
シャンソンの魅力について教えていただく連載、
第3弾は、ごぞんじROLLYさんです!
わたくし「ほぼ日」奥野にとっての
あこがれのギターヒーローでありながら、
日本のシャンソン歌手が勢ぞろいする
「パリ祭」では司会進行役をつとめるなど、
シャンソンにも造詣の深いROLLYさん。
それもそのはず、ロックよりも先に、
シャンソンに出会っていたそうなのです。
お話は大好きなQueenから日本の歌謡曲、
山本リンダさん、
幼少時に聞いていた「母のお経」まで‥‥。
ROLLYさんの私的シャンソン論、
縦横無尽・自由自在に展開していきました。
どうぞ、お楽しみください。
ROLLY(ローリー)
1963年生まれ、大阪府高槻市出身。
90年「すかんち」のヴォーカル&ギターとしてデビュー。グラムロックを彷彿とさせるビジュアルと、
- ──
- シャンソンの歌詞で歌われる物語世界って、
何と言ったらいいのか‥‥
「濃ゆい」と表現したらいいのか、
一言で言えば「ただ、すごい」と思います。 - たとえば、美輪明宏さんが歌っておられる
「ボン・ヴォアヤージュ」とか。
- ROLLY
- 美輪さんは「語り」も、すばらしい。
「老女優は去りゆく」なんか、最高ですよ。 - 落ちぶれた過去のスター、落ち目の流れ星!
ああっ、もういちど舞台に立ちたい‥‥
あのスポットライトの下で拍手を浴びたい!
耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐え抜いた。
なぜならばアテクシには
女優としての誇りと自身があったから!
‥‥とかね。最高やね。
- ──
- 通行人の端役からカムバックして、
いろんな役をやった‥‥
女王も娼婦も人妻も娘も‥‥。
愛する男は若い女優と駆け落ちしちゃって、
心の支えの子どもは病気で死んで。 - 壮絶な人生を歌い上げる、みたいな歌詞が、
シャンソンには多いんでしょうか。
- ROLLY
- シャンソンで歌われるテーマっていうのが、
ありますよね。人生とか、恋愛とか。
18歳の男の子と
50手前のおばさまの肉欲を歌ってたりね。 - ヘヴィメタルが地獄のことを歌うのと似てるね。
- ──
- わはは、なるほど(笑)。
- もう、好きで好きでしょうがないって話で、
こっちへ来ないでとか言いながら、
でも好きみたいな。
- ROLLY
- 「窓から飛び降りるわよ!」とかね。
- ──
- そんな情熱的な恋というものがあるのか、
みたいな感心の仕方をしています。
- ROLLY
- あるんやねえ。これはね、
レ・ロマネスクさんとはじめて出会った、
その日のことなんですけどね。 - 昼間、モンマルトル墓地に行ったんです。
ヘミングウェイとか、
いろんな有名人のお墓があるんですが、
あたりを散歩してたら、
何やら女性の叫び声が聞こえたんですよ。
- ──
- はい。
- ROLLY
- パッと見たら、ひとりの女性が
ベランダから飛び降りようとしていたね。
それを、男が必死に止めていた。 - おそらく「来ないで、飛び降りるわよ!」
みたいなことを言ってたんでしょう。
- ──
- 実際に、そんな場面に出くわしたことが。
- 戦争の歌も多い印象ですけど、
沢田研二さんが歌う「脱走兵」なんかは、
深く聴き入ってしまいます。
- ROLLY
- しかも、同じ曲を歌っても、
歌い手によって歌詞とか表現が違うから、
雰囲気も変わってくるよね。 - みんな同じ歌を歌うコンサートがあれば
おもしろいなと思ってるんです。
出る人出る人が「マイ・ウェイ」を歌う、
「マイ・ウェイ・コンサート」とか。
- ──
- つまり、それぞれがそれぞれに解釈した
「マイ・ウェイ」を歌うコンサート。 - おもしろそう!
