テレビや映画ですてきな芝居をしてるあの人の、
舞台での姿はご存知ですか!?
‥‥と言いたくて言いたくてたまらない
演劇ライター、中川實穗です。こんにちは。

今回は、吉田羊さんにお話をうかがいました。
テレビドラマや映画、CMなど、
いくつもの作品が話題になり、
きっと観た人ひとりひとりのなかに
それぞれの吉田羊さんがいるくらい
映像で印象を残している俳優さんですが、
初舞台は大学時代に立った東京の小劇場。
その後、約10年ものあいだ活躍され、
現在も定期的に舞台に立たれています。

吉田羊さんにとって小劇場時代は
どんな時間だったのか、
たくさんお話しいただきました。

写真:池田光徳

>吉田羊さんプロフィール

吉田羊(よしだ・よう)

俳優
2月3日生まれ。福岡県出身。
1997年、初舞台で俳優デビュー。
2001年に劇団「東京スウィカ」を旗揚げ。
2008年にNHK連続テレビ小説『瞳』での演技が中井貴一さんの目に留まったことをきっかけに、2009年に三谷幸喜さんの劇団「東京サンシャインボーイズ」15年ぶりの復活公演『returns』のキャストに抜擢。以降、三谷さんの舞台や映画に多数出演する。またテレビドラマでも『純と愛』や『HERO』などドラマ作品でも注目を集め、現在に至る。

第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、第24回読売演劇大賞優秀助演女優賞、第56回紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞歴多数。

2024 年は舞台『ハムレット Q1』で主演を務めたほか、ドラマ『侵入者たちの晩餐』『光る君へ』『不適切にもほどがある!』『恋愛バトルロワイヤル』などに出演。
グルメエッセイ「ヒツジメシ」(講談社)、フォトエッセイ「ヒツジヒツジ」(宝島社)も発売中。

公式X=https://x.com/yoshidayoh
公式Instagram=https://www.instagram.com/yoshidayoh_official/

題字:ほぼ日

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第6回 「研究生」の目標は?

