テレビや映画ですてきなお芝居をしている
あの俳優さんの「舞台での姿」はご存知ですか？
‥‥という話をここでたくさんしてきました、
演劇ライター、中川實穗です。こんにちは。
今回、ご登場いただくのは、井上芳雄さんです。
井上さんは、ミュージカルの世界で活躍されている方。
大河ドラマ「べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～」重田貞一役や
音楽番組「はやウタ」のMCをはじめ、
いくつものテレビ番組に出演しながらも、
いつもミュージカルの舞台のことを
しっかりと伝えようとしている井上さんに、
現在の活動と舞台について、うかがいました。
井上芳雄（いのうえ・よしお）
俳優
福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。小学４年生の時に劇団四季のミュージカル『キャッツ』を観劇し、ミュージカル俳優を志す。2000年、大学在学中に受けたオーディションを経て、ミュージカル『エリザベート』皇太子ルドルフ役でデビュー。現在は、ミュージカル『エリザベート』にトート役、大河ドラマ『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』に重田貞一役で出演中。この後、12月から１月にかけてミュージカル『ダディ・ロング・レッグズ』、２月から３月にかけて『大地の子』に出演予定。NHK「はやウタ」、WOWOW井上芳雄ミュージカルアワー「芳雄のミュー」、TBSラジオ「井上芳雄 by MYSELF」にレギュラー出演中。
- ──
- じつは私、井上さんと同い年で、同じ福岡市内の、
わりと近くの高校に通っていました。
- 井上
- そうなんですか。
じゃあ、同じ時代に同じところで。
同級生、なかなかいないですよね、この世界。
- ──
- 演劇だと、
ヨーロッパ企画の上田誠さんは同い年ですよ。
- 井上
- 堂本剛くんも同い年ですね。
- ──
- そうです、そうです。
そんなわけで、今日は同世代の聞き手です。
ざっくばらんにお話しいただければと思います。
- 井上
- はい、じゃあそんな感じで。
- ──
- この「舞台の人。」シリーズは普段、
映像で活躍されている方にご登場いただいて、
「実は舞台でも素敵な俳優さんなんです」
という感じで取材させてもらってきました。
でも井上さんはどちらかというと、
テレビでも「ミュージカルの俳優です」ということを
前面に出して活躍されている方だと思っています。
過去には「ミュージカル界の広報部長のつもりで」
と発言なさっていたりもして。
- 井上
- どこからも任命されてないですけどね（笑）。
- ──
- でもその意志はあちこちで感じます。
どうしてそういう活動をされているのですか？
- 井上
- 基本的には、いちミュージカルファンというか。
ミュージカルに出会って、大好きになって、
自分が出たいと思って俳優になったんですけど、
出演しはじめてからも、
ファンであることに変わりはないんですよ。
もちろん出る前はわからなかったことがわかったり、
知らなかったほうがよかったと思えるようなことが
見えたりはするようにもなりますけど、
「ミュージカルを愛する気持ち」は変わらずで。
それに幸か不幸か
日本のミュージカルというジャンルが
発展途上というか。
そこまで歴史が長いわけでもないし、
お客様も大勢来てくださるんですけど、
でもやっぱりジャンルの特性上、
テレビのようにすごくたくさんのお客様を
一度にお相手することはできない。
- ──
- 客席に限りがありますもんね。
- 井上
- だからそういう中で、
もっともっとミュージカルを
観てもらえるようにするには
どうしたらいいんだろうと考えたりもして。
でもそれだけじゃなくて、単純に、
自分が主役をやらせてもらうようになった時とかに、
「どうやったらチケットって売れるんだろう」
と考えたというのもあります。
やるからにはたくさんお客さんに来てほしいですし、
特に若い頃は、チャンスを与えてもらっても
客席は「あーちょっと埋まってないな」
ということがあって。
「でも自分は一生懸命やれることはやっているし、
こんなに好きなのに。自分が悪いのかな」
と思ったりもしていました。
そういうところから、
「もっと知ってほしい」とか
「劇場に来てもらうために」という意識に
なっていったかもしれないです。
- ──
- そこで、「作品を観て」「自分を観て」より、
「ミュージカルを知って」となったんですか。
