愛と言うには  ちょっと足りない。  『モテキ』をめぐる、とても自由な座談会。

第12回 練習問題が多いんです、いまは。

糸井 いやぁ、けっこう掘りさげた話になりました。
すごいなぁと思うのは、
みなさん、ほんとによく考えてますよね。
ハマケン ん? どういうことですか?
糸井 この座談会の最初に久保さんから、
「糸井さんなんかにわかるんですか」
って言われましたけど。
久保 はははは。
糸井 「糸井さんなんかに」って言われる資格が
ちょっとぼくにはあるかもしれない。
ぼくはものすごくどこかで、
バンバン断ち切っちゃうもん。
久保 断ち切る。
糸井 考えるのやめることの訓練を積んできた気がする。
久保 そうか、そこはプロですよね。
ハマケン なるほどね。
糸井 答えが出ないことを考えるのを
どうやめるかについて、
練習してきた気がするんですよ。
森山 それはすごくわかります。
糸井 60くらいになってだよ、言えるのは。
森山 いま糸井さんおいくつなんですか?
糸井 61。
森山 え!
久保 え! そっかぁ。
糸井 なんだきみたち、失礼だな!
一同 (笑)
糸井 だってさっき、団塊の世代って言ったじゃん。
ハマケン ああ、そうですよね。
糸井 あの、なんだろう、
やっぱり長く生きてるあいだに、
生理としてそっち行って落っこちたとかさ、
そっち行ってえらいめにあったとかさ、
火傷をしていくうちに、
「そこは考えない」ってことが
だんだんこう積み重なっていくんです。
森山 でも、糸井さんが断ち切るっていうのは、
捨てるとか妥協することではないんですよね?
糸井 ではないんです、うん。
このマンガをおもしろがれるってことは
まだ心としては残ってる。
森山 それ、ぼくも近い気持ちがあります。
これを「経たな」って感じがすごくある。
糸井 おおー、そうですか。
森山 すごく感情移入できるし
おもしろいと思えるんだけど、
ここにはもういきたくない、っていう。
糸井 森山さんは、何歳ですか。
森山 今年26です。
糸井 わあ、早いね。
26だと、ぼくはもう真っ最中でしたよ。
ハマケンはいくつ?
ハマケン ぼく28。
糸井 20代のお二方は、すごいね。
昔はやっぱり練習問題が足りなかったのかなぁ。
森山 練習問題。
それはあるかもしれない。
糸井 練習問題が多いですよね、いま。
森山 たしかに、たくさんあるかもしれませんね。
糸井 他人の恋愛まで練習問題になるしね。
ハマケン そうですね。
糸井 こんな漫画は少なくともなかったもん。
ハマケン うーん、やー、でも、
何年も前はもっとシンプルで、
みんないまみたいに
悩まなかったんじゃないですか?
糸井 いや、ハマケン、ちがうのよ、
昔はもっとひどかったの。
ハマケン あ、そうなんですか。
糸井 もっとひどかったと思う。
男は要求されてる水準がもっと高かったから。
すくなくとも、
自分から「草食系です」だなんて言えなかった。
ハマケン はあー、そうか。
糸井 「ぼくは酒飲めません」っていうのを
言えない地方だってあったわけだし。
「そんなことで女を守れるのか!」
って親父から言われたときに、
「守れない」とは言えなかったんだよ。
森山 なるほど。
糸井 だから、おれが若いとき、
20代のほとんどの男は、
「おれはオナニーしてない」って言ってた。
ハマケン ほんとですか(笑)。
久保 ははは。
糸井 そんな社会はどうかしてると思ったよ。
ハマケン どうかしてますね。
糸井 そんなに遅れてたんです、世界は。
ハマケン そうですかぁ。
糸井 よかったよ、おれは。
「してる!」って言い続けてきて。
一同 (笑)
糸井 いまはさ、「してません」って誰かが言ってたら、
「なにそれ? あれは誰?」
ってなりますよね。
ハマケン はははは、なりますね。
糸井 良くなってるんですよ。
このマンガみたいな複雑さまで、
やっとたどり着けたんですよ。
森山 そうですね。
糸井 ‥‥それにしても、
おふたりが大人だったのに驚いたね。
練習問題が多かったにせよ。
ハマケン ほんとですか。
糸井 うん。
いまの子はほんとに、
研究熱心というか‥‥すごいね。
ハマケン (森山さんを指さし)役者ですから。
久保 ああー。
森山 (ハマケンを指さし)ミュージシャンですから。
一同 (笑)

(最終回に、つづきます!)

2010-07-30-FRI


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(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社