国語とからだの役者論 国語とからだの役者論
『VIVANT』や『半沢直樹』シリーズなど、
大ヒット作品に主演し、
いまや日本を代表する俳優のひとりとして
誰もが認める堺雅人さんは、
じつは20年以上前から
ほぼ日とつながりがあるんです。
糸井重里ともときどき会って、
濃く長いやりとりを交わす仲。

そんな堺さんと糸井が「生活のたのしみ展」のときに
開催されたトークショーでたっぷり語り合いました。
思えば、ふたりの公式な対談はほとんどはじめて。
堺雅人さん独特の役者論から学生時代の思い出まで、
思った通り、いえ、思った以上に
おもしろい時間になりました。
第5回 学生演劇の荒海
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書かれた台詞をできるだけ
そのままやりたいとぼくが思うのは、
学生時代の演劇の経験が
大きいのかもしれないです。
学生のころ、演者の台詞が飛んで、
ほんとうにグダグダになった舞台を
何度も何度も観ているんで。
糸井
自分はやるまい、と。
なんというか、もう目も当てられない状況が
そこに繰り広げられるわけです。
書いた側が、一生懸命、本筋に戻そうとして、
対応しきれない役者たちが右往左往するみたいな。
糸井
学生演劇ってそういう感じなんですか。
おもしろいときはすごくおもしろいんですけど、
ひどいときは、もう、
セーフティーネットがなにもない状態で(笑)。
糸井
ちゃんと聞いたことがないけど、
堺くんは学生時代、どういう場所で、
どういうふうに演じてた人だったんですか。
スターだったという噂は聞きましたが。
いやいやいや、とんでもない。
ぼくがいた早稲田の演劇研究会は
わりと即興劇団、というか、
即興をやらざるを得ないところだったんです。
脚本がなかなか上がってこなかったので、
結果的にフリーエチュードというか、
みんなで舞台を形にしてくような劇団で。
お題を決めて、アイディアを出し合って、
それを一本のお芝居にするんだけど、
ぜんぜんまとまらないときもあるし、
まとまるときもあるっていう。
糸井
それは、スリルがあっておもしろいですね。
いやいやいや(笑)、
ぼくは怖くてしょうがなかったです。
フリーエチュードというものの
おもしろさや有効性はたしかにあるんですけど、
ぼくは、「戯曲を読む」っていう、
国語だと思ってたわけですから。
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糸井
ああ、はいはい、そうか。
それは困りますね。
それと真逆のことをずっと6年間、やってました。
なにしろ、劇団に入って3年目くらいのときに、
鉛筆の持ち方を忘れちゃったんですよ、ぼく。
あれ、どっちで持つんだっけ? って。
糸井
え?
文字を書いたことがなかったんです。
書かなかったんです、2年間。
糸井
なにそれ。
ほんとうにお恥ずかしい話なんですが、
その劇団で「授業になんて出るな」って言われて、
ぼく、ほんとうに授業に出なくて。
そしたらそれは建前というか、
「出ないぐらいがんばれ」っていう
ことだったらしいんですけど、
ぼくは根が正直というか、あれなので、
本当に出なかったんですよ。
そしたら案の定、中退することになったんですけど、
2年間、文字を書かなかったら、あるとき、
鉛筆を右手に持つのか、左手に持つのか、
よくわかんなくなっちゃって。
‥‥ごめんなさい。ドン引きですね。
会場
(笑)
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糸井
そこまで聞くと、
ちょっとかっこいいと思いますよ(笑)。
そうですか(笑)。
糸井
要するに、荒海の中に飛び込んでいかないと
どうにもなんないなっていう場所に
あなたは立たされたんですね。
飛び込んだ覚えはなかったんですけど、
気がついたら荒海だったんです。
自分では、演劇だから本読みやって、
っていうプールのつもりだったんですけど、
荒海でした。
糸井
でも泳げたわけですよ。
泳ぎましたね。
糸井
岸にたどり着いたりもしてるわけですよね。
岸かどうか、わかりませんけど、
いちおう、泳いだ、ここにいるってことは。
糸井
生きてるんだからね。
お客もついてたわけですよね、お芝居には。
そうですね。
早稲田のお客さんには
ほんとうに育てられた感じがします。
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糸井
そのときのお客さんっていうのは、
きっと自分と似たような人たちなんだろうね。
自分でも演劇やってるような人とか。
そうですね。
糸井
サークルというか、
同人雑誌だから、一種の。
そう、ゴスペラーズのリーダーの
村上てつやさんとかが、
隣の劇団だったんですよ。
だから、当時は演劇仲間として、
音響とかも手伝ってくださったりして。
糸井
ああ、そういう人たちが増えて、
客席にいたり、自分が客席から観てたり。
そうです、そうです。
なんならスタッフ席にいたりもして。
糸井
なるほどね。
そのときは、ある種、アートというか、
表現者の入口にいるような感じ?
アート‥‥いや、なんか、
自分をあまりアーティストだとは思わなくて。
ある時期からは、それをちょっと、
よくないことなんじゃないかなって
思ったりもしてたんですけど。
糸井
アートよりも、
もっと再現可能なことをやりたかった。
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はい。なんか、
すごいことをやってるんだと
自分で言い聞かせる学生時代の自分が
あんまり好きじゃなかったというか。
糸井
きっと、まわりのみんなは、
自分たちはすごいことをやってるんだと
言い合ってたでしょうから。
なんかそれが、一人前じゃない感じがして。
糸井
大きいことを言いますからね、
「おまえの中には魂がない」的な。
とか、とか、とか、とか(笑)。
写真
糸井
でも、一回りぐるっと回ると、
また魂とか興味が出てきたりね。
でもそれは、自分たちで言うことではなく、
お客様が言ってくださることばだなと。
糸井
あー。
自分としてはふつうのことをやっていて、
魂がとか、世界が、っていうのは、
まわりの方が言ってくだされば、
それでいいんじゃないかと思ってました。
(明日に続きます)
2026-09-05-SAT