飾り立てれば飾り立てるほど心は裸になっていく。
── それでは、レ・ロマネスクの誕生秘話を
こっそり教えてください。
TOBI 実は‥‥。
── はい。
TOBI 何となくはじまって
何となく続いちゃってるだけなんですよ。
── ‥‥結成したのは、パリですか?
TOBI はい、パリです。
まずは僕たち、「別々に行った」んです。

MIYAはフランス語を勉強しに、
僕はワーホリ(ワーキングホリデー)で。
── つまり、おふたりとも
渡仏の際、まさかこんなことになるとは
思ってもいなかったわけですよね。
TOBI まったく。
── とすれば、「何となく」の中にも
何か、きっかけがあったと思うんですが。
TOBI 渡仏当初、お金を稼ぐために
日本人向けのフリーペーパーの編集部で
アルバイトをはじめたんです。
── TOBIさんが、ええ。
TOBI そこで三行広告の打ち込みをやってたんですが
ある日「急募」みたいなのが来たんです。

「急募:歌を歌ってくれる人」
「急募:ちょっとステージに立ってくれる人」
みたいな。
── ははあ。
TOBI 掲載から何日か後、その広告を載せた人に
料金の件で電話したとき、
「まだ、応募が一通も来てないんだよね」
「はあ」
「あなた、歌えない?」
みたいなやりとりになったんです。
── ‥‥話としておかしくないですか、それ。
TOBI 当然、はじめは「何を言ってるんだろう?」って
思いましたけど、そのうちに
「でもまあ、記念にいいか」という気持ちになり、
思い出づくりに1曲、歌ってみようかなと。
── つまり、それが、きっかけ?
TOBI ひとりで出るというのもアレなので
知り合いのMIYAを誘い
レ・ロマネスクを結成したんです。
── 何を歌ったんですか?
TOBI まだ日本にいるとき、
「内山田洋とクール・ファイブ」みたいな
僕がボーカルで
後ろにコーラスの人が何人かくっつくという
バンドを組んでまして、
5回くらい、ライブをやったことがあって。
── ええ。
TOBI そのことを思い出しまして、
当時、ライブで演奏していたオリジナル曲を
フランス語に訳して歌いました。

で、そのとき、やっぱりちょっと照れがあり、
こんなような格好をして出たんです。
── じゃ、この麗人&メイド風のスタイルは、
初ライブのころからすでに確立されていたと。
TOBI はい、ステージの上で緊張しないようにと、
金のカツラを被ったり、
派手な洋服を着たりして歌いました。

ここまで「プロ仕様」ではないですけれど。
── あの、何となくわかる気もするのですが、
見た目がこうだと
「恥ずかしくなくなる」もんなんですか?
TOBI 恥ずかしくなくなります。
── 超目立つじゃないですか。
なのに、恥ずかしくなくなるんですか。
TOBI 恥ずかしくなくなります。
ウソだと思うならやってみてくださいよ。
── そういうもんですか‥‥。
いや、こういう格好をしたことないので。
TOBI あ、そうなんだ。
── ないですよ(笑)。

パーティグッズの「鼻メガネ」くらいなら
なくもないですけれど。
TOBI それだけだって、だいぶちがうでしょう?
── ‥‥すこし陽気になるかもしれない。
TOBI そうでしょう? その積み重ねなんです。

僕たちだって、
装飾品がひと品ずつ増えていくとともに‥‥。
── ええ。
TOBI 心は裸になっていったんです。
── 外見を派手に飾り立てれば立てるほど
心は裸に? ‥‥深いです。
TOBI はじめてのステージは
フランス人向け日本語学校の秋祭りでした。
── あ、ようするにじゃあ、
そこへ出てくれる人を募る広告であったと。
TOBI フランス人が見よう見まねで書いた
「希望」とか
「明日」とか
「夢」とかの前で歌って踊りました。
── 手元の資料によりますと
その記念すべき初ステージが、2000年10月。
TOBI そう、で、そのステージを見ていた
別のフランス人が「うちにも出てくれよ」と。

そこからオファーがバーッと来ちゃったまま、
何となく、今にいたるんです。
── つまり、「オファーが途切れていない」ので
レ・ロマネスクを続けてきた‥‥と?
TOBI もう13年くらいやっていますが、
感覚的には、それに近いかもしれませんね。

プラス、
「断り切れない」という気の弱さもあって。
── 「オファーが途切れなく来る」のと
「気が弱くて断り切れない」のとで、13年も。
TOBI ええ。
── じゃあ、その1発目のパフォーマンスから
すごく「いい出来」だったんですかね。
TOBI いやあ‥‥ただ珍しかっただけで、
はじめは、出来なんかよくなかったですよ。

オファーくれた人も
「次は、フランス語でやってくれ」って
言ってましたし。
── ‥‥フランス語でやってるのに。
TOBI そう。

「おもしろかった! すごいよかったよ!
 ただ、次はフランス語でやってくれ」

‥‥まったく通じてなかったんですよ。
── でも「パリでいちばん有名な日本人」は
かように
偶然の重なり合いから生まれたんですね。

その点、MIYAさん‥‥。
MIYA セ・ラ・ヴィ(人生って、そんなもの)。
TOBI だからいま、はじめのころのことを思うと
本当に、無茶苦茶でしたよ。

言葉もできない、友だちいない‥‥。
── いろいろご苦労もなさったでしょう。
TOBI そうですねえ、それなりには。
強盗にピストル向けられたりとか。
── えぇ!?
TOBI 二人組の銀行強盗と3人きりで、
エマージェンシー的なシャッターを
閉められちゃったことがあって。
── よ、よくぞご無事で。
TOBI 当時、フランスに到着したばかりのころで
まったく言葉がわからなかったんです。
── もしかして、それが幸いしたんですか?
TOBI 強盗、ピストルこっち向けて
ずっとフランス語をしゃべってるんですけど、
もう、何言ってんだか。
── ‥‥はあ。
TOBI そのとき『はじめてのフランス語』という本を
持っていたので
必死に調べて
「フランス語がわかりません。
 フランス語がわかりません。
 フランス語がわかりません」
と、カタカナで言い続けたんですよ。
── どうやって、そのピンチから脱出したんですか?
TOBI 屈強な黒い人が助けに来てくれたんです。
── なんたる恐ろしい体験‥‥。
TOBI 最後、犯人たちは
天井に2発撃ち込んで逃げて行きました。
── そんな経験をされたから
ステージ度胸もついたってとこあります?
TOBI いやいや、それどころじゃないから。
── ですよね‥‥。
<つづきます>
伝わレレレ
現在、Eテレ(NHK教育)で放映中の
小学生向け国語の教育番組
『お伝と伝じろう』テーマ・ソング。

2013-08-20-TUE