- ROLLY
- そうです。歌う人によって、
ちがう曲になるから絶対飽きないと思う。 - でも、本来なら
ロックでも、ポップスでも、歌謡曲でも、
その人独自の世界というのが
もっと前面に押し出されていいと思う。
- ──
- シャンソンのように。なるほど。
- ROLLYさんは音楽全般にすごく詳しくて、
この曲とこの曲が似てるよねとかって、
よくおっしゃるじゃないですか。
クイーンの「Now I’m Here」と
太田裕美さんの
「木綿のハンカチーフ」の共通点がとか。
- ROLLY
- はいはい。
- ──
- どういう音楽の聴き方をしてるんですか。
- ROLLY
- カテゴリーにこだわって聴いてないです。
ふつうの人より、たぶん。 - これはロックだとかロックじゃないとか、
そういう論争がよくあるけど、
ぼくはロックでもロックじゃなくても
別にいいじゃないかと。
シャンソンには、そういうとこあるよね。
- ──
- はい、そのスピリッツは感じます。
好きなように歌えばいいじゃんみたいな。
- ROLLY
- さっき「パリ祭」でも
印象的なシャンソンを歌っていた人って
シャンソン歌手じゃなかった、
みたいな話をしたけど、
そのあたりに、
何か秘密があるんじゃないかと思います。
- ──
- 自由ってことですね、つまり。
音楽は自由。それはシャンソンに限らず。
- ROLLY
- そうね。
おにぎりにケチャップかけるみたいなね。
- ──
- わはは、自由だなあ(笑)。
- パッと見では合わないかもしれないけど、
やってみたらいいじゃんの精神で。
案外おいしかったりするかもしれないし。
- ROLLY
- 心をすべてに開放しているなら、
いいものはいいと、
スッと入ってくると思うんです。 - 商店街を歩いているときに
パチンコ屋から流れてくる軍艦マーチと、
おしゃれなブティックのボサノヴァが
一緒に耳に入ってきて、
え、けっこう心地いいねえなんてことも、
あるかもしれないでしょ。
- ──
- つまり「音楽に心を開放してる」んだ。
ROLLYさんは、いつだって。
- ROLLY
- 気持ちの悪い合体になるときもあるね。
- ダ―ンターン、ズッタカタッタ、
ズッタタタタ、グルグルまーわーるー。
いま「軍艦マーチ」と
「回転木馬」をくっつけてみたけど、
気持ち悪かったね。
- ──
- ROLLYさんというミュージシャンは、
そうやってできているのか。
今日は、いろいろな発見がありました。 - そういえば先日、
髙平哲郎さん演出なさった舞台
『赤塚不二夫スクラップブック』にも
おうかがいしたんです。
- ROLLY
- 本当ですか。ありがとうございます。
- ──
- 赤塚不二夫さんはもちろん、
髙平さんのお考えになってることも、
すごいなあ、
おもしろいなあって思ったんですが、
何せキャスティングが絶妙で。
- ROLLY
- バカボンのパパが小堺一機さんでね。
- ──
- ROLLYさんがイヤミ役で。
正直、それを見たくて行ったんです。
- ROLLY
- 楽しかったです。
- 楽屋では、小堺さんと松田洋治さんと、
花木さち子さんとぼくとで、
そこでずーっと
映画やシャンソンの話ばっかりしてた。
- ──
- 今日は、本当にありがとうございました。
- 勇気を出してトビラを明けてみることは、
大事だなとあらためて思いました。
シャンソンって、敷居が高いどころか、
なんでもありで自由なんだなあ‥‥
ということも、
ROLLYさんのお話に滲み出てましたし。
シャンソンの底知れなさを、
あらためて教えていただいた気持ちです。
- ROLLY
- フランス語で歌われていたポップスが
日本に伝わり、
そこで独自なかたちで発達してるから、
もう「何でもいい」んですよ。
- ──
- はい、大事なのは、
みんなで歌を楽しむところなのかなと。
- ROLLY
- やってるぼくらは楽しんでるんだから、
あんまり難しく考えず、
どんどん自由に楽しんでほしいですね。 - シャンソンって、歌って意味ですから。
美輪明宏
ボンヴォアヤージュ
美輪明宏さんの歴史的名演。究極のかたち。ほとんど演劇です。いちばん好きな台詞は、もちろん、「港に立つ女になってしまった」。最高やね。他の誰にも真似できません。
(終わります)
写真:福冨ちはる
2025-10-14-TUE
-
これまでジャズやロックに挑戦してきた演歌歌手の神野美伽さんが、今度はシャンソンを歌います! ただいま絶賛準備中、チケットはもう発売中。本番までに「ほぼ日」でシャンソンを楽しく学んで、当日はみんなで「オー・シャンゼリゼ」を歌いましょう! きっと素敵なコンサートになります。ぜひ、足をお運びください。
