俳優の鈴木杏さんは、
ほぼ日手帳に毎日絵を描いています。
そんな鈴木さんが、憧れの画家、
荒井良二さんとふたりで絵を描くことに。
描くことは本当に自由なのか、
作品の完成はどう決めるのか。
固まった常識を溶かして
新しい色に変えていくような
ふたりのおしゃべりから、
ひとつの作品がうまれました。

>荒井良二さんプロフィール

荒井良二(あらい・りょうじ)

1956年山形県生まれ。
『たいようオルガン』でJBBY賞を、
『あさになったのでまどをあけますよ』で
産経児童出版文化賞・大賞を、
『きょうはそらにまるいつき』で
日本絵本賞大賞を受賞するほか、
2005年にはアジアで初めて
アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を
受賞するなど国内外で高い評価を得る。
2012年NHK連続テレビ小説「純と愛」の
オープニングイラストを担当。
2023年から2025年まで、自らの作品を再構成した展覧会
「new born いつも しらないところへ
たびするきぶんだった」を開催。

>鈴木杏さんプロフィール

鈴木杏(すずき・あん)

1987年生まれ。
1996年TVドラマ「金田一少年の事件簿」で
子役としてデビューし、
翌年の「青い鳥」で注目を集める。
その後も多くのドラマ、映画、舞台で活躍。
第 26 回日本アカデミー賞 新人俳優賞・話題賞、
第 71 回芸術選奨 文部科学大臣新人賞受賞、
第 28 回読売演劇大賞 大賞・最優秀女優賞受賞、
第 55 回紀伊國屋演劇賞 個人賞受賞など、
受賞歴多数。
近年の出演作に、NTV「ホットスポット」、
NHK「大奥」第2シーズン、
NHK「いつか無重力の宇宙で」、
舞台「骨と軽蔑」など。
俳優活動を続けながら、
個展を開催するなどアーティスト活動も行い、
2025年に絵を描く仲間が出会い、
応援し合うコミュニティ
「シェアアトリエぷくぷく」を開設。

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【第2回】前とは違う。

鈴木
私は最近、絵を描くとき、
作為と無作為をどれだけ行ったり来たり
できるかということで遊んでいて。
自分のスタイルがまだ全然ないので、
画材の使い方や、
「こうしたらこうなる」という理論も
わからないまま、実験みたいな感じで
描いているんです。
荒井
いいと思いますよ、実験で。
わかっちゃったら、もうつまんないもの。
鈴木
あと、私はすぐひとつの描き方に
飽きちゃって、新しいことを
したくなっちゃうみたいなんですよね。
荒井
ああ、いいじゃないですか。
どんどん新しいことをやったほうが
いいと思う。
それで結局、元に戻ったりもするんだけど。
鈴木
ありますね。
荒井
自分の中では「進んでる」と思うんだけど、
あるときに突然「おれ、変わってない」と
気づくみたいなことがね。
でも、それって進歩してないようだけど、
そのプロセスのあいだに
経験したことがあるぶん、
前とは違う。それが大事ですよ。
あと戻りはできないし、しないほうがいい。

鈴木
お芝居もそうかもしれません。
数年前に演じたお芝居を再演することが
たまにあるんですけど、
前回やったことを
まったく同じようにやるのは、
無理なんです。
荒井
ああ、そうなんですね。
でも、お仕事を依頼されるときって、
以前と同じテイストを求められたり
しないですか。
「あのときのようなお芝居をお願いします」
とか。
鈴木
もし、そのようなご依頼があったら、
「たぶんできないと思います」って
言っちゃうと思います。
だって、覚えてないじゃないですか。
数年前のことなんて。
荒井
かっこいいなあ。
鈴木
5年前なら、それから5年分の経験を、
もう積んでしまっていますから。
とくに研鑽を積んだとかじゃなくて、
ただ生きていたという経験だけでも、
5年前の自分といまの自分は別人に
なっていると思うんです。
荒井
おれも今度から、「昔みたいなタッチで」
と言われたらそう返すことにします。
鈴木
あははは。
私は、自分が出た昔のお芝居を見返すと、
自分がやった気がしないことがあります。
荒井さんはご自身の絵を見返して、
「自分が描いたんじゃないみたいだな」と
感じることはありますか。
荒井
ほとんど、自分の絵を見ないんです。
たまに見ると、描いたときに
聴いていた音楽を思い出したりします。
鈴木
音楽を聴きながら描かれるんですか。
荒井
音楽がかかっているところで
描くことが多いですね。
ただ、絵を描くときは、日本語に限らず、
言葉を聞くと引っ張られるので、
歌詞のない曲をかけています。
スカイとかレインボーとか、
単純な単語でも、
なんだか引っ張られてしまう。
鈴木
歌詞にレインボーが出て来たときに、
レインボーを思い浮かべちゃうから。
荒井
そうそう。だけど、言葉がなくても、
音楽って言葉を誘発するんですよ。
そして、そのとき思い浮かんだ言葉が、
絵には多分に出るんです。
だから、たとえば黄色を選んだときって、
意識の中になにか言葉があるんです。
それを打ち消したくて、
急いで黄色を塗っちゃう。
鈴木
ああ、打ち消していく。
荒井
おれ自身はなんにも考えてないのに、
空や海はブルー、水は水色、土は茶色、
っていう決まった色があるじゃないですか。
鈴木
太陽はオレンジとか。
荒井
そういうことを教わったのって、
忘れないんだよね。

