「ほぼ日のキャップレス万年筆」が
2年ぶりに登場することになりました。
発売日は、8月19日(水)です。
大好評だった前回の販売から2年、
愛用者に使い心地を聞いてみようと
写真家の幡野広志さんを訪ねたところ、
なんと「人にあげてしまって困っていた」と。
再販売を待ち望んでいたという幡野さんに、
久しぶりの再会をしていただきました。
キャップレス万年筆の気軽さを
すでに味わってしまっている幡野さん、
キャップという「ひと手間」からの解放を
おおいに喜んでいただけました。

>幡野広志さんのプロフィール

幡野広志(はたのひろし)

写真家。
1983年、東京生まれ。
2004年、日本写真芸術専門学校中退。
2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、
「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。
2011年、独立し結婚する。
2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。
2016年に長男が誕生。
2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。
著書に
『なんで僕に聞くんだろう。』(幻冬舎)
『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』(ポプラ社)
『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)
『写真集』(ほぼ日)がある。
ほぼ日刊イトイ新聞での登場コンテンツは、
「これからのぼくに、できること。」
「被写体に出合う旅。」
「そこだけを、見ている。」
「ネパールでぼくらは。」
「『嫌い』な気持ちと、うまく付き合う。」
ほか多数。

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(3)パパのレシート。

写真:幡野広志 写真:幡野広志

ーー
ヤンデルさんとの対談
おっしゃっていましたが、
幡野さんは文章を書くときにいつも、
独り言を話しているそうですね。
幡野
たとえば、車の運転をしている間なんか、
100%独り言しゃべってるんですよ。
きょうはここ(千駄ヶ谷)まで
代々木駅から歩いてきましたが
やっぱり独り言全開なんです。

ーー
運転している間と、歩いている間。
幡野
あと自宅にいるときも、
割合でいえば、独り言のほうが多いかな。
文章を書くときも、
頭の中で独り言になっているような感覚で、
それを取材者がメモするように書いています。
たぶん変わったやり方なんだろうな、
とは自覚しているんです。
そういうふうにしている人は
あまりいないだろうなと思うので。
ーー
独り言は記録として残りませんよね。
でも、整理さえできてしまえば、
タイピングして文章が書けるのでしょうか。
幡野
人生相談の原稿を書いているときも、
やっぱり独り言が多くて、
「これってこういうことだよね」
というパターンが多いです。
普通に話している感じなので、
たぶん、ぼくの独り言を見たら
みんな「気持ち悪い」と思うんじゃないかな。
ひとりなのに会話に近い感じでしゃべるので、
街なかでやってしまうと、
不気味に感じられちゃうと思います。
ただ、考え方はすごくまとまりますね。
自分に対して疑問をぶつけたりして、
ひとりディスカッションができますから。

ーー
質問を投げかける自分と、
質問を受け止めてくれる自分が
同居しているわけですよね。
幡野
質問する人と答える人、分かれますね。
ーー
どちらも同じ人格ですか?
幡野
同じ人格です。
うちの妻に言わせると、
誰かが家に来てるのかなって思うぐらい、
ずーっと喋ってるそうです。
自宅の書斎で独り言とかしてると、
「Zoom」を使って何かやってるって
思われているぐらいなので。
独り言を話しながら道を歩いていて
不審がられるのはちょっと気になるので、
よくやっているのは、
携帯を耳に当てて電話してるフリですね。
そうしていれば、独り言をしていても
変な人と思われないんじゃないかなって。
ーー
夜道の女子高生みたいじゃないですか。
幡野
そうですね(笑)。
なにやってんだろうって自分で思いますよ。
できれば、独り言なんてしなくても
考えがまとまるといいなと思うんですけど。
面倒くさいやり方なのかな。

ーー
いつからそのスタイルなんでしょうか。
幡野
もう10年以上です。
車の運転をしだしてから、ずっとそう。
撮影業界にいると、
長距離を運転することがすごく多いんですよ。
1日700キロぐらい、
東京から広島ぐらいまで運転することって
撮影業界は結構あるんです。
そういうことばっかりしてたから、
必然的に独り言が増えたのかな。
ーー
長距離トラックの運転手さんも
そうなんでしょうかね。
幡野
そう、長距離の運ちゃんも
独り言をよくしゃべるそうで、
それと同じじゃないのかな。
そうやってひとりでしゃべっている内容が、
日々考えていることになっています。
本当はちゃんと友達がいて、
そのことについて話せるのが
いちばんいいのかなと思うんですけど。
独り言になっちゃいましたね。
変わったことをしている自覚はあります、本当に。

