あけましておめでとうございます。
とつぜんですが今年、ほぼ日は雑草に学びます。
農学博士（雑草生態学）の稲垣栄洋先生の
「ほぼ日の學校」でのお話や著書をきっかけに、
急速に雑草に興味が湧いてきた
糸井重里と、ほぼ日のメンバーたち。
さらにいろいろなお話を聞けたらと、
先日みんなで、先生が普段から研究をすすめる
静岡大学の藤枝フィールドに行ってきました。
そのとき教えてもらった、たのしくて、
元気のもらえる生物のお話の数々を、
新春第１弾の読みものとしてご紹介します。
雑草のように、戦略的にクレバーに、
やさしく、つよく、おもしろく。
さぁ、新年のほぼ日、はじまります。
稲垣栄洋（いながき・ひでひろ）
1968年、静岡県静岡市生まれ。
静岡大学大学院教授。農学博士。
専門は雑草生態学。
自称、みちくさ研究家。
岡山大学大学院農学研究科修了後、
農林水産省、
静岡県農林技術研究所などを経て
現在、静岡大学大学院教授。
『身近な雑草の愉快な生きかた』
『都会の雑草、発見と楽しみ方』
『身近な野菜のなるほど観察録』
『身近な虫たちの華麗な生きかた』
『生き物の死にざま』
『生き物が大人になるまで』
『手を眺めると、生命の不思議が見えてくる』
『敗者の生命史38億年』
など、その著書は50冊以上。
- 糸井
- 稲垣先生の「大学の先生」という立場は、
枠を教える仕事でもありますよね。
ある意味、枠からはどこまでも自由な
雑草とは別の発想で。 - だけどきっと、先生をされていることで
感じられている良さもあると思うんです。
「こんなことができた」とか、
「こういうおもしろさがあった」とか。
そういうことって何か思い浮かびますか？
- 稲垣
- そうですね。
先生になって非常によかったと思っているのは、
いろんな学生に会えていることですね。 - 「個性が大事だよね」といった話も、
それまで意識はしつつも、頭の中だけで
考えてることが多かったわけです。
だけど先生の立場になると、
いろんな個性を持った若い人たちに直接会えて、
「ああ、個性ってこういうことか」を、
身を持って実感できるんです。 - そして先生の立場ではやっぱり、
学生があまりにばらばらすぎると
「まとまってほしいな」とも思うんですよ（笑）。
- 糸井
- ああ（笑）。
- 稲垣
- ぼくらは「個性があるほうがいい」と
けっこう言いますけど、
大学で教える立場になってみると、
「いわゆる優等生じゃない、
このあたりの個性でまとまってほしいな」
みたいに思ってしまう自分も同時にいて。 - やっぱり人間って、あまりになんでもいいわけじゃなく、
ある程度まとまっていることも求めるわけですね。
- 糸井
- そうなんですよね。
- 稲垣
- 先ほど雑草を見ながら感じられたと思うんですけど、
植物って基本的にばらばらで、
「多様であろう」「ばらばらであろう」
とするわけです。それが自然界というもので。 - だけど農業が典型ですけど、人間はそれだと困るんです。
稲が実ったり実ってなかったり、
背が極端に高かったり低かったりすると、
稲刈りがものすごく大変ですから。
やっぱり同じ時期に、同じ高さで実ってほしい。
「揃えたい、揃えたい」と思うのが人間の社会で。 - そういう「揃えること」で人間が
社会や文明を築いてきたことは間違いないんで、
「揃えたい」はもう仕方がない。
- 糸井
- ええ。
- 稲垣
- 人間の脳は「揃えたい、揃えたい」と思うから、
私も学生に揃っててほしいとも思うし、
大学という枠のなかでも揃えたりしてて、
順位もつけるし、成績もつける。 - でも人間は生物なんで
「ばらつきたい、ばらつきたい」
と向かう力もある。 - いろいろ考えてきて、そこの矛盾はもう
解消できないなと思っているんです。
生物の「ばらつきたい」と
人間の「揃えたい」って、
同時には成立しないんですよ。
- 糸井
