内野聖陽さんといえば、
どの役を思い浮かべますか。
テレビドラマなら、
『きのう何食べた?』のケンジでしょうか。
大河ドラマ『風林火山』の山本勘助もいいですね。
舞台作品では、
『笑の大学』の向坂睦男には笑わされました。
『化粧二題』や『芭蕉通夜舟』など、
こまつ座作品の内野さんも素敵です。

その魅力的な芝居の奥に、
いつも並々ならぬ熱を感じる内野さん。
「映像とか舞台とかで分けてない」
とおっしゃいますが、
舞台上から届くダイレクトなエネルギーは
格別だと、私、中川は思っています。

そこにはなにがあるのでしょうか。
演劇ライターの中川實穗がお話をうかがいました。

Photo:Mitsunori Ikeda

題字:ほぼ日

>内野聖陽さんのプロフィール

内野聖陽(うちの・せいよう)

神奈川県出身。1993年に俳優デビュー。
舞台、ドラマ、映画など多くの作品に出演し、
2007年のNHK大河ドラマ『風林火山』(主演)や
2019年のドラマ『きのう何食べた?』での演技が注目を集める。
近年の出演作は舞台『笑の大学』、『芭蕉通夜舟』、
ドラマ『PJ~航空救難団~』、『犯罪者』、
映画『アングリースクワッド公務員と7人の詐欺師』など。
映画『負けへんで』が2026年11月公開予定。

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第1回 「楽しい」までいくために、どれだけ努力が必要か

──
いきなりですが、
私は内野さんのお芝居を拝見すると、
それが舞台でも映像でも、
「お芝居が好きで、
情熱をかけてやられてるんだろうな」
ということを必ず思います。
内野
光栄です。
そうでなくちゃいけないな
ということは思っています。
やっぱりプレイするほうに喜びがないと、
観たくないんじゃないかなと思うんですよ。
探求する生みの苦しみというのはあるけど、
自分がおもしろくない稽古は
したくないなというのはあります。
──
内野さんが思われる、
おもしろい稽古とはどんなものですか?
内野
なんだろう、相手との関わりのなかで
なにかが生まれる瞬間っていうのが
一番おもしろいんじゃないですかねぇ。
「演劇はアウフヘーベンだ」と言ったのは
鵜山仁さんですけど、
(※鵜山仁さんは文学座所属の演出家。
内野さんは、1992年から2011年まで
文学座に所属していました)
要は「AとBのセッションでCにいける」
というのが、
ものづくりをやっていて
やはり一番楽しいところだと思います。

──
ひとりでやるのではなく、
人と人とがちゃんと関わり合うことで
生まれるものですね。
内野
もちろんひとりで
「ああでもない、こうでもない」と
磨きをかけていく時間もありますけど、
やっぱり相手との、なんと言うかな、
異種格闘技というかね。
異文化交流みたいなことで生まれるおもしろさ、
というのが楽しいんじゃないですかね。
──
以前、三谷幸喜さんと瀬戸康史さんが、
内野さんがすごく真面目だという
お話をされていました。
台本に付箋をたくさん貼ってらっしゃるって。
内野
それはちょっと盛ってますけど(笑)。
──
でもきっといつもそのくらい
ストイックにやられているということですよね。
内野
まぁ、付箋に関しては、
そんなにたいしたことではなくて。
アイデアって、一瞬にして起こるけど、
一瞬にして消えちゃうから。
「あ、これ、おもしろいじゃん」ってときとか、
「ここ、わかんないな」ってところとか、
そういうところはなにかが隠されていて、
きっとなにかのヒントになるんですよね。
そういうところに付箋を貼っておいて、
「あとで演出家と議論しよう」
「共演者と話してみよう」
「この台詞をこう言ってみちゃおう」みたいな、
いろんなアイデアの道標にしているだけですよ。
それをふたりはネタにして‥‥。
──
ネタにはされていないです(笑)。
『笑の大学』(’23年/作・演出 三谷幸喜、
出演 内野聖陽 瀬戸康史)での
内野さんとの楽しかったエピソードとして
お話しされていました。
私は客席で拝見してすごく笑った記憶があります。
内野
『笑の大学』はコメディですけど、
僕は、そもそもコメディのアプローチで
最初から笑わすことができないんです。
「真面目に生きてる人間がいるほうが
よっぽどおもしろいじゃない?」
という考えの持ち主だから。
そういう意味では『笑の大学』の稽古は、
「これ、本当にコメディになるの?」というような
シリアスさというか、そういうものがありましたよ。
出演者はふたりっきり、
そこに三谷さんがいて、
稽古場はほぼほぼ3人だけだったんです。
もちろんお客さんもいないから、
笑いのひとつも起こらないわけです。
──
たしかによく笑いましたが、
わざと笑わせようとしているようなお芝居は
なかったように思います。
内野
三谷さんの中では
「最終的には笑える」という確信が
おありだったんでしょうけど、
つくり方としては、
真剣にそのキャラクターを生き尽くす
というような現場でした。
だから劇場に入ってびっくりしたんですよ。
こんなにウケるんだ! と思って。
──
いたって真面目に生きている人たちが
こんなにお客さんにウケるんだ、
ということですか?
内野
そう。だから
「誠実なアプローチでよかったな」と思いました。
でも三谷さんはね、初日が近づいてきた頃、
「内野さん、ここはちょっと笑いが来ちゃうので、
びっくりしないでくださいね」
とか言ってたんです。
──
へえーっ。
内野
再演ですから、
三谷さんはお客さんがどう笑うかは
もうわかっていらっしゃったんでしょうね。
僕も客席でも観た作品ですけど、
演じる側になるとやっぱりそんなにわからないから。
もう真面目にやっただけですね。
でも真面目な人って
おもしろいじゃないですか、なんか。
──
とくに『笑の大学』はそうでしたね。
内野
あれは愉快でしたね。