ーー
考えの整理であっても、
録音をしているわけではないですよね。
幡野
録音はしないで、
ただ頭の中で整理するだけです。
写真のことを考えたりとかするときに、
独り言で会話をして、答えを出すんです。
だから、文章を書いているときも
結構しゃべってることが多いですよ、ぼく。
音声入力を試そうと思ったこともありますけど、
かなり高い頻度で「えーと」とか言っちゃうので、
ぼくには使えないなあと思ったんです。
でも、しゃべるような感覚で考えていて、
書くのとはまた違う頭の使い方をしてますね。
ーー
誰かに向けて贈るように書くことと、
自分の中で考えを整理するために書くことって、
書き方がまた違うと思うんですよね。
幡野
人に渡す書くものって、
ちょっと恥ずかしいですよね。
でも、もらったほうは嬉しいんです。
なるべく書いたほうがいいんでしょうね。

ーー
幡野さんは、手書きのものを
誰かにプレゼントすることはありますか。
写真の展示会で、手書きのメッセージを
添えている印象があったので。
幡野
「漁師カレンダー」の写真を撮影して
文章も書いたんですけど、
手書きでコメントを書いてほしいと言われて。
そのときは、腕が痛くなるぐらい書きました。
ーー
手書きを求められる写真家さんって、
おそらく珍しいと思うんです。
幡野さんは言葉でも人を惹きつける人だからこそ、
手書きの依頼もあるのかなと。
幡野
どうなんでしょうね。
ぼくの字がどう見られているか
自分ではよくわからないですけど、
書家の方がよく言う
「文字を書けば人柄が分かる」、
たぶんあれは本当なんでしょうね。
せっかくだから、手紙とかも
タイピングしたものじゃなくて、
なるべく手書きにしたいですね。
それこそ、ちょっといいペンが
ぼくのもとに戻ってきたので。

ーー
活躍する機会が
たくさん出てくるといいですけど。
幡野
手紙とか、手で書いたものって、
もらった人が意外と残しておいてくれますよね。
思い出の品になったり、
プレゼントみたいになるかもしれないので、
だからなるべく、
丁寧に書かなければなと思うんです。
ーー
身近な人でいうと、
息子さんに何か書いたものを
渡すことってありますか。
幡野
息子にはたまに手紙を書いたりしますけど、
案外少ないかもしれません。
この間、家族で北海道に行って、
息子は初めて飛行機に乗ったんです。
そのときの航空券の半券に、
ちょっと手書きのメモを残したり、
そういうことはしてますね。
ーー
初めての飛行機は思い出になりますね。
幡野
なるべく気軽なものがいいなって思うんです。
この間、息子が4歳の誕生日だったんですけど、
誕生日プレゼントのレシートに
ちょっと手書きのメッセージを添えて。

ーー
レシートに書くんですか?
メッセージカードではなく。
幡野
そう、レシートに。
ぼくの個人的な体験なんですけど、
ネットオークションでカメラを買ったら、
10年ぐらい前に買ったお店のレシートも
箱に入っていたんですよ。
ビックカメラのレシートだったんですけど、
その時間、その場所で買ったんだって想像すると
ちょっとおもしろかったんです。
ーー
4歳ならまだ意味がわからないけれど、
もう少し大きくなったときに
「お父さん、このときにここで買ったんだ」
とわかるようになりますよね。
幡野
航空券なら何時の便に乗ったかもわかりますよね。
何時の便に乗ったということは、
何時頃に家を出たのかなと推測もできます。
ストーリーの想像ができるのがおもしろいんです。
探偵ごっこじゃないですけれど、
そういうの、ぼくがちょっと好きなんですよね。

ーー
たしかに、財布のレシートを並べると
動きが読めたりできますもんね。
息子さんが大きくなった頃に
幡野さんのペンをあげられるといいですけどね。
幡野
きっとこのペンなら、
何十年経っても使えるでしょうから。
いい道具って、そういうものじゃないですか。

(つづきます)

2020-08-16-SUN

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  • 書くことがうれしくなる
    「ほぼ日」のオリジナル万年筆が、
    ふたつのペン先でかえってきました。

    いまから2年前の2018年、
    「ほぼ日」の20周年を記念して生まれた
    「ほぼ日のキャップレス万年筆」が、
    ここにかえってまいりました!
    パイロット「キャップレス」をベースにした
    キャップいらずの、ノック式万年筆です。
    マットブラックの落ち着いたボディに、
    シルバーのクリップを組み合わせた特別仕様で、
    「ほぼ日」の創刊当初からのスローガン、
    「Only is not lonely」が入っています。
    今回の販売では字幅の種類も
    選べるようになりました。
    前回好評いただいた細字(F)だけでなく、
    極細字(EF)もご用意しています。
    手帳で細かい字を書きたい方や
    ペン習字を学ぶ方におすすめな細さです。

    ほぼ日のキャップレス万年筆(F・細字)
    ほぼ日のキャップレス万年筆(EF・極細字)
    各22,000円(税込・配送手数料別)