第4回:その人を育てるもの。

糸井
サッカーをやりながら
お笑いの方面にはどんなふうに
かかわっていかれたんですか?
又吉
お笑いは、中学生のころから
お笑い番組を録画して、
繰り返し見ていました。
で、自分でもネタを書きはじめて。
糸井
サッカー中にもネタとか思いついた?
又吉
思いついたこともあります。
毎日1人で7キロ走ってたんですけど、
走りながらお笑いのことを考えるのが
好きだったんです。
糸井
ああ、いいですね。
でも、人からはそんなふうに
見えなかったでしょうね。
又吉
ただトレーニングをしてる少年に
見えていたと思います。
でも、頭の中はそんなふうでした。
糸井
自分の宇宙を持ってますね。
又吉
その日あったことを
7キロ走りながら思い返して、
「あそこでああ言っとけばよかった」とか、
「次、同じ場面が来たら、これ言おう」
みたいなことをずっと考えて、
1人でニヤニヤ笑いながら走ってました(笑)。
糸井
反芻してるんだ。
又吉
あと、ぼくの場合は、
中学校に好きな女の子がいたというのも
デカいかもしれないですね。
その子にウケたい、みたいな。
糸井
その子はお笑い好きな子?
又吉
よく笑う子だったんです。
糸井
その子もちょっと好きなんでしょう、
又吉さんのこと。
又吉
ぼくのことですか。
ぼくのことは多分、
全然好きじゃないと思います(笑)。
ぼくからしたら
1日に1回あるかないかのチャンスに
すべてをかけていたんですけど、
緊張してしまって、
何もしゃべれないこともありました。
それで、
「次同じ状況になったら絶対これ言おう」
というのを10個ぐらい溜めて、
その場面が来たときに、その中の‥‥。
糸井
引き出しから。
又吉
はい。
糸井
そのやりかたを
さんまさんは否定したわけだね(笑)。
又吉
そうです(笑)。
捨てろと。
その場のアドリブで言えと。
糸井
そのとおりだ。
でも、その準備してるときに、
明らかに自分は育ってますよね。
又吉
そうですね、きっと。
糸井
ぼくが最近、みんなにも言うし、
自分でもそう思ってるのは、
「自分の中での問答というものだけが
 その人を育てる」
ということなんです。
ぼくも人から教わったことなんだけど、
「ああなりたいな」とか、
「こうありたいな」という理想の自分があって、
それと自分とのあいだに差がありますよね。
それを、
「できなかった。どうしたらいいだろう。
 もっとこうしよう」
と思うその時間が、唯一自分を
育てることなんじゃないかって。
又吉
ああ、そうかもしれないですね。
糸井
「どうだった?」って聞かれて
「よかったです」
って言いやすいですよね。
でも、自分では本当は
あまりよくなかったのを知ってるじゃない?
いまの又吉少年の話を聞いてると、
その自己問答の分量が
すごく多いなぁと思うんです。
だから、小説家にならなくても、
その溜めてた問いと答えを
どこかで出さないとやっていけないくらい、
溜めちゃってたんじゃない?
又吉
たしかに、常にそういう
どうしたらいいか
わからんようなことがありましたね。
中学校のときはサッカー部で、
サッカー部ってだけで体育会系の
スポーツマンとして見られるんですけど、
本当のぼくは、いまのこれなんで、
体育会系とは違うんですよね。
で、自分と似た人を探そうと思って
教室を見渡すと、
隅のほうで男子が4人ぐらい集まって、
ぼくのわからん言葉でしゃべって
ケラケラ笑ってるんです。
それに対する憧れが
ものすごく強かったんです。
糸井
その子たちは何しゃべってたんですか。
又吉
ゲームの話をしてるんです。
『ドラクエ』の呪文を
日常生活に置き換えて言ったりしてるんです。
それで笑ってるんですけど、
ぼく、ドラクエやってないから
わからないんです。
でも、その呪文自体はわからなくても
なんとなく前後の流れで意味がわかるんで、
すごくそれがおもしろく感じて、
ずーっとそいつらの会話を聞いていて‥‥。
糸井
具体的に入って聞いてるんですか。
それとも横に立って聞いているんですか。
又吉
横ですね。
糸井
横で聞いてるんですか(笑)。
又吉
はい。横というか、
教室の机に座って前を見ながら、
みんながしゃべってるのを聞いてました。
で、漫画の話とかも
みんなするじゃないですか。
そのたびに、そういう知識が
自分も欲しくなったり、
自分が言うことで彼らが笑うかどうかが
すごく気になったり、
そういうことをずっと考えていました。
写真
(つづきます)
2015-04-02-THU