国語とからだの役者論 国語とからだの役者論
『VIVANT』や『半沢直樹』シリーズなど、
大ヒット作品に主演し、
いまや日本を代表する俳優のひとりとして
誰もが認める堺雅人さんは、
じつは20年以上前から
ほぼ日とつながりがあるんです。
糸井重里ともときどき会って、
濃く長いやりとりを交わす仲。

そんな堺さんと糸井が「生活のたのしみ展」のときに
開催されたトークショーでたっぷり語り合いました。
思えば、ふたりの公式な対談はほとんどはじめて。
堺雅人さん独特の役者論から学生時代の思い出まで、
思った通り、いえ、思った以上に
おもしろい時間になりました。
第7回 阿部寛さんのかっこよさ
糸井
ぜんぶ文字にするという堺くんに、
文字じゃないところから
受け取る大事な情報もある、
ということをわざと言ってみたいんですけど。
はい(笑)。
糸井
あの、たとえば、
「ちっちゃいジャイアント馬場」が
いたとしますよね。
えっ、ぇぇえ?
写真
糸井
仮に(笑)。
いま急に思いついただけなんだけどね。
会場
(笑)
糸井
このくらいのちいさいジャイアント馬場がいて、
「ぼくのプロレスを見てください」って言ったら、
やっぱりそれは大きさが足りなくて
おもしろくない‥‥あ、これはこれで、
なんかめずらしいからおもしろいか?
この例は、まちがったかな‥‥。
(笑)
糸井
でも、まあ、
「ジャイアント馬場」を期待する人は、
「え、こんなちっちゃいの?」って
なっちゃいますよね。
期待とは違うものを受け取っちゃいますね。
ジャイアント馬場さんはやっぱり大きくないと。
糸井
そうだと思うんですよ。
動きとか技がみんな同じだとしても
ダメですよね。
写真
ダメですね。サイズ感は大事ですね。
糸井
そういうことを人は感じ取ってますよね。
同じことを、
阿部寛さんで、ぼくは感じました。
糸井
あ、阿部寛さんは、デカいですよね。
阿部さんは、デカいし、
ただ台詞をしゃべってるだけでも、
なんというか、ぜんぜん違うんですよ。
おもしろいところはものすごくおもしろいし、
かっこいいところは
ため息が出るぐらいかっこいいんです。
でも文字にしてみたら、なんてことない。
糸井
はい、はい(笑)。
ジャイアント馬場さんも、
ロープからこう入ってくるだけで、
うわぁって見惚れちゃうと思うんですよ。
阿部寛さんもそれと似ていて。
糸井
うん、うん(笑)。
モンゴルの砂漠に負けない阿部寛。
写真
会場
(笑)
それはもう、
文字で書きようがないじゃないですか。
でも、しゃべってることは、なんか、
「突入だ!」とか言ってるだけなんですよ。
写真
糸井
あははははは。
会場
(笑)
そのかっこよさは、たぶん、
『VIVANT』の脚本を書いてる福澤監督も‥‥
あっ、福澤さんは、わかってるかもしれない!
糸井
むしろ当て書きをしてますよ、明らかに。
福澤さんはやってますね。
糸井
やってるでしょうね。
でも、いまの話全体を感じ取っている、
ということは、あなたは見る側としては
ぜんぶわかってるということじゃないですか。
はい。
糸井
そのへんを知っていて、
たぶん判断もしてるじゃないですか。
してます、してます。
糸井
ということは、文字だけじゃないですよね。
写真
‥‥不得手だと思ってるのかなぁ。
糸井
どうなってるんだろう。
文字しか最終的には再現できないというか、
再現できないことは、それはなんか、
大きなおまけなんですよね、ぼくにとって。
糸井
ああ、なるほど。
はい。できても、おまけ。
だから、それができないとしても、
お給料の分は働きたい、というか。
糸井
たとえば、堺くんは台詞を言っているときに、
目の大きさだって変えてるわけでしょ。
カメラがいまここを撮っているから、
目を見開く、みたいに。
はい。それは基本的な技術ですね。
糸井
ということは、そこは言葉にできている。
できてます。
糸井
それ以外に、あとで見返したら、
これのおかげでよかったなみたいなことも、
あるでしょう。
テイクを重ねていくと、ありますね。
たとえば、声が出なくなりそうなときに、
ちょっとかすれた声でしゃべって、
「あれ、いま、どこに力を入れてるんだろう?」
というようなときは、
予想しない演技になったりします。
糸井
それを意図してやったりはしない?
ぼくはしないし、できないですけど、
『VIVANT』の福澤監督はきっとやってますね。
福澤監督ってほんとうに
おもしろい撮り方をするんです。
彼はラグビーの選手なんですけど、
人間の体力的な限界を知ってるんですよ。
たとえば、テイクを何回も重ねるとき、
あまりに何回も何回も回数を重ねていくと、
人は防御本能で少し手を抜くんですよ。
それをさせないために、
力を抜くぎりぎりのところでやめるんです。
写真
糸井
ああー、おもしろいですね。
28回テイク重ねるとしたら、
26回目ぐらいで、あと1回で限界だと思って、
カメラ位置の編成を変えて、
最後に撮れるやつを27回目で狙う、みたいな。
糸井
だんだん選手の方もわかってくるでしょうね。
そうですね。
でも、ゲストの方が多い現場なので、
ゲストの方は最初、戸惑われますよね。
糸井
ここまでさせるんだ、って。
びっくりされますね。
「まだやるんですか?」みたいな。
糸井
堺くんはもう慣れてるんですね。
ぼくは『半沢直樹』からやってるので(笑)。
「もう何回目だ?」っていう
会話が出なくなったころに終わる。
数えてるうちは終わらない。
糸井
すごいですね。
すごくめずらしい例でいうと、
『VIVANT』のときに、
いろんな波長がうまく合っちゃって、
1回目のテイクで
「もう、これ以上できません!」っていうのが
撮れちゃったことがあるんですよ。
そしたらカメラ位置をぶわーっとぜんぶ変えて、
あと2回で終わるようにしてくれたんです。
「あと2回で終わりますから」って。
糸井
でも、そこで終わりにはしないんだね。
いま100点なんだけど、あと2回撮れば
もっと高い点数が出るかもしれない。
そうですね。
「死ぬ気であと2回やれ」っていう
メッセージだと僕は思ったんですけど。
糸井
そのあたりはスポーツとも似てますね。
チームのメンバーを壊さないようにするってことと、
その人たちの力を最後までぜんぶ発揮させて、
すごくいいプレイをさせよう、
っていうのと兼ね合いですよね。
ああ、そうですね。
写真
(明日に続きます)
2026-09-07-MON