- あぁー。
- 稲垣
- 「個性が大事だよね」
「多様性が大事だよね」とか言っても、
私たちは人間だから、
揃えてしまうのは仕方がない。 - けれどもそれは仕方なくやってるというか、
「それが本質ではないんだけどね」
ということを、揃える側も揃えられる側も
わかった上でやるのが大事というか。 - 学生とぼくであれば、成績について
「こういう点数をつけてるけど、
これは私の評価基準でつけてるだけで、
あなたの評価じゃないからね」
って言うんですけど。
- 糸井
- 言葉で言う。
- 稲垣
- そうですね。
だから単位をあげられない学生もいるんですけど、
「今回は単位をあげられないけど、
それは私の評価であって、あなたの評価が
低いというわけじゃないからね」
と授業の前に言って、それで単位を落としてます。
- 全員
- （笑）
- 稲垣
- そういうものだと思ってやると、
お互いにちょっと生きやすいっていうか。 - 学生のほうも
「まあこれは稲垣先生の評価で、
違うところでは自分も別の評価をされるはずだ」
と思っていればいい話ですから。
- 糸井
- 稲垣先生はいま、先生をやってて嬉しいこととして、
まずいろんな学生と会えることをおっしゃったり、
さきほど見学のときも
「自分には考えつかないけど、
学生がこういう発見をした」
といった話を、とても嬉しそうに語られてて。 - そういう喜びもやっぱり、それぞれに違う人たちが
大学という場所に一緒にいるからですよね。
ばらばらにいて出会えなければ、
その違いにも気づかないわけだから。 - となると、集まったときのおもしろさがあれば、
なんの矛盾にもなんないっていう。
- 稲垣
- そうですね。
ばらばらのものがひとつに
まとまっているからこそできるものって
やっぱりありますよね。 - それ、難しいことではあると思うんです。
同じものが揃ったほうが絶対楽なので。
やっぱり個性ある人たちが集まると、
ほんとにうまくいかないこともあるし、
悩み苦しみもあるし。 - だけど、そこでのおもしろさとか、
ひとつになったときの強さというのは
間違いなくあるとは思いますね。
- 糸井
- うちの会社のメンバーが、
ある意味でいちばん盛り上がるのが、
年１回くらい、全社をあげてやっている
「生活のたのしみ展」というイベントなんです。 - 普段ばらばらに仕事をしている人たちが、
いつもと違う環境で、みんなで協力しあいながら
全員で１つのイベントを成立させるんですね。 - それ、やっぱり大変なんですよ。
それぞれ普段からの仕事の仕方も違うし、
イベントでいつもと違うことを大量にやるし、
お客さんもたくさんいらっしゃるし。
会社の外の人たちともものすごく関わるし。
みんなひとりひとり、普段の自分たちからしたら
ちょっと無理もするわけです。 - だけど、そこでの疲れただのなんだのって、
みんな、あとですっごく嬉しそうに語るんですよ。
- 稲垣
- ああ、いいですね。
- 糸井
- ひとりひとり、それぞれに違う人たちが、
ひとつの目的に向かって集まるとかって、
「そういう時代じゃない」とか
言われるかもしれないですけど。 - でもぼくはいま、そういう
ばらばらの個性の人たちが集まって、
多少の不自由を感じながらも
みんなで一緒にやるみたいなことって、
実はいちばんおもしろいんじゃないか、
とも思ってて。 - 「全部、自由がいい」
「一人ひとりそれぞれ好きにやるのがいちばんいい」
みたいな考え方ってありますけど、
そういうイベントをやってるみんなで
心がどう動いてるかを確かめあったら、
みんなきっと
「大変かもしれないけど、私は好きです」とか
「やってよかったです」とか、
言うんじゃないかなと思うんです。 - だから、違うみんなでひとつのことをやるって、
もちろんやりかたによると思いますけど、
関わるみんなが嬉しい、
