
2025年のNHK大河ドラマ、
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』が
おもしろかった! 終わるのが惜しい!
ということで、最終回放送直後、
シナリオライターの森下佳子さんを熱いファンで囲んで
大質問会を開催しました。
これがもう、予想以上にたのしくて‥‥!
質問者募集のときにお約束していたとおり、
当日のやり取りを大急ぎで
コンテンツにしましたのでお読みください。
森下さん、ありがとうございました!
ちなみに、最後の質問者は糸井重里です。
魂と味わいのイラスト/サユミ
森下佳子(もりした・よしこ)
シナリオライター。2000年デビュー。
代表作に『世界の中心で、愛をさけぶ』『JIN -仁-』
『義母と娘のブルース』『天国と地獄~サイコな2人~』
連続テレビ小説『ごちそうさん』
大河ドラマ『おんな城主 直虎』ドラマ10『大奥』など。
第32回向田邦子賞、第22回橋田賞受賞。
ほぼ日には、なんと2008年から、
なにかといろいろ登場してくださっています。
- ──
- みなさまからの質問が幅広くていいですね。
- 森下
- そうですね(笑)。
- ──
- 残り時間もすくなくなってきました。
さあ、つぎは‥‥Kさん、どうぞ。
- K
- 1年間、ありがた山でした。
神回と思うような回が多く、
毎回、笑いと涙と癒しと
シリアスなシーンが一体化していて、
構成がすごいなと思っていました。
そのなかでも、各登場人物の恋模様と、
SNSで「森下地獄」と呼ばれている
展開の部分がたいへん気になりました。
瀬川や、新(しん)さま、うつせみ、
誰袖と意知、歌麿とおきよも、
せっかく幸せになってみんなよろこんでいたのに、
すぐに悲しいことが起きてしまいました。
そういう急展開についてのエピソードや、
あと、泣く泣くカットしたシーンなどが
あったら教えてください。
- 森下
- 泣く泣くカットしたシーン‥‥。
ええと、「書いたのにカットになった」というのは、
そんなにはないと思います。
尺の都合で入らないけど、
余裕があったら入れたかったなあというのはあって、
たとえば、いまおっしゃった新さんとうつせみの、
幸せに暮らしている描写などは、
もう少し入れたかったですね。
誰袖と意知も、もう少し楽しいシーンが
あってもよかったのですが、
これも尺がパツパツで入りませんでした。
そういうところはけっこうあるかもしれません。
- ──
- あの、史実にある人の死は
しかたがないことだと思うんですが、
史実にない人物を死なせてしまうのは、
書いていて、森下さんのなかに
葛藤みたいなものが生じるものなんですか?
- 森下
- たとえば、新さんに関しては、
あそこで死ぬために作ったキャラクターなので、
葛藤はありませんでした。 - 当時の打ちこわしの記録を見ていると、
打ちこわしている人たちのなかに
すごくきちんとした規律があって、
「礼儀正しい打ちこわし」と
言われていたという記述があるんですね。
つまり、そういうふうになるように
統率しているリーダーがいたのではないか、
ということが書いてあり、
実際に旗などの資料も残っているんです。
「その人を書きたいな」と思って
生まれたのが新さんだったので、
新さんの人生はほんとうはもっと
続くべきだったのかもしれませんが、
私のなかではあそこで役目を終えた、
天寿を全うしたという感覚なんです。
- ──
- はーー、なるほど。
葛藤が生じるような甘いものではないんですね、
物語をつくるというのは。
ありがとうございます。
つぎは‥‥Tさん、どうぞ。
- T
- 毎週、録画して5、6回観るほど、
『べらぼう』が大好きです。
1年間拝見して、これまでの大河ドラマのなかで、
ぶっちぎりで1位になりました。
ありがとうございます。
質問です。田沼意知と蔦屋重三郎が
黒助稲荷の前で、雪の降りしきるなか、
二人で蝦夷の商売の話をするシーンがありました。
以前のトークショーで
スタッフの方がおっしゃっていたのですが、
そのシーンは森下先生が
「色男ふたりが雪の降りしきるなかで、
話しているシーンが見たい」
と希望して実現したとお聞きしました。
それ以外に、先生が
「ぜひこのシーンは見たい」と言って
ねじ込んだようなシーンはありますでしょうか?