――
「役者をやめないでよかった」と
さきほどおっしゃいましたけど、
やめようと思ったことがあったのですか?
吉田
小劇場時代に何回かありますね。
同年代のすごく素敵な女優さんとご一緒したときに、
お芝居もおもしろいし、人も素敵だし、
みんなから愛されて、お客さんの反応も良くて、
同年代でもうこれだけできる人がいるんだから、
私はやらなくていいな、って。
それは妬みとか嫉妬とかいう感情を超越した、
もう、白旗。
ああもうこの人いるからいいや、
みたいな感情にしてくれた人がいて、
もうやめようと思ったんですよね。
でも、不思議なもので、
そういう時に限ってオファーをいただいたりして。
じゃあ、まあ、これやってみて、
おもしろくなかったらやめようと思ったら、
残念ながらたのしかったんですよね(笑)。
――
よかった。
吉田
そこからなんだかんだご縁が続いて
続けてこられたので、
あの時の私に「やめるなよ」って、
「続けていれば、絶対三谷さんに会えるよ」って
言ってあげたいです。
――
三谷幸喜さんのお稽古ってどんな感じなんですか?
吉田
ほんとに笑いが絶えないです。
三谷さんの演出の言葉のチョイスがまずおもしろくて、
そこに笑いますし、
俳優さんもコメディーセンスのある方が揃っているので、
稽古でどんどんシーンが膨らんでいって、
なんかこれ、無料で見ていいのかな?
っていうような、すごい贅沢な気持ちになります。
それに「三谷さんを笑わせたい!」っていう欲が
みんな出てくるんです。
三谷さんって、お芝居がおもしろいと
お腹よじりながら笑うんですよ。
そのくらいわかりやすいので、そのぶん、
逆に笑われなかった時の焦りと恐怖が半端なくて。
――
たしかに(笑)!
吉田
あれ? このシーンおもしろいはずだよね、みたいな。
三谷さんっていつも
「芝居がおもしろくなかったらセリフカットします」
と冗談みたいにおっしゃるんですよ。
実際にセリフカットすることはないんですけど、
たぶん心の中では本気だと思うんですよね(笑)。
――
ドキドキしますね。
吉田
なので今回もちょっと、
セリフをカットされないように
がんばらなきゃって思ってます。
――
目標がピュアな若手みたいになってます。
吉田
「研究生」という肩書きをいただいたので、
ちょっとそこはエクスキューズしながら(笑)。
できなかったら「研究生なんで! すみません!」
と言って乗り越えようと。
――
そう思うと、
吉田羊さんのキャリアにとっては珍しい環境ですよね。
末っ子的な立ち位置ですから。
吉田
存分に甘えていきたいと思います。
ただ15年前の『returns』の時は、
私はほんとがむしゃらで、
自分のことで精一杯だったので、
今回は諸先輩方にも頼りにしていただけるように
がんばりたいなと思います。
――
まだ台本ができてないそうですが(※昨年取材時)、
三谷さんは
当て書き(俳優に合わせて台本を書くこと)だから、
そこもどんなふうになるのかなと期待しています。
吉田
そうなんです。
『returns』の稽古初日は、
台本が8ページぐらいしかできてなくて
――
わはは。
吉田
そしたら劇団員のみなさんが
「8ページもあるの?」って言ったんです。
――
三谷さんは台本を書きながら
稽古される方だと聞きますが、
8ページ「も」なんですね(笑)。
吉田
そう。そしてその日から初日までの
稽古のトータル時間が、
24時間だったんです。
――
え?
吉田
稽古時間が全部で24時間しかなかったんです、本番まで。
みなさん忙しいからスケジューリングが難しくて、
集まって稽古ができるトータルの時間がそれでした。
そしたらみなさんがまた
「24時間もあるの?」って言って。
――
ええ!
吉田
やっぱりその、なんでしょうね、
遅筆で有名な三谷さんですけど、
劇団員の中に、
「絶対おもしろいものが出来上がってくる」
という信頼感がある。
そして三谷さんは三谷さんで、
稽古が始まったら、
みなさんのお芝居を見ながら
どんどん筆が進むわけですよ。
インスピレーションが湧いて。
で、あっという間に台本を書き上げて、
ちゃんと間に合うっていう。
この信頼関係はすごい、と思いました。
――
劇団ならではのものを感じます。
吉田
それでいて、
その信頼関係があるにもかかわらず、
決して慣れ合うことはないし、
干渉し合うこともない。
お互いにちゃんとリスペクトしつつ、
距離感を間違えずに、
個々がプロとして仕事を全うする、みたいな。
大人の集団だなと思いました。
しかもあの方々はね、ほとんど飲みに行かないんです。
サッと帰る。
――
へえ!
吉田
さらに、
制作発表会見でご本人たちもおっしゃってましたけど、
もう私も含めておじさんおばさんですから、
夜更かしはできない。
――
響きますからね(笑)。
吉田
なので今回期待していることは、
稽古の開始時間が早くて、
夕方には終わるんじゃないか(笑)。
そこです。
――
ははは!
吉田
夕飯は自宅で食べられるのかなって期待を。
――
じゃあ研究生の吉田羊さん的には、
夕飯を自宅で食べられることを期待しつつ、
メンバーのみなさんから頼りにされることと
セリフをカットされないことが目標ですね。
吉田
その2つを死守したいと思います!
『returns』の時、私、1回ね、
私はセリフが飛んだというか、間違えたんですよ。
後半戦でタネ明かしとして
言わなければいけないセリフを、
冒頭に言っちゃったんです。
――
うわ、やばい‥‥。
吉田
やばいです(笑)。
梶原善さんが私のお父さんって設定だったんですけど、
私はその身の上を隠して、
「彼がしていた研究をみんなで叶えてほしい」
って登場人物たちに説いていく役なんです。
なのにもう早々に「父は」って。
――
それは(笑)。
吉田
そしたら12人全員が「‥‥」ってなって。
もう大反省しました。
でもその日、三谷さんが私のところに来て、
「羊さん、大丈夫です、
観客はみなさん台本を
読んできてるわけじゃないですから。
たぶん、『ちっ‥‥』て舌打ちしたように
聞こえたんじゃないでしょうか」
と言ってくださって。
――
わあ、やさしい方ですね。
吉田
それで私も「ありがとうございます」とか言って、
観に来たお客さんに聞いたら、
「うん、『父』って聞こえたよ」。
――
ははは!
吉田
(笑)
――
今回はそこも挽回しつつですね(笑)。
気付けばあっという間に時間です。
今日はありがとうございました。
吉田
とんでもないです。
ありがとうございます。
――
本番、たのしみにしています。
吉田
はい。ありがとうございます。

(おわりです)

2025-02-09-SUN

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    作・演出

    三谷幸喜

     

    出演
    相島一之 阿南健治 伊藤俊人 小原雅人 梶原善 甲本雅裕 小林隆
    近藤芳正 谷川清美 西田薫 西村まさ彦 野仲イサオ 宮地雅子 吉田羊

    東京公演:2月9日(日)~3月2日(日) PARCO劇場 
    岡山公演:3月7日(金)~9日(日) 岡山芸術創造劇場ハレノワ中劇場 
    京都公演:3月13日(木)~16日(日) 京都劇場 
    長野公演:3月21日(金)~23日(日) まつもと市民芸術館主ホール 
    宮城公演:3月28日(金)~30日(日) 電力ホール 
    北海道公演:4月3日(木)~6日(日) 札幌市教育文化会館大ホール 
    大阪公演:4月11日(金)~14日(月) SkyシアターMBS 
    愛知公演:4月18日(金)~20日(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホール 
    福岡公演:4月25日(金)~28日(月) キャナルシティ劇場 
    沖縄公演:5月3日(土)~5日(月・祝) 那覇文化芸術劇場なはーと大劇場