おもしろいことってきっとできるはずで。 - そういう見方をすると、いろんな物事が
違って見えてくるんじゃないかと思うんです。
- 稲垣
- そうですね。
- 糸井
- 大学にいる学生さんたちも、
おそらくそれぞれに個性があって、
考えのズレも反発もあるかも知れないけど、
そこに同じ目的の人が集まっていることで、
安心感もあるだろうし、
刺激し合うところもあるだろうし。 - そこで集まることで引き換えにやらなきゃいけない
「みんなでいるから守らなきゃいけないこと」って、
わりとできちゃうことだと思うんです。
「いまは授業中だから外出ちゃいけない」
とかって、守るの簡単じゃないですか。 - そこでいきなり外に出る人がいるのは
「それはやっぱりみんなの安心が減るから、
いまはしないほうがいいよね」とかって。 - そういうことさえ守っていれば、
みんなでおもしろいことができる。 - そのあたりのありかたについても、
実は自然界には見本が
いっぱいありそうな気がするんですよね。
- 稲垣
- ああ、なるほど。そうですね。
- 糸井
- たぶんぼくはそういうことからも、
先生の雑草の話に
飛びついたんじゃないかと思うんです。
コセンダングサの種。
雑草コラム04
１日中、ひっつきむしを見ていたら。
（フィールドを、稲垣先生と歩きながら）
稲垣：
これはコセンダングサですね。
この種が「ひっつきむし」と
呼ばれたりするんですけど、
人間の服などにくっつくことによって、
遠くの土地に運ばれて、芽を出すわけです。
小学生だと「くっつきボンボン」、
学生に聞くと「チクチクボンバー」とか
言うんですけど。
糸井：
なんだかいまっぽいな（笑）。
稲垣：
よく見ると種の先が、
魚を突くモリのようになってます。
返しがついてて、引っかかったまま抜けない。
それで遠くへ運んでもらうんですね。
だけどこの種にはもうひとつミッションがあって、
ひっつきっぱなしだと困るんですよ。
あとで落ちて離れないといけない。
なのでモリの部分がけっこう脆くて、
しばらくすると外れて落ちる仕組みに
なっているんです。
こういった植物の性質を参考にして作られたのが
マジックテープ（面ファスナー）ですね。
ずっとくっつきっぱなしも困るんですよ。
糸井：
ポストイットだ。
稲垣：
そうですね。あとで離れることが重要という。
で、コセンダングサの種って、
上半分だけとれてて、
下半分は残ってることが多いんです。
実際に調べてみても、上半分はとれやすく、
下半分は外れにくくなってます。
つまり、上半分はどこかにくっついて、
遠くへ運ばれていくための種子で、
下半分は親の近くにいたい種子。
だから上半分の種って、
地面に落ちたあと、なかなか芽が出ないんです。
生まれたところから遠い未知の場所では
何が起こるかわからないから、
タイミングをはかるんです。
で、下半分の種はわりとすぐ芽が出てきます。
親の近くの安全だとわかってる場所に
育つものだから、そういう場所だと、
他より早く芽を出した方が有利ですよね。
そんなふうに特徴が違うっていう。
糸井：
そういう種子（趣旨）でやってます（笑）。
稲垣：
（笑）これは昔、うちの学生が
明らかにしたことなんですけど。
その学生は最初から、
ひっつきむしの研究をしたいと言って
来たんですよ。
糸井：
すごい。もともと。
稲垣：
でも何を研究すればいいかわからないから、
「じゃあ１日見ててごらん」
って言ったら、ほんとに１日見てたんです。
そしたら
「なんか上と下で違うような気がします」
と気がついて、調べたらそうだったという。
糸井：
かっこいいですね。
稲垣：
学生は目の付けどころが違うんですよね。
ぼくではちょっとかなわない。
たぶんぼくが１日見てても何も起こらないけど、
学生が見てると、そういうことに気づくんです。
（つづきます）
2025-01-05-SUN
