
糸井重里の突然のポストが、ことの始まりでした。
「ぼくはCASIOって会社に弱くてさー。
今日も『カシオ最高峰の電卓』って
お知らせメールを真剣に読んじゃった。」
このポストを目に留めてくださった
カシオ計算機株式会社のみなさんが、
「もしよければ、実際にさわっていただけたら」と、
ほぼ日にやってきてくれました。
なんと、約80台の「電卓」を引き連れて!
社内で誰よりも電卓を使っている
経理チームの乗組員たちも、
黙っちゃいられないと集まりました。
電卓を囲んで大いに盛り上がった、
なかなかほかになさそうな、濃い1時間。
技術力や価格だけが理由ではない、
どうにも惹かれる「CASIOらしさ」を垣間見ました。
(カシオ計算機さんより、
「カシオ計算機のサイトでも『ほぼ日』訪問記を書いています。
電卓の詳しい情報も見られます」とのことです!
本記事と合わせて、ぜひご覧ください)
- CASIO
- ほぼ日のみなさん、よろしくお願いします。
カシオ計算機です。
- ほぼ日
- よろしくお願いします!
- CASIO
- きょうは、私たちがいま販売している、
ほぼすべての電卓をお持ちしました。
ぜひ、手にとって見ていただければと思います。
‥‥とはいえ、これだけ並べてしまうと、
どれから見るか迷ってしまいますよね。
- 乗組員
- 正直‥‥はい(笑)。
- CASIO
- では、特徴的なものからご説明いたします。
こちらは「人間工学電卓」といいます。
- CASIO
- 映画のCGをつくるときなどによく使われる、
モーションキャプチャーという技術を使って、
人が電卓を打っている状態を動作解析しました。
その結果から、人が電卓を使うとき
「手が傾いている」ことがわかったんです。
それなら、手が電卓に合わせるのではなくて、
電卓側が手に合わせていくべきだと考えて、
キーの盤面を3度に傾けています。
だから、常に手指にフィットするんですよ。
- 乗組員
- あっ、本当だ。打ちやすいです!
意識していなかったけど、
たしかに手が傾いてるんですね。
- 乗組員
- こちらは傾きの向きが逆ですが、
違う製品なんですか?
- CASIO
- それも人間工学電卓ですが、左手用なんです。
- 乗組員
- あぁ、左利きの方用の!
- 糸井
- 右利き用を使ってから左利き用を使うと、
すごいよ、ぜんぜん違います。
ぼくは右利きだから、右利き用の使いやすさが
よくわかりました。
この電卓に費やした努力は、
お客さんにも、もちろんしっかり届いたんですよね。
- CASIO
- ありがたいことに、頻繁に電卓を使っている方ほど
「打ちやすい」と言ってくださります。
- 糸井
- ああ、まさに生き延びている製品なんですね。
- CASIO
- もの珍しさだけで終わらないように、
と思っていたので、ほっとしています。
ちなみに、うちは人間工学電卓で、
数十年ぶりに電卓のCMをつくったんです。
そのCMのメインを張ったのは、ここにいる、
開発から担当した木村です。
- CASIO
- こちらのS100という製品は、
ちょっと驚かれるかもしれません。
価格が3万8500円の、
「最高級電卓」なんです。
さわってみてください。
- 乗組員
- ひええ、これが‥‥。
- 糸井
- ぼくは電卓の素人だから、
具体的なすごさはまだわからないんだけど、
まず、軽いです。
- 乗組員
- うんうん、軽い。
- CASIO
- さらに、キーを打ったときの感触も、
ほかの製品とぜんぜん違うんです。
押すとしっかり手応えがあって、
パチン、パチンと小気味よく打てます。
- 乗組員
- パソコンのキーボードの感触と少し似ていますね。
操作していて気持ちがいいです。
これは、どんな経緯で開発されたんですか?
- CASIO
- 従来の電卓は、机の上に
リモコンなどと一緒に置かれている雑貨、
という立ち位置だったと思います。
プラスチック素材で、日用品らしい気軽さがある。
けれども、ひとつ、高級時計や万年筆のような
洗練された電卓をつくりだしてみたくて、
この「S100」を開発しました。
表示される数字の色を本体の色に合わせるなど、
さりげないくふうをしています。
- 乗組員
- えっ、黒とネイビーで、
画面上の数字の色が違うんですか。
- CASIO
- そうなんです。ネイビーのほうは、
よく見ると万年筆のインクのような、
青みがかった紺色になっています。
- 乗組員
- あぁ、本当だ。おしゃれです。
- CASIO
- デザインと機能、どちらにも
「あるべき電卓の姿」を詰め込みました。
「電卓でどこまで突き詰められるか」を
試行錯誤して、たとえば、ボディを
アルミの切削ボディにしたり。
- 乗組員
- 切削ボディというのは?
- CASIO
- 一般的な電卓のボディは、
プラスチックを金型に射出してつくるのですが、
S100の場合は、アルミの塊を削って
穴を開けているんです。
キーボードの形に合わせて
アルミをくりぬいているわけです。
▲左側が、S100に使われている、アルミを切削したボディ。右は金属板に圧力をかけて作ったS100の背面のパーツです。
- CASIO
- この方法は、電卓では初めてだったようですが、
重厚感や洗練された形を
生み出すために挑戦しました。
- 糸井
- はあぁ、そうですか。
アルミはなにで削るんですか?
- CASIO
- 油をかけながら、ドリルで削ります。
プラスチックだったら30秒くらいで
金型に流し込んでつくれるのですが、
アルミは2時間くらいかけています。
さらにS100は本体を染めているので、
切削から染め、加工まで含めると、
この部品だけで1週間ぐらいかかります。
- 糸井
- (乗組員のほうを向いて)
‥‥聞いたか! すごいことだよ。
もっとワーワー言いなさいよ(笑)。
- 乗組員
- はい、いや、もうびっくりしちゃって、
声も出ず‥‥。
部品ひとつで、1週間も!
- CASIO
- ちなみに、部品ができたあと組み立てる工程も、
山形の自社工場で1台、1台、
ちまちまとやっているんです。
できあがるのは、だいたい1日に数十台です。
- 糸井
- ものすごく丁寧ですね。
S100以外の電卓は、また違ったつくり方を?
- CASIO
- はい、S100以外は違います。
素材もプラスチックが多いです。
いろんなニーズをお持ちの方、
それぞれに合う形の電卓をつくっていこうとしたら、
結果的にこれだけの種類ができちゃった‥‥
という感じです。
ちょうど今年、CASIOが電卓をつくり始めてから
60周年なのですが、
60年間ずっとつくり続けてきたいまもまだ、
新しい電卓を用意しています。
ひとくちに電卓といっても、
どんなニーズに合わせるかによって、
くふうできる点はどんどん出てくるんです。
(カシオ電卓60周年サイトはこちら)
- 糸井
- S100のような丁寧なつくり方をされると、
刀とか芸術品を愛でるみたいに、
「愛着」がどんどん湧いてきますね。
ここから、電卓に愛着が始まるんだ。
- CASIO
- まさに、そうです。
「置いてあるだけで空間が洗練される
時計や万年筆のような電卓」
という発想が詰まっています。
- 糸井
- 誰にも気づかれなくても、
「じつはこれ、型を抜いてるんだよ」と。
隠れた美意識ですね。
- CASIO
- ‥‥うちはけっこう、
大々的に言っちゃってますけどね(笑)。
「磨いて、削って、染めてるんですよ!」って。
(明日に続きます)
2025-10-17-FRI