- 森下
- ねじ込んだシーンですか(笑)。
見たい、というのとはちょっと違いますが、
「灰」の回などはそうですね。
日本橋に灰が降る、というのは、
「まあ無理だろうな‥‥」と思いながら、
とりあえずそういう展開でシナリオを出したら、
「いま、揉んでます」って言われて、
「あ、本当にできるの?」って。
あとは、誰袖を桜のなかで登場させてほしい、
というのもお願いしました。
季節ではないので全部CGになってしまうのですが、
がんばってやってもらいました。
それから、そんなに強いリクエスト
というわけではないのですが、
お稲荷さんにチョンマゲ裃お願いしたり。
- ──
- そ、それはなかなか強いリクエストなのでは(笑)。
- 森下
- そうですか(笑)?
- ──
- おもしろく広がりそうな話なんですが、
時間も迫ってきましたので、つぎのかた。
SKさん。
- SK
- 1年間、ほんとうに楽しく拝見しました。
歌麿のことで、先ほども少しお話がありましたが、
私は歌麿が出るたびに悶えるぐらい好きなんです。
とくに好きなのが、蔦重がメインでいて、
後ろで見切れている染谷(将太)くん演じる歌麿が、
じとーっと蔦重を見ているようなシーンです。
毎回それを探して見ていたくらいなのですが、
あれは先生のト書きや指示があったのでしょうか。
- 森下
- なんとなく、
「この時の歌麿の表情は
押さえておいたほうがいいだろう」
というところには、
「見ている歌麿『‥‥』」みたいにト書きを加えて、
「押さえておいてね」という感じで
指示を出したりしていました。
でも、監督やプロデューサーも
そのほうがいいだろうと判断していたと思います。 - あと、じつは昨日、しりあがり寿先生と、
お話しさせていただいたのですが、
まったく同じことをおっしゃってました。
「俺はセリフがない時の
染谷将太の表情を見ているのが一番好きだ」
「何もしゃべらない染谷将太フェチだ」と(笑)。
- 一同
- (笑)
- ──
- つぎの方にまいります。
Hさん、お願いします。
- H
- 先ほど「絵を並べてそこからお話をつくる」
というお話をうかがって、
すごいなと感動したのですが、
そういう感じで、役者さんを見て、
「こういう話を書きたい」と
ひらめくようなことがあるのが気になりました。
私は横浜流星さんのファンなのですが、
『べらぼう』を通して横浜さんを見てきて、
ほかの作品で横浜さんに何か書くとしたら
どういう役がいいと思ったか、
お聞かせいただきたいです。
- 森下
- 横浜流星さんがおっしゃっていたことで
印象的だったのが、
「映像やドラマは基本嘘だけれど、
自分はその嘘のなかに自分の体を使って
少しでも本当のことを入れたい。
だからボクシングの映画をやるなら
プロテストを取りたいし、
潜る役ならダイビングの免許を取るし、
水墨画なら実際にやってみる」ということです。
「本物のことを体を使って入れたい」と。
それを聞いたとき、
いちばん「入れにくいもの」って
なんなんだろうなと思ったんですね。
だから、もしもつぎの役を自由につくれるなら、
「とにかく体に入れにくいもの」が面白いかなぁ。
それが、なんなのかはわかりませんが。
- ──
- つぎは、TKさん、お願いします。
- TK
- 『直虎』からの大ファンで、
今日は我が神にお会いできて光栄です。
- 森下
- いえいえ、そんな(笑)。
- TK
- 質問をふたつ考えてきました。
先生の『べらぼう』のキャストの中で、
イメージしていたよりも
「斜め上」を行った人は誰か知りたいです。
もうひとつは、私が『べらぼう』のなかで
いちばんリピートしたシーンが
京伝先生のファンミーティングのシーンなのですが。
- 一同
- (笑顔でうなずく)
- TK
- 京伝先生が「すがほ」を歌うとき
その上手さに鳥肌が立ちました。
ひょっとしたら、あの場面を想定して
古川雄大さんをキャスティングされたのかな、
というのが質問です。
- 森下
- あの場面を想定していたわけではないのですが、
結果的にすごい華やかなシーンになりましたよね。
「こんなに声がよくていいのか」
というくらい(笑)。
でも、古川さんはミュージカルの方ですから、
「声がいい」ことに驚くのは
「斜め上」とはちょっと違う気もするし……。 - ええと、予想とは違ったのは、
恋川春町を演じた岡山天音さんですね。
あの、昔の映画のような、ちょっと早めのピッチで
抑揚少なめにずっとしゃべるというのは意外でした。
ぜんぶこれで行くのかな? と思ってたら、
ふざけるところも真面目なところも
ぜんぶそれで通して、それによってものすごく
印象深い役になっていましたよね。
あれはまさに「斜め上」でした。 - あと、田沼意次と一橋治済の対決シーンなんかも、
よく見ているとふたりが細かい芝居をしていて、
想定した感じよりもずっと細かい所作を入れたり
表情をつくったりしていてびっくりしました。
あっ、あとは、平賀源内!
