
俳優の坂口涼太郎さんが、
尊敬する人々とおしゃべりしながら
「生き方」を聞いていくシリーズが始まります。
今回お招きしたのは、小説家の吉本ばななさんです。
以前から交流があり、通じ合うところのあるおふたり。
なるべく自分をあざむかず、ゴキゲンな波に乗るために、
日ごろ考えていることを語り合いました。
たびたび真珠がキラリと光る、あたたかい海のような対談、
お楽しみください。
坂口さん衣装協力 :MA-A。/ RYO HOSHIDA
坂口さんスタイリスト : takashi sekiya
吉本ばなな(よしもと・ばなな)
1964年、東京生まれ。
日本大学藝術学部文芸学科卒業。
87年『キッチン』で
第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。
88年『ムーンライト・シャドウ』で
第16回泉鏡花文学賞、
89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で
第39回芸術選奨文部大臣新人賞、
同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、
95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、
2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞
(安野光雅・選)、
2022年『ミトンとふびん』で
第58回谷崎潤一郎賞を受賞。
著作は30か国以上で翻訳出版されており、
イタリアで93年スカンノ賞、
96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、
99年マスケラダルジェント賞、
2011年カプリ賞を受賞している。
近著に『短いこの人生でいちばん大事なもの』がある。
noteにて配信中のメルマガ
「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。
坂口涼太郎(さかぐち・りょうたろう)
1990年、兵庫県生まれ。俳優。
趣味は読書、映画演劇アート鑑賞、旅、短歌。
特技はピアノ弾き語り、ダンス、英語、
アルトサックス、パーカッション。
おもな出演作に、ドラマ 朝の連続テレビ小説
「風、薫る」「らんまん」「おちょやん」(NHK)、
「ビリオン×スクール」、
「愛の、がっこう。」(フジテレビ)、
映画「ちはやふる」シリーズ、
「アンダーニンジャ」舞台「ヴェローナの二紳士」、
「モダンボーイズ」、
木ノ下歌舞伎「勧進帳」「三人吉三」など。
2025年、エッセイ
『今日も、ちゃ舞台の上でおどる』を発売。
- 坂口
- 『深夜特急』を書かれた沢木耕太郎さんが、
旅をしてからしばらく、
旅のことを書く気になれなかったと
おっしゃっていて。
文章にするには、枠をつくって、
旅で感じたものを切りとらないといけなくて、
余白の部分が失われてしまうからと。
- 吉本
- わかる、わかりすぎる。
- 坂口
- わかりすぎます?
- 吉本
- うん、なんだか
ちっちゃくなっちゃうんですよね、書くと。
でも、だからみんな
生きてるんだろうなって思います。
言葉に収まりきらないような現実を感じたくて、
生きてるんだろうなと。
書くとちっちゃくなっちゃうから、書かずに。
- 坂口
- でも、ばななさんは書くんですね。
- 吉本
- ほかに向いてることがなくて。
クジラの骨を食べる生きものみたいに。
こんなに特化するつもりはなかったんだけど(笑)。
- 坂口
- でも、書いたものがここまで
多くの人に届いたんだということは、
やっぱり自信につながりましたか。
- 吉本
- 毎回新人というか、
デビューの気持ちで書いてるから、
あまりそれはないかもしれない。
- 坂口
- へええ。それって、
なかなかできない心構えですね。
- 吉本
- 飽きちゃうんですよ。
似たような話もあるんだけど、
いろんな角度からものを書いて、
一個でも新しいことを出さないと、飽きちゃう。
だから、飽きないように一所懸命
ちょっとずつ書いて、
「これだけ新しいところがあった」と
安心するような感じでやってきました。
なので、毎回ちょっとドキドキするんです。
でも一回、ドキドキせずに
「あ、また本出るんだ」と
思ってしまったことがあって。
「これはほんとにまずいな」
「嫌だ、こんなの」と、
危機感を抱きました。
- 坂口
- そのあと、どうなさったんですか。
- 吉本
- ちょっと静かにして、
しばらくしのぎました。
そして、また新しいことが出てくるまで
待ってみたんです。
そのときはいちばんつらかったです。
スランプは一回もないけど、
本が出るときめきがなくなったときは。
- 坂口
- いまは、本が出るとときめきますか。
- 吉本
- ときめきます。
- 坂口
- ばななさんからそれを聞けるのは、
なんだかうれしいなぁ。
- 吉本
- 近年は「ときめかなければ出さない」
ぐらいの気持ちでやっていたから、
またときめけるようになりました。
- 坂口
- 最高の「違うことをしないこと」ですね、
それは。
- 吉本
- うん、そうかも。
- 坂口
- 「ときめくことをすること」ですね。
- 吉本
- そうです(笑)。やっぱり、
ゴキゲンになるようなことがないと。
本が出る前の、2、3日前から、
圧が来るんですよ。
- 坂口
- えっ、圧というのは。
- 吉本
- 「みんなが読むんだ」という、
圧としか言いようのないものが、
ひしひしと。
それで、ちょっと空気が重くなるんです。
上機嫌じゃないと、その空気に勝てないの。
「こんな思いをするなら、
本なんて出さないほうが‥‥」