- 井上
- なんかやっぱり俳優って個人商店みたいな感じだから、
自分の「名前」を出さないといけないんですよね。
でも、それだけをずーっとやるのは
きついなぁと思っていたんです。
目立ちたいという気持ちもあるはあるんですけど、
そんなに「我が我が」するのも好きではないほうで。
でも、仕事柄、それをやらなきゃいけなくて、
「ちょっと疲れてきちゃったな‥‥」
みたいな時期に、話の流れで
（同じミュージカル俳優である）
山崎育三郎くんと浦井健治くんと一緒に
「StarS」というユニットをやることになりました。
- ──
- 魅力的な３人です。
- 井上
- それが思いのほか盛り上がったんですね。
それで、「あ、一緒にやればいいのか」と。
それまでは、１人でがんばるというか、
僕の世代がいなかったんです、ミュージカル界に。
それこそ同い年がいなかった。
だからがんばり方がよくわからなかったけど、
ちょっと年下の２人が
「一緒にやろう」と言ってやってくれて、
そしたらできることが広がって。
責任も僕一人が負うわけじゃないですし。
それで「これはいいんじゃないかな」と思いました。
そしてその「StarS」のテーマが
「ミュージカル界に恩返しをしたい」だったんですよ。
で、「そうか、主語を『僕』じゃなくて、
『ミュージカル』にすれば
ものごとはこんなにうまくいくのか」と。
- ──
- 井上さんにとってがんばりやすい
状態を見つけたんですね。
先のことも考えますか？ ゴールとか。
- 井上
- なにをやってもお客さんがいっぱい来てくれれば、
ゴールなんだと思います、とりあえずは。
でもそれは全てじゃないですね。
だからゴールはないんだと思う。
でも少なくとも「劇場に行く」っていう習慣が
欧米と同じように‥‥とはいかないにしても、
もうちょっとこう、
日本にいる僕たちも普通になるというか。
- ──
- 日常の風景のひとつになってほしい。
- 井上
- うん、文化のひとつとして、選択肢のひとつとして、
「じゃあちょっと来週、ミュージカル行こうか」
みたいになることが目標かもしれないです。
- ──
- 「行く人しか行かない」って感じは
たしかにありますね。
- 井上
- やっぱり劇場に行ったことがないと
その体験がなんなのかもわからないですしね。
だからもっと演劇が
生活や生きていくことに必要なもの
になったらいいと思いますね。
- ──
- 井上さんご自身は、
生きていくことに演劇は
どう影響すると思われていますか？
- 井上
- 僕はそれこそ福岡で子供の頃に
ミュージカル『キャッツ』（劇団四季）を
観て感動して。
- ──
- あ、そうか。
それでミュージカル俳優に
なりたいと思ったんですもんね。
たしかにすごい影響です。
- 井上
- 「感動する」ってそれぐらいの、
人生を変えるぐらいの力があると思うんです。
特に若い頃はそう。
自分は身をもってそのことを知っているから。
もちろんみんながみんな
人生変わるわけではないですけど、
でも、「自分はその可能性を持ってることを
やっているんだ」という誇りというか
自負みたいなものはあるかもしれないです。
（つづきます）
2025-11-15-SAT
-
ミュージカル
『エリザベート』脚本・歌詞：ミヒャエル・クンツェ
音楽・編曲：シルヴェスター・リーヴァイ
演出・訳詞：小池修一郎出演：
エリザベート 望海風斗 / 明日海りお
トート 古川雄大 / 井上芳雄 （東京公演のみ） / 山崎育三郎 （北海道・大阪・福岡公演のみ）
ほかスケジュール： ※井上芳雄さんは東京公演のみ出演
2025年10月10日～11月29日 東急シアターオーブ（東京）
2025年12月9～18日 札幌文化芸術劇場 hitaru（北海道）
2025年12月29日～2026年1月10日 梅田芸術劇場 メインホール（大阪）
2026年1月19日～31日 博多座（福岡）
ミュージカル
『ダディ・ロング・レッグズ』音楽・編曲・作曲：ポール・ゴードン
編曲：ブラッド・ハーク
翻訳・訳詞：今井麻緒子
脚本・演出：ジョン・ケアード出演：
ジャーヴィス・ペンドルトン 井上芳雄
ジルーシャ・アボット 坂本真綾 / 上白石萌音スケジュール：
2025年12月12日～2026年1月2日 シアタークリエ（東京）
『大地の子』
原作：山崎豊子 「大地の子」（文春文庫）
脚本：マキノノゾミ
演出：栗山民也出演：
井上芳雄 / 奈緒 / 上白石萌歌 / 山西惇 / 益岡徹スケジュール：
2026年2月26日～3月17日 明治座（東京）