源内さんが最後の方で狂乱するシーンがありましたが、
もともとは自分で書いておきながら
「私、いまヤバいものを見ているんじゃないか」
「こんなヤバい人、書いたっけ?」
ってびっくりしました(笑)。
- ──
- ありがとうございます。
まだ行けるかな、Koさん。
- Ko
- ありがとうございます。
『白夜行』からの先生の大ファンです。
今日はほんとうにありがた山です。
今回の『べらぼう』はもちろんのこと、
同じく先生が脚本を手がけられた
大河ドラマ『おんな城主 直虎』も
すごく大好きな作品なのですが、
あの『直虎』の小野政次の最後のシーンが、
もう、とにかく衝撃的だったので、
今回の『べらぼう』の一橋治済のラストが
いったいどうなるのか、っていうのを、
大きな見どころのひとつとして、
ほんとうにわくわくして、
ずっと楽しみにしておりました。
もう、どうやって‥‥。
- 森下
- どうやって殺すのかってね。
- Ko
- そうです、そういうことです!
- 一同
- (笑)
- Ko
- 史実では、治済は大往生なんですけれども、
森下先生のことですから、絶対、
そんな穏やかな死は迎えられないっていうことを、
もう、信じておりまして。
- 森下
- (笑)
- Ko
- 治済は一体どんな毒を盛られるんだろうと、
もう、毒のことしか考えてなかったんです。
しかし、そんな自分がとても浅はかだったと、
思い知らされました! はい!
まさか、毒を盛られて、からの、替え玉作戦で、
史実との擦り合わせをバッチリにした、うえでの、
平賀源内先生の、あの、
エレキテル・サンダーアタックでとどめを刺す!
- 一同
- (爆笑)
- Ko
- っていうのが、もうほんとうに、
想像を遥かに超えて、驚きの展開で、
もう「こう来たか!」って言って、
家でごろごろ転がって悶えて、
痺れました! 最高でした!
- 一同
- (拍手)
- Ko
- で、そこで質問なんですけれども。
- 森下
- はい(笑)。
- Ko
- あの、一橋治済の最後に関しまして、
いったい何をどうやったら、
ああいう展開の発想に至ったのかっていうことと、
あともし可能であればで構わないんですけど、
たくさん候補があったと思うんです、
あの、その、ま、殺し方の。
- 一同
- (笑)
- Ko
- 聞こえ悪いですけど、下世話な質問ですけど、
どういう案があったかというのを、
可能な範囲で教えていただければと思います。
- 森下
- いやあ、ありがとうございます(笑)。
まず、ああいう発想に至った背景は、
まえにも言いましたが、観ているみなさんが、
どうやら治済に天誅をくだすことを
けっこう強く望んでらっしゃることもあって、
それで思いついた感じです。 - 別の殺し方の案としては、
これはけっきょくうまくいかなかったんですけど、
「能」をつかって、入れ替えることが
できないかなってずっと考えてました。
あとは、家斉が家基の祟りを恐れて、
お祓いすることになって、その儀式の場で、
雷直撃! とかは考えた覚えがありますね。
- Ko
- やっぱりそこはエレキテルで!
- 森下
- そうですね、いずれにしろ、エレキテル・アタック。
最後はもう、エレキテル・アタックですかね。
- ──
- 「エレキテル・アタック」が
公式名称になっちゃいますけど、大丈夫ですかね。
- 森下
- もう、いいです、それで!
