご存じでしょうか。「♪ダバダ、ダバダバダ‥‥」で有名な、映画『男と女』の主題歌を作詞した人。同映画に出演もしていますが、ぼくは日本におけるピエールのマネジャーをやっていた時期があります。ピエールは、日本のシャンソニエに行くのが大好きでした。「どうして？」と聞くと、彼はこう答えました。「フランスでは誰も覚えていないような古い曲を、日本人のおばさまたちがドレスを着て歌っている。その光景が、非常に興味深いんだ」と。

エディット・ピアフについて

世界的なシャンソン歌手といえば、エディット・ピアフ。自らの壮絶な人生を反芻しながら歌う人でした。父は大道芸人、母もアーティスト。坂の多い街ベルヴィルで、そうした両親のもとに生まれたピアフ。今でもフランスに行けば、路上やメトロで歌う人はたくさんいますが、そもそもシャンソンのはじまりはそういう風景にあります。自作の曲を街で歌い、その譜面を売ってお金を稼ぐ。ピアフも、そういうところからスタートしています。これは越路吹雪さんが買ってきた譜面ですが、当時はそうやって曲が広まり、多くの歌手によって歌われ、ヒットが生まれていった歴史があります。また、ピアフは後進を育てることにも熱心でした。イヴ・モンタン、シャルル・アズナヴール、ジョルジュ・ムスタキ、シャルル・デュモン……数多くの若手アーティストを見いだし、育て、スターへと押し上げていったのです。私生活もドラマに満ちていました。世界的なボクサー、マルセル・セルダンと恋人関係となりますが、彼は飛行機事故で亡くなってしまう。そんな悲劇的な出来事もありました。最後は国民的スターとして惜しまれながら亡くなり、パリの交通が完全に麻痺したのは、ピアフの葬儀が最後だったとも言われています。ずいぶん前、もう20年以上前になりますが、わたしもピアフのお墓に参りました。命日が近かったせいかもしれませんが、100メートル先からでも「ああ、あそこがピアフのお墓だ」とすぐにわかりました。真っ赤な薔薇に囲まれていたから。