鈴木
あれ、ちょっとジャマですよね。
荒井
ジャマだよね。
おれは「これ、青に塗ったら、みんな
空や海を連想するんだろうな。
おれは絶対連想させないぞ」と思ってる。
「ブルーを使ってあったかい絵を描くぞ」
って。
「この絵はどんなことを
示しているんですか」と訊かれたら、
いろいろ解説はするんだけど、
ほんとは解説なんてできないから、
そのときどきで違う答えを
したりしているんだよ。
でも、自分の絵が
「こういうふうにも見えるなあ」
「こんなふうにも思えるなあ」と、
毎回違ったふうに見えるのは本当なんです。
前と違うことを言ってるんだけど、
嘘じゃないんだ。
鈴木
どの時点の感情も嘘じゃない。
おもしろいですね。
私も、絵の天地なんかも
なるべく決めないでいたいんです。
荒井
すごい。かっこいい。
鈴木
いやいや(笑)。
絵にサインを入れなきゃいけないときは、
サインを入れると上下が決まっちゃうから、
どこに書こうか迷います。
荒井
じゃあ、サイン、四隅に書いたら? 
鈴木
4つですか。おもしろいかも。
荒井
そうすれば回転しても大丈夫だよ。
鈴木
たしかに。
荒井
サインが四隅にある絵があったら、
「絵の見方はひとつじゃないよ」っていう
提案にもなると思うし。
ちょっとぼくの話になって恐縮ですが、
小学校3年生のときに、
外で絵を描くっていう授業があったんです。
ぼくは田んぼを描いたんですよ。
空も描かずに、
田んぼの土だけを描いたんです。
鈴木
稲穂とかも、描かなかったんですか。
荒井
描かなかったです。
もう稲刈りが終わったあとの
田んぼだったから、土だけ。
その絵が先生にすごく褒められて、
校内に貼り出すことになって。
貼り出されたのを見たら、絵が逆さまだったの。

鈴木
えーっ! 
荒井
あははは。
おれ、「これ逆です」って言えなかったの。
「たしかにこうも見えるな、
いいな」と思ってた。

(明日に続きます)

2026-03-10-TUE

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  • [お知らせ 1]

    東京都が進めている工事現場の仮囲いなどを
    キャンバスに見立て、
    街にアートの景色を広げていく文化プロジェクト
    「TOKYO CITY CANVAS」の一環で、
    渋谷区にある「旧こどもの城跡地
    (東京都渋谷区神宮前五丁目53-1)」の
    仮囲いに荒井さんが作品を公開しました。
    かつてこの場所にあった「こどもの城」や
    劇場にちなんで、
    絵本『はっぴぃさん』(偕成社)を
    舞台風景のように表現しています。
    また、ワークショップを通して
    地域の園児から寄せられた「願いごと」を
    作品の中に取り込んでいます。
    来年2月まで公開予定です。

  • [お知らせ 2]

    『やどる “Something begins to live”』

    2026年4月11日(土)~4月28日(火)

    休廊日︰4月13日・14日・20日・21日

    開廊時間︰13︰00ー18︰00

    ※最終日は17:00まで

    SISON GALLERy
    3-18 Sarugaku-cho, Shibuya-ku, Tokyo

    https://sison.tokyo

  • 鈴木杏さん

    ヘアメイク:菅野綾香

    スタイリスト:梶原浩敬

    衣裳協力:agete / Pheeta

    写真:池田晶紀

    企画:下尾苑佳

    書き手:松本万季

    デザイン:土屋梓