- 一同
- (笑)
- ──
- いやあ、ありがとうございます。
質問に拍手が起こる質疑応答も
なかなかないんじゃないかと思いますが(笑)。
ええと、時間も過ぎておりますし、
このあたりで締めたいなと思うのですが、
ひとりだけ、例外的に質問者を指名させてください。
じつはこの人の名前もちゃんと紙に書いて
箱に入ってたのですが、引けませんでした。
というわけで、ひとり特別枠として、
マイクを渡します。糸井重里です。
- 一同
- (どよめく)
- 糸井
- ありがとうございます、糸井です。
あのう、申し込んだときに質問を書いてたんですけど、
けっきょく、永田くん、どれにしたっけ?
- ──
- ええと、あれです。
「蔦重はけっきょく誰にも惚れてないんじゃないか?」
「本気の恋をしていないんじゃないですか?」
という質問ですね。
- 糸井
- ああ、そうだ、そうです。
あの、蔦重は最初から最後まで1回も、
誰も愛していないんじゃないかと思ったんです。
- 森下
- あーー。
- 糸井
- ここからはぼくの勝手な推論ですけど、
おそらく、それはお母さんに突き放されたところから
生きていかなきゃいけなかった、
というのが影響してるんじゃないかなあ、と。
あとは、あれですね、彼は吉原のど真ん中にいる。
吉原って、エロティシズムの渦ですから、
性と愛については、距離を保たなければ
ドラマにならないんですよね。
- 森下
- そうですね。そういう意味では、
「性愛」みたいなものは愛につながらなければ、
特別なものにはならない、
ということかもしれません。
- 糸井
- ある種のエチケットというかマナーとして、
エロティシズムのそばにいる者の
ストイックさみたいなものが、
ドラマの中ずっと貫かれていますよね。
駆け落ちした人などは出ますが、
それ以外の吉原にはほとんど
「愛している」という物語がありませんでした。
蔦重という人にそこのところが
すごくシンボリックに表れていて、
「俺はお前のことを友だちだと思うよ」と、
『べらぼう』を観ながらぼくはずっと思ってましたね。
- 森下
- 「お前の寂しさも、
そうなっちゃう気持ちもわかるよ」
ということですか?
- 糸井
- そうです、そうです。
- 森下
- そういえば、スタッフと打ち合わせしているときに、
「蔦重が瀬川の胸の谷間を見た時に
どういう態度を取るのか?」
という論争があったのを思い出しました。
無意識とはいえドキッとするのではないかという意見から、
「いや、ずっと見ているからそうでもない」
「そもそも江戸の人は混浴だから
裸体にそんなに興奮しないのではないか」
という議論をみんなでしました。
- 糸井
- あーー、おもしろいですねぇ。
- 森下
- そのときに横浜流星さんが
「俺は、じーっと見るけど、何も感じないと思いますね」
と言いまして。すごく説得力があったので、
「じゃあその方向でいこう」となりました。
いま思い出してみると、
「見たかったけど見ない」ではなくて、
「見ない派だけど、興奮しないまま
ずっと見られるポジション」
というのが答えだったのかな、と。
そんなことを思い出しました。
- 糸井
- なるほど。つまり、いちばん愛と性に
近い場所にいる人たちであるがゆえに、
その人たちがいちばん関係ないんですよ、
という一貫したコンセプトが、
ドラマのなかでずっと守られているのが、
ぼくにはとてもスリリングでおもしろかったです。
- 森下
- ああ、そうですね。
すごく根本的に流れているものを
掬(すく)ってくださって、
ほんとうにありがたいです。
物語というのは、最終的には、
受け取った方のなかに何が流れるかなんだなと、
いま、すごくいいものを見せていただきました。
ありがとうございます。
- ──
- 今日の締めの感想として、森下さんいかがでしたか。
ふつうのインタビューや対談のような文脈がなく、
ばらばらの質問が集中する
千本ノックのような2時間は、
そうとうキツかったのではないかとも思うのですが。
- 森下
- たしかに千本ノックのような感じではありましたが、
すごく楽しかったです。
質問をいただいて、思い出しながら、
みなさんとお話ができたようで、
ほんとうに楽しい時間でした。
質問自体もバラエティに富んでいてすごく面白かったです!
ありがとうございました!
- ──
- ありがとうございました。
これを持ちまして本日の質問会を終わりたいと思います。
森下さん、本当にありがとうございました。
拍手でお送りください。
- 一同
- (拍手)
- 森下
- ありがとうございまーす!
(最後までお読みいただき、ありがとうございました)
2026-01-02-FRI