──
内野さんは、お芝居をするのがお好きですか?
内野
若いころは好きでした(笑)。
──
それは変化したということですか?
内野
いまはやっぱり苦労もわかっているのでね。
生む歓び、つくる歓びはもちろん大事なんだけど、
たとえばシェイクスピアの膨大な台詞を
どう処理していくか、ということは、
シンプルに大変な作業なんですよ。
そこをもうわかっちゃってるから、
「好き」とかいう単純な気持ちだけじゃなくて、
山に修行に入っていくくらいの心持ちになる。
ただもちろん最終的には、
うまいセッションが生まれればそれは楽しいし、
この楽しさって絶対お客さんに伝わるよねと思います。
なので、そこまでいくためには
どれだけ努力が必要か、という意味で、
「楽しいだけじゃないよね」ってことです。
──
若いころはどんなふうに
「好き」と思われていたのですか?
内野
ああ、なんでしょうね。
でもなんか、初日前に
できあがった舞台装置の上に立って
稽古をしているだけでワクワクしてましたよ。
いまはそういうの、あんまりなくなっちゃったなぁ。
──
いまはピリッとした気持ちに?
内野
そうですね、ピリッとしちゃう。
だから若い子が「ワクワクしてしょうがない」
とか言ってるのを聞くと「いいなぁ」と思います。
でも、なんでなんだろうな。
「あそこは絶対ハズせないよな」とか
いろいろ考えちゃうせいなのかな。
若いころはまだそんなに失敗してないから、
怖いもの知らずなところあるじゃない?
だからワクワクしてたんだと思う。
いろんな失敗をしてくると、
いろんな落とし穴があるってわかっちゃうから。
「あ、これ危険だな。気をつけなくちゃな」
というのが、どうしても出てきますよね。

(つづきます)

2026-09-15-TUE

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  • 内野さんの出演作

    作:ウィリアム・シェイクスピア
    訳:松岡和子
    演出:森 新太郎

     

    出演:
    内野聖陽
    前田公輝 / 井之脇海 / 清水くるみ / 川上友里 / 内田慈
    大山真志 / 永島敬三 / 和田正人 / 杉本哲太 / 山路和弘 ほか

     

    上演スケジュール:
    2026年
    9月21日(月・祝)~10月4日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
    10月8(木)・9日(金)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
    10月17(土)・18日(日) 刈谷市総合文化センター 大ホール
    10月23(金)~25日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
    10月28日(水) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
    10月31日(土)・11月1日(日) J:COM北九州芸術劇場 大ホール

     

    ▶︎ 公式サイト