という気持ちに持っていかれそうになる。
だけど、「わあ、この表紙いい!」
「電子でも出てる!」
といううれしさがあると、勝てるんです。
- 坂口
- いろんな人に届くことの
うれしさなのでしょうか。
- 吉本
- うーん‥‥届いても、
プラスマイナス、どちらもあるんです。
物語を読むことには、
マイナスな気持ちになる部分もあって。
私の書いたものが
人の心の奥底に入っていって、
苦しいことを考えさせてしまうということも
わかってしまう。
最終的には
プラスになるように書いてるので、
最後は大丈夫なんですけどね。
途中の圧に太刀打ちするには、
元気で、機嫌よくいるしかないんです。 - 「本が出てありがたい、
お天道さまありがとう」と、
大きくポジティブになるわけじゃなくて、
「なかったものが形になってるー、
やったあ、きょうは飲んじゃえ」みたいな、
純粋な喜びです。
その気持ちを常に持ってないと、
慣れちゃうんです。
- 坂口
- 慣れはほんとに恐ろしいですね。
私も絶対に慣れたくないです。
- 吉本
- 慣れると、自分もつまらないですよね。
幼稚園生のときの坂口さんが貝の上に
ずっと真珠を置いてたのも同じで、
一個一個全部違う貝だし、
全部違う真珠で、組み合わせも無限で。
それを夢中で並べられているときは
いいんだけど、あるときふと
「結局、貝の上に真珠並べてるだけじゃん」
と思ってしまったら、
自分がダメになっちゃうんです。
- 坂口
- たしかに、そうですね。
- 吉本
- それにだけは気をつけようと、
いまも思っています。
なるべく、フレッシュな気持ちで
いるように。
- 坂口
- 私も、舞台に出るとき、いまだに、
毎回本番前に震えるんです。
- 吉本
- それはすばらしいことです。
そのときは緊張して、
嫌な気持ちだと思うけれど、
でも絶対に、それはいいほうに向かう
嫌な気持ちですよね。
- 坂口
- 逆に「ハーイ、きょうもいつもどおりに」
と、あっけらかんとなるのが
怖いところもあります。
だから、緊張する気持ちは忘れたくないし、
「まだ武者震いできる」ということを
大事にしたいです。
- 吉本
- 緊張は、やっぱり可能性とイコールですね。
- 坂口
- そう思いたいですね。
- 坂口
- 私、好きな人の名前の文字を使って
短歌をつくる癖(ヘキ)がございまして。
- 吉本
- すごーい。いいヘキですな。
- 坂口
- きょうは、ばななさんのお名前の文字で、
「涼短歌」を詠んできたんです。
読み上げてもいいですか。
- 吉本
- もちろんです。
- 坂口
- いきます。
「吉報はねむって待つの
お手本はあおあおとした海辺のばなな」。
- 吉本
- すごーい。すごい、すごい。うれしーい。
- 坂口
- 私が、ばななさんの物語や言葉から
受け取ってきた、
「眠っててもいいんだよ、
あなた大丈夫だよ」
というメッセージをもとに、
つくってみました。
あと、ばななさんには
海のイメージがあると思ったので、
お店で売っている黄色いバナナじゃなくて、
これから熟していく
青々とした海辺のバナナを詠みました。
- 吉本
- ありがとうございますー。うれしいです。
眠るのは、大切なことです。
- 坂口
- こちらこそ、ありがとうございました。
やっぱり、ばななさんに会うと、
私はほんとに元気になります。
ウワーッと大きなことをやったあと、
「これからどうしよう」
「ちょっと休まないとたぶんいけない」
と思ったときに、
ばななさんの小説を手に取るように、
「いま、ばななさんに会わなきゃ」って
思ったんです。
- 吉本
- いつでも呼んでください。
私は、坂口さんに、小さいことで
自分を満たしてあげてほしいなと
思っています。
忙しいと「バンドエイド貼り直したいけど、
ま、いいっか」とか
「きょうはパックしようと思ってたけど、
眠いから寝ちゃおうか」となるときが
ありますね。
でも、そんなときこそ、
自分のためになることをしてあげてほしい。
前、いいシャンプーを使ったら
やっぱりよかったという話を
してましたよね。
北欧みたいになったんでしょ?
- 坂口
- そうなんです。
ふだんだったら人に贈るためにしか
買わない、自分にはもったいないから
使わないシャンプーがあったんですよ。
でも、ちょっと疲れてるなと感じたときに、
そのシャンプーを自分のために買ったほうが
いい気がして、買ったんです。
「あぁ、自分のために
こんないいシャンプー買っちゃったな」と、
ちょっと後ろめたさを感じながら使ったら、
すっごく気分がよくなって。
お風呂場の鏡で自分の顔を見たら、
まるで北欧を旅して帰ってきた人みたいな
顔になってたんです。
「どんな顔だ」と
思われるかもしれませんが(笑)。
- 吉本
- この話を聞くと、
いつも良いシャンプーが欲しくなるんですよ。
- 坂口
- あははは。
そのとき、やっぱり「必要な無駄」って
あるんだなと思ったんです。
コスパやタイパじゃなくて、
「無駄のパフォーマンス」というものが
あるんじゃないかって。
一見、無駄遣いかなと思っちゃうことでも、
「ムダパ」があるということを信じて、
やってみるようにしたいです。
たまに自分の声を聞いてあげて、
「ムダパだ、これは。必要なんだ」と
思って、やってみるように。
- 吉本
- うん、やってあげてほしい。
小さな幸せを自分にあげて、
忙しさを乗り切ってほしいな。
だって、ほんとに忙しそうなんだもん。
- 坂口
- いやいやもう、そんなことないですけど。
ばななさん、きょうは本当に、
たくさんの金言をありがとうございました。
- 吉本
- ありがとうございました。
またお話ししましょう。
(終わります。お読みいただき、ありがとうございました)
2026-08